【第21回】手話通訳士への道「法令にみる手話通訳(士)のあり方と手話通訳士の危機的状態-その3」

 手話通訳事業の担い手である手話通訳士・者も税を財源とする事業を任っている点で公務員とその責任、役割は同じと考えられることを前回紹介しました。

 今回は憲法に基づく法律から手話通訳(士・者)のあり方を考えてみることにします。

 本題に入る前に、社会福祉事業とは何か少し深めてみましょう。社会福祉用語辞典では、「社会福祉を目的とする事業のうち、社会福祉法をはじめとする行政関与の仕組み(規制)の対象となる事業。具体的には、経営主体の規制、都道府県知事等による指導監督がなされる。第一種社会福祉事業と第二種社会福祉事業に分かれる。」(『六訂社会福祉用語辞典』中央法規出版P243)と、行政が関与する事業であると解説しています。

なぜ行政が関与するのかと言えばそこに税が介在するからです。

手話通訳事業は、この税を活用して展開しています。したがって手話言語通訳を必要とする人すべてに提供しなくてはなりません。手話通訳士・者の働きは、この税を財源に行政活動の一つとして行うことから個人として尊重され、人権が守られ、「健康で文化的」かつ「平等」な生活の実現が目的だといえるのです。

では、次手話通訳士・者のあり方の基本的な考え方について、そして、基本的な考え方を踏まえて私たちが(3)で心して取り組むことについて考えてみましょう。

1.手話通訳事業の社会的位置づけ

 では、法律に規定する手話通訳事業の位置づけです。

手話通訳事業は、2000(平成12)年社会福祉基礎構造改革に伴う社会福祉法の改正により第2種社会福祉事業に位置付けられました。では社会福祉法です。

(1)社会福祉法

社会福祉法は、社会福祉を目的にする様々な事業の基本的な事項を定めたものです。

この社会福祉法に規定する理念と原則は次のように定められています。

(福祉サービスの基本的理念)

第三条 福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成 され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない。

(福祉サービスの提供の原則)

第五条 社会福祉を目的とする事業を経営する者は、その提供する多様な福祉サービスについて、利用者の意向を十分に尊重し、かつ、保健医療サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図るよう創意工夫を行いつつ、これを総合的に提供することができるようにその事業の実施に努めなければならない。

次に障害者基本法です。

(2)障害者基本法

 障害者基本法は、社会福祉領域だけでなく、さまざまな分野の障害者施策の基本原則を定めたものです。

 では、この法律の施策の基本的な考え方を見てみましょう。

(地域社会における共生等)

第三条 第一条に規定する社会の実現は、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを前提としつつ、次に掲げる事項を旨として図られなければならない。

一 全て障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること。

二 全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと。

三 全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての

(医療、介護等)

第十四条 中略

四 国及び地方公共団体は、第一項及び前項に規定する施策を講ずるために必要な専門的技術職員その他の専門的知識又は技能を有する職員を育成するよう努めなければならない。

次は身体障害者福祉法です。

(3)身体障害者基本法

 身体障害者福祉法は、わが国の身体障害者福祉の対象となる者の基準を定め、そのものの福祉増進を図ることを目的にした法律です。

(法の目的)

第一条 この法律は、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)と相まつて、身体障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するため、身体障害者を援助し、及び必要に応じて保護し、もつて身体障害者の福祉の増進を図ることを目的とする。

(自立への努力及び機会の確保)

第二条 中略

二 すべて身体障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする。

 次は、障害者総合支援法です。

(4)障害者総合支援法

 障害者総合支援法は、障害者、障害児を対象に福祉サービスの一元化をはかるものです。

障害者総合支援法

(基本理念)

第一条の二 障害者及び障害児が日常生活又は社会生活を営むための支援は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、全ての障害者及び障害児が可能な限りその身近な場所において必要な日常生活又は社会生活を営むための支援を受けられることにより社会参加の機会が確保されること及びどこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと並びに障害者及び障害児にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものの除去に資することを旨として、総合的かつ計画的に行わなければならない。

社会福祉関係法の考え方を紹介しました。

とりわけ税を財源とし、福祉サービスの提供に係る手話通訳事業者とその担い手である手話通訳士・者は、各法律の横断的な理念と原則である社会福祉法の理念と原則に拘束されるのです。

私たち手話通訳士・者のあり方が法律に現れていることを紹介できたとすれば今回の目的は達成したといえます。

2.手話通訳士の危機的状況

連載の第18回で手話通訳士・者の職業病について紹介しました。

今回は、全国手話通訳問題研究会が5年に1回行っている「健康調査」から手話通訳士・者の健康状態について考えてみます。

特徴的な出来事は、雇用された手話通訳士・者としての業務の継続をみると、将来も続けるとしている人は、2005年が33%だったのが2020年には42.1%と増加していますが、やめたいと思っている人も2005年の13.6%が2020年は14.5%と増加しています。事業継続の上で、辞めたいとする人を減らすことが大切なことは言うまでもありません。

 やめたい、続けられないかもしれないと回答している人の理由をみると、体力、健康上の理由をあげている人は2005年が37.1%だったのが2020年には44.8%、年齢をあげている人は2005年が5.7%だったのが2020年には44.3%と飛躍的に増えています。年齢構成の影響を受けていると考えられます。養成が課題となっていることが考えられます。

さらに、人手不足、高齢化、高い緊張などによる負担等手話通訳士・者の働き方にも問題があり、健康をめぐる課題となっているように思われます。

 詳細は全通研のホームページ一般社団法人 全国手話通訳問題研究会(全通研)雇用された手話通訳者の労働と健康についての実態に関する調査研究(2020年8月調査)をご覧ください。


川根紀夫(かわね のりお)

手話通訳士。1974年、聴覚障害者福祉と手話言語通訳者の社会的地位の向上のため、手話言語、手話言語通訳や聴覚障害者問題の研究・運動を行う全国組織である「全国手話通訳問題研究会」の誕生に伴い、会員に。1976年、手話言語通訳の出来るケースワーカーとして千葉県佐倉市役所に入職。1989年、第1回手話通訳技能認定(手話通訳士)試験(厚生労働大臣認定)が始まり、1991年には、手話通訳士の資質および専門的技術の向上と、手話通訳制度の発展に寄与することを目的に「一般社団法人(現)日本手話通訳士協会」が設立され、1993年、理事に就任。日本手話通訳学会、日本早期認知症学会、自治体学会に所属。第4回JACI特別功労賞受賞者。