【第7回】手話通訳士への道「手話奉仕員・手話通訳者・手話通訳士となり、『公』の働きに従事した私」

●手話通訳事業

「公」の働きとしての社会福祉事業に手話通訳事業が位置づけられていることは前回紹介した通りです。

連載の第4回でふれた「手話奉仕員養成事業」を含む①手話言語の理解者と手話言語通訳者の養成、②手話言語通訳者の派遣、③手話言語通訳者の設置、そして④資格認定の4本柱になっています。

社会福祉法や身体障害者福祉法の手話通訳事業は、障害者総合支援法の地域生活支援事業(以下「地域生活支援事業」という。)の一つとして具体化されています。 

では、②と③はまとめて、順次紹介します。

1. 資格

1989(平成元)年厚労省告示でスタートした手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験)は、2009(平成21)年3月31日身体障害者福祉法の規定に基づき、手話通訳を行う者の知識及び技能の審査・証明事業の認定に関する省令となり法制化されました。

下の図を見てわかるように奉仕員を含めると3層の資格制度となっていることがわかると思います。

厚労省は、手話通訳士を除いて、養成にあたって、カリキュラムを示していることも注目すべき事項といえます。今後、手話通訳士養成カリキュラム策定に踏み出すことを期待しているのは私だけではないと思います。

2.養成・認定

【手話通訳者】

「専門性の高い意思疎通支援を行う者の養成研修事業実施要領」で都道府県、指定都市及び中核市を実施主体に、「手話通訳者・要約筆記者養成研修事業」が設けられ、養成講習を修了した者には、 登録試験を行い、合格者について、本人の承諾を得て、手話通訳者登録を行うことになっています。

【手話奉仕員】

「手話奉仕員養成研修事業実施要領」で、市町村、特別区、一部事務組合及び広域連合を実施主体に「手話奉仕員養成研修事業」が設けられ、養成講習を終了した者には、本人 の承諾を得て奉仕員としての登録を行うことになっています。

③設置・派遣

「意思疎通支援事業実施要領」で、市町村、特別区、一部事務組合及び広域連合を実施主体とする「手話通訳者を派遣する事業」「手話通訳者を設置する事業」が設けられ、②の登録された手話通訳者がその担い手となります。

また、「専門性の高い意思疎通支援を行う者の派遣事業実施要領」で、複数の自治体の住民が参加する事業や市町村で対応が困難な派遣の場合など都道府県、指定都市及び中核市を実施主体に、「専門性の高い意思疎通支援を行う者の派遣事業」が設けられています。

手話通訳事業は、1980年代に飛躍的な発展を遂げました。

1981年といえば「国際障害者年」でした。この国際的な潮流が、ろう運動、手話通訳運動を後押しし、手話通訳事業を発展させたことは否定できない事実だと思います。

手話通訳事業の発展は、手話言語についての認識を深め、広げることになりました。

手話言語についての認識は、2010年代の動きが特徴的で、とりわけ、国に「手話言語法の制定を求める意見書」が全国すべての地方議会で採択されたことです。

下記の年表を見てもらうとそのことが理解できると思います。

●手話の言語的認知

 障害者権利条約の批准に向けた国内法の整備に伴い 2011(平成23)年「障害者基本法の一部を改正する法律案」の可決により障害者基本法の改正が行われました。

手話に関しては次の通り、第3条に第3号が加えられました。

  (地域社会における共生等)
第三条

三 全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。

手話言語についての認識は、「公」の働きとしての手話通訳事業の歩みと障害者権利条約の批准が大きく影響していると思っています。

今回は、手話通訳事業の概要を紹介し、手話通訳事業の歩みが手話言語の認識を深めたことを紹介しました。ゆがんだ人間観、差別意識にまみれた私が、手話通訳事業の発展と手話言語の認識の広がりから学び、成長してきたことを感じ取っていただければこれほどうれしいことはありません。社会発展、社会意識が個々の人間に影響を与えるからです。

次回は、私の手話言語通訳活動の経験を振り返り話を勧めたいと思いますので、お付き合い宜しくお願いします。

【参考】


川根紀夫(かわね のりお)

手話通訳士。1974年、聴覚障害者福祉と手話言語通訳者の社会的地位の向上のため、手話言語、手話言語通訳や聴覚障害者問題の研究・運動を行う全国組織である「全国手話通訳問題研究会」の誕生に伴い、会員に。1976年、手話言語通訳の出来るケースワーカーとして千葉県佐倉市役所に入職。1989年、第1回手話通訳技能認定(手話通訳士)試験(厚生労働大臣認定)が始まり、1991年には、手話通訳士の資質および専門的技術の向上と、手話通訳制度の発展に寄与することを目的に「一般社団法人(現)日本手話通訳士協会」が設立され、1993年、理事に就任。日本手話通訳学会、日本早期認知症学会、自治体学会に所属。第4回JACI特別功労賞受賞者。