川根紀夫

【最終回】手話通訳士への道「ー終わりにー」

 意地の悪い私は、「コーダ(ろう者の両親のもとで育った聞こえる子)」なので、勉強会などで手話通訳が用意されているとき、次のように自己紹介することがあります。 私は「コーダ」です。よく「あーだこーだ(コーダ)」とうるさい川根といわれています。 というと聞こえる人からは笑いが漏れますが、ろう者からの笑いはほとんどありません。 「あーだこーだ」を、ある通訳は、「あーだ」を人差し指で左...

【第23回】手話通訳士への道「手話通訳のやり方」

今回は、手話通訳士・者のあり方・動き方をふまえ、やり方について考えてみたいと思います。私は現場に出向いたとき、通訳を利用する人たちの関係性や話題等から、どのような「やり方(通訳)」が求められているのかを考えます。当然事前にわかっていることもありますが、現場で知る生の情報を生かす2つの決め手を紹介します。一つ目は、次の10の柱からなる「手話通訳に対する期待の内容」です。これは、ろう者の期待ですが、...

【第22回】手話通訳士への道「運動にみる手話通訳(士・者)のあり方・動き方」

 第19回~21回では法令による手話通訳(士・者)のあり方を紹介しました。  細かく分けると、手話通訳事業のあり方、手話通訳のあり方、手話通訳士・者のあり方に分けられるのですが、手話通訳士・者のあり方に絞らせていただきました。読まれた皆さんが、手話通訳のあり方、さらには手話通訳事業の手話通訳提供のあり方にまで膨らませていただけることを期待しながらまとめたものです。  さて、この「あり...

【第21回】手話通訳士への道「法令にみる手話通訳(士)のあり方と手話通訳士の危機的状態-その3」

 手話通訳事業の担い手である手話通訳士・者も税を財源とする事業を任っている点で公務員とその責任、役割は同じと考えられることを前回紹介しました。  今回は憲法に基づく法律から手話通訳(士・者)のあり方を考えてみることにします。  本題に入る前に、社会福祉事業とは何か少し深めてみましょう。社会福祉用語辞典では、「社会福祉を目的とする事業のうち、社会福祉法をはじめとする行政関与の仕組み(規...

【第20回】手話通訳士への道「法令にみる手話通訳(士)のあり方と手話通訳士の危機的状態-その2」

1.社会保険と税 前回、「みんなの負担」と言われている「税」を財源に働く公務員のあり方、仕事のやり方が人権保障にあることを紹介しました。 これまで触れてきたように、国民の必要を満たすために、みんなで負担し合う税の仕組みは憲法が描く社会をつくるための原資です。みんなで負担し合い、支え合う財源である税は、国会で決めた法に基づいて強制的に徴収されます。なぜ強制的に徴収できるのかについて、神...

【第19回】手話通訳士への道「法令にみる手話通訳(士)のあり方と手話通訳士の危機的状態-その1」

連載の第6回、第7回で手話通訳事業の法的な位置(第2種社会福祉事業)づけを紹介しましたが、今回は法令から手話通訳(士・者)のあり方を取り上げてみます。 社会福祉法の手話通訳事業、身体障害者福祉法の手話通訳事業、障害者総合支援法の意思疎通支援事業の手話通訳関係事業(遠隔手話サービス)が法令の規定に規定する社会福祉領域における手話通訳事業です。この社会福祉領域の手話通訳事業は、税を財源としてい...

【第18回】手話通訳士への道「ろう者の国民主権の現状と手話通訳士(者)の職業病」

1.目指す社会と未熟な社会 公務員である手話通訳士・者は当然のことながら、第5回で紹介したように、第2種社会福祉事業に規定する手話通訳事業の原資は税なので、業務上民間で活躍する手話通訳士・者も「憲法の目指す社会の実現」に責任を負うことが求められています。 その責任とは、「憲法とは、国民の人権を守るためにあるというのが世界の常識」(監修上田勝美『13歳からの日本国憲法』かもがわ出版、2...

【第17回】手話通訳士への道「私を支えた『運動・人・実践』」

私が手話通訳士への道を歩み続けられたのは、ゆがんだ人間観、社会観といった自分自身のゆがみと向き合うことを余儀なくされた通訳実践のおかげです。つまづいたり、自己嫌悪に陥ったりしたとき、いつも私を救ってくれたのは、ろう(障害)運動、手話通訳運動などに係る障害のある人はじめ多くの仲間たちでした。そして、社会のゆがみに対しては、行政施策の見直しや運動側に返す取り組みが用意され、ろう者の人権をめぐる運動と...

【第16回】手話通訳士への道「手話通訳士(者)の仕事を考えてみます Vol.3」

第14回、15回は、聞こえること、音声言語が前提の社会で生きるろう者・手話言語を通じて未熟さについて考えてみました。 全日本ろうあ連盟出版局の「新しい聴覚障害者像を求めて」のP314と、故市川恵美子さんの「手話通訳のあり方・動き方」P38に、このことが的確に表されている箇所があったので補強する意味で紹介します。 先ず「新しい聴覚障害者像を求めて」からです。 12歳の時失聴した、...

【第15回】手話通訳士への道「手話通訳士(者)の仕事を考えてみます Vol.2」

前回は、聞こえること、そして音声言語が前提の社会で暮らすろう者の通訳に対する認識、そのことをふまえた手話通訳士(者)の動き方、仕事のあり方・やり方、そして通訳を通じての人間育ちについて触れてみました。 多くのろう者は「通訳はお願いして」用意できるものと考えているようです。 実際のろう者の認識からすると、人権施策とは程遠い状況にあると考えているのは私だけではないと思います。 私が...

【第14回】手話通訳士への道「手話通訳士(者)の仕事を考えてみます」

前回、「コロナ禍の手話通訳士(者)の仕事について」一般社団法人日本手話通訳士協会副会長の高井洋さんから課題となった点について報告していただきました。 コロナ禍、社会活動の制限により手話通訳依頼が激減し、手話通訳事業の存立さえ危ぶまれる状況が生まれ、手話言語通訳人材、手話通訳士(者)の身分保障などの課題も浮き彫りになったとの報告でした。 社会活動の制限は、手話言語通訳派遣事業所の存立が...

【第13回】手話通訳士への道「 コロナ禍 手話言語通訳者の仕事がどう変わったか 」

2023年5月、新型コロナウイルス感染症の位置づけが、いわゆる2類相当から5類感染症に変更となりました。 そこで、「コロナ禍の手話言語通訳者の仕事について」一般社団法人日本手話通訳士協会副会長の高井洋さんに課題となったことを中心に振り返ってもらいましたので紹介します。 *** 一般社団法人日本手話通訳士協会 副会長 高井洋 今回、川根さんからコロナ禍での手話通訳者、...

【第12回】手話通訳士への道「 中間まとめ 」

連載が始まり何とか1年を迎えることができました。過去の原稿を読み返し、乱暴だな。誤字脱字など目に付くな。と反省しつつ原稿書きしていた時の様子を思い起こしたり良い時間を過ごしました。今回は、連載を振り返り、中間のまとめをしておきたいと思います。 未熟な通訳  ここでは、私の通訳レベルの前期を紹介します。「オギャー」と生まれた大方の赤ちゃんは、1年経つと、立ち上がり、歩くようにな...

【第11回】手話通訳士への道「未熟な社会と未熟な私 Vol .2」

 前回は、適性試験の場での未熟な手話言語通訳者の川根を紹介しました。 今回も未熟な川根の紹介です。未熟な私の気づきの再確認といってもいいかもしれません。 前回、今回で、私の優れた通訳(?!)だけでは解決できないことがあり、解決のためには、みんなで、ろう者が困らない環境を作るために必要なことは何かを考え、共同して取り組む必要性について理解していただければ、目的達成です。 第4回で...

【第10回】手話通訳士への道「未熟な社会と未熟な私 Vol.1」

手話通訳を公の働きとして位置づけている手話通訳制度について第6回で紹介しました。 そして、第8回、9回で、憲法の描く社会像と未熟な個人意識、社会意識による現実の姿を考えてみました。 私たち手通訳の担い手は、制度的な位置づけから、より憲法に規定する人権、自由の守り手であり、平等の実践者であることが求められます。 私たち手話通訳の担い手の働きが、目指す社会像と現実の姿のはざまで展開...

【第9回】手話通訳士への道「『公』の働きを鈍らせる意識 Vol.2」

前回は、障害者に対する意識を未熟な個人意識、社会意識とに分けて取り上げてみました。 今回は、そんな社会の一端を取り上げ、考えたいと思います。 ●憲法の描く社会像との乖離 さて、私の食う、寝る、風呂など生活時間以外での時間の大半は、社会福祉領域での活動になっています。 社会福祉領域の暮らしというと、憲法25条第2項に代表される国家の役割をイメージする方が多いと思いますし、私...

【第8回】手話通訳士への道「『公』の働きを鈍らせる意識 Vol.1」

前回は、公の働きとして位置づけられている手話通訳制度を紹介しました。 なんとなくですが、第3回、第4回で個人意識と社会意識についてイメージできるよう触れています。 今回は、これまで触れていることをもう少し深め、次回につなげたいと思います。  特に、障害(者)に対する社会意識、個人意識です。 ●社会意識 ろう運動が作り上げた社会意識が反映し、手話通訳事業が法制化され「...

【第7回】手話通訳士への道「手話奉仕員・手話通訳者・手話通訳士となり、『公』の働きに従事した私」

●手話通訳事業 「公」の働きとしての社会福祉事業に手話通訳事業が位置づけられていることは前回紹介した通りです。 連載の第4回でふれた「手話奉仕員養成事業」を含む①手話言語の理解者と手話言語通訳者の養成、②手話言語通訳者の派遣、③手話言語通訳者の設置、そして④資格認定の4本柱になっています。 社会福祉法や身体障害者福祉法の手話通訳事業は、障害者総合支援法の地域生活支援事業(以下...

【第6回】手話通訳士への道「社会福祉の仕事としての手話通訳事業ー「公」の営み、手話通訳事業―」

ろう運動と、それを基盤にした手話通訳事業の歩み、そして、手話通訳活動は、十分な情報の取得とコミュニケーションの重要性を法制化した「情コミ法」を誕生させました。 「情コミ法」の誕生が、手話通訳事業の発展に責任を有する行政活動への期待について前回紹介しました。 では、社会福祉(障害福祉)行政にかかわってきた立場から通訳行為を考えてみます。 障害のある人たちに係る仕事をしていると、通...

【第5回】手話通訳士への道「情報の取得・コミュニケーションの重要性が「法」にー人権の質、ふくらみと広がりがー」

前回あたりから少しリラックスして書けるようになってきました。 緊張が少し…。あまりリラックスしすぎないように気を付けないととんでもない脱線をしそうです。身を引き締めて進めるように心がけますので今回もお付き合いください。 *** 手話通訳の担い手がほとんどいない中、手話奉仕員としてスタートした私です。 そんな私は、手話通訳に求められる資質は、そばにいるだけでいいという素朴な...

【第4回】手話通訳士への道「我が国(千葉県でも)初の手話奉仕員養成ー手話言語を学びはじめた私」

 千葉県ではじめての第1回手話奉仕員養成講座が開かれ、この講座に参加したことが手話通訳の担い手としての第1歩だったことは先に触れたとおりです。 手話奉仕員養成講座は、国(現厚労省)がはじめて手話言語を学ぶ場を事業化したものです。 事業名を見てわかるように手話通(・)訳者(・・)ではなく、手話奉仕員(・・・)の養成なので、通訳ボランティアの養成としてスタートしたものです。 この事...

【第3回】手話通訳士への道「私の意識と社会意識ー私の育ち その2」

今回は、私が経験した出来事から、私をはじめとする人々や社会が障害(者)をどう見ていたのか。を、考えていただくためにいくつかの出来事を紹介します。 ●先祖(親)の因果が子に報う  次の出来事は、今の私が子供のころの記憶を呼び起こしているので、私の記憶の一端であることをご理解ください。  小学校の高学年の頃だったと思いますが、二人の大人が家に来ました。  私に話したことを親に...

【第2回】手話通訳士への道「偏見と差別意識満載の私ー私の育ち その1」

 100坪の土地に多数派のろう者、少数派のきこえる者の環境で育ち、私の家が千葉県、千葉市のろう者の団体の事務所だったので毎日毎日たくさんのろう者が我が家に来ていたことを前回紹介しました。  毎晩のようにたくさんのろう者が、我が家の2間しかない(一部屋は父母の仕事部屋)我が家の6畳間を占拠していたのです。私の家での多数派は、半端ない多数派だったのです。にもかかわらず「手話もろう者も嫌い」な私...

【第1回】手話通訳士への道「先ずは私のこととこれから」

●はじめに  今日から連載のスタートです。  私は52年前(1970年度)、千葉県で開催された全20時間の第1回手話奉仕員養成講座を卒業し、手話言語通訳の道を歩み始めました。 私の両親はろう者(大雑把な整理ですがろう者集団に所属し、手話言語の話者とします。)だったので、手話言語が飛び交う環境で育ちましたが、差別意識満載の私は、手話言語を否定し、「ろう」を受け入れられず、避けて育...

【JITF2021】川根紀夫「ろう者の願い、手話通訳の理論・実践から手話通訳の思想を探る」

川根紀夫 手話通訳の担い手としての第1歩は、1971年(1970年度)、千葉県ではじめて開かれた全20時間の「手話奉仕員養成講座」(現在の手話奉仕員養成カリキュラムでは80時間)でした。よちよち歩きの私が、手話通訳士として成長できたことは、ろう者をはじめとする地域の仲間や全国の仲間の支えの賜物です。以下、私の中央団体の活動の一部を紹介します。 1974年、聴覚障害者福祉と手話...

第4回JACI特別功労賞 受賞者コメント

名誉ある特別功労賞の受賞にあたり、まず貴協会関係者のみなさまに心よりお礼申し上げます。 身に余る光栄な出来事に恐縮するとともに、戸惑いがありましたが、貴協会の決定を真摯に受け止めるべきだとの家族や手話言語通訳関係者の声から受賞を決断した次第です。 また、手話通訳士としての「私」があるのは、ろう者の権利保障を目指す「ろう運動」、手話言語の認知を求める「手話運動」、ろう者が自らの...

第4回JACI特別功労賞 川根紀夫

日本会議通訳者協会(JACI)は2018年に、通訳業および通訳業界に多大な貢献をし、その発展に寄与した個人および/または組織の功労を讃えることを目的に、JACI特別功労賞を制定しました。 厳正な審査を経て、第4回の受賞者は手話通訳者の川根紀夫氏に決定しました。 川根氏は手話通訳者として長期にわたり他の範となる実績を重ねてきました。実務に優れるだけではなく、時代の要請に応じた手...