【第5回】通訳・翻訳学習記-ミドルベリー国際大学院編「通訳の実務経験あふれる夏休み①」

皆さん、こんにちは! 丹羽つくもです。今回は、私の夏休みの経験について書きたいと思っています。

東京オリンピックでリモート通訳!

在学中に、なんとオリンピック関連の通訳の経験をしてしまいました。これも、様々な偶然が重なって可能となったことでした。

まず、皆さんがご存じの通り、夏季オリンピックの東京開催はコロナの影響により2020年から2021年に延期になりました。それにより、私にとっては幸いに、1年間フルタイムで学習した経験ができました。それから、コロナ禍が続く中での入国制限。オリンピック関連の入国も厳しく制限され、必要最低限の人材しか入国できなかったため、通訳もなかなか呼び寄せられることができないという現状がありました。それがあって、試合前後の記者会見の通訳は、リモートで行うことになったそうです。

私が東京オリンピックのリモート通訳(ジュニア通訳)インターンシップについて初めて聞いたのは、開催2ヶ月前、5月のことでした。MIISの評判をもとに、主にMIISの在学生や卒業生から採用を行っていたようです。日本語を始め、韓国語、中国語、スペイン語、フランス語、イタリア語、ポルトガル語、アラビア語などのジュニア通訳がいました。私たちが担当したのは、試合前後に、監督と選手が参加して行われた記者会見です。野球・ソフトボール、バスケットボール、ハンドボール、サッカー、ホッケーの各競技を担当しました。特に日本語の通訳は、日本が開催国として全競技に出場していたため、合計7人のチームで50近くの記者会見をカバーしました。MIISに入学を決意したころには、オリンピックという大舞台に関われるなんて想像もしていなかったのですが、MIISのネットワークの力はすさまじく、このような素晴らしい体験をすることができました。

Olympic Japanese Team

準備段階

本格的な準備は6月下旬から始まりました。日本語チームは、毎日決まった時間に2時間練習会を行い、日替わりで各競技について一緒に勉強をしました。練習は、競技の説明動画や、過去の記者会見などの動画を探して行いました。他にも、共有フォルダに選手リストをまとめたり、主要なスポーツ報道機関を調べたり、ルールや反則などを覚えたりしました。また、通訳環境のセットアップについて意見交換をしたり、フルタイムの仕事とのバランスを考えたりもしました。このインターンシップに参加した人の多くが、日中は他の仕事をしていたため、寝不足に悩まされたようです。(ニックさんも私もそのうちです。)

開催1週間前になると、日本各地の会場の記者会見場がセットアップされ、そこで実際の記者会見を想定したリハーサルが行われました。実際にありそうな質問の内容などをリアルに再現して、各言語のジュニア通訳に練習させてくれたので、初心者としてはとてもありがたかったです。最初はトラブルも多少ありましたが、実際の記者会見では音声も映像もクリアだったので、通訳もしやすかったです。

いざ通訳

私が担当したのは、ほとんど全てが、日本時間夕方の試合後の記者会見でした。カリフォルニアにいた私は、連日朝3時に起きて、まずは担当する記者会見の試合を観ました。野球やソフトボール、サッカーなど、日本が得意とする競技が多くある時間帯だったので、どれも迫力ある試合でした。試合終了が近づいてくると、Microsoft Teams上で音声確認を行い、スタンバイをしました。試合終了後30分ぐらいで記者会見が始まりました。

会場のスピーカーから、姿の見えない私たちの声が逐次で流れていたことから、リモート通訳であった私たちは、会場で「天の声」と呼ばれていたそうです。Microsoft Teamsの画面で選手や監督の発言を見ながら、必死にノートを取り、多忙な記者、疲労困憊した選手のために正確かつ簡潔に届ける。その発言の内容は、日頃から世界を相手にする戦士さながらで、そのような経験の無い私は、この言葉の重みが伝わるのだろうか?と毎回自問しながら訳出していました。

授業と「本番」の一番の違いは、プレッシャーのかかり方だと思いました。授業の時は、聞いている誰もがバイリンガルであるため、正確さや表現、訳漏れなどが一番気にかかっていました。「本番」でももちろん気に掛けていたのですが、それよりも、スピード感、簡潔さが重要だと感じた場面もありました。姿の見えない逐次通訳だったため、スピーカーの中には私たちの存在を忘れてしまっていた人もいて、ある監督は気づいたら5分以上話していた、などということもありました。また、訳出の内容が教室の外にも広まっていくことを実感しました。オンラインでニュースサイトなどを見ると、たまに自分の訳した内容が記事になっていたり、知っている記者の名前が出てきたりして、達成感を味わうことができました。

Olympics Press Conference Site

以上、今回は東京オリンピックでのジュニア通訳としての経験を綴ってみました。次回はコンチーさんの夏期インターンシップについてで、その後はついに2年生の学習内容に入っていきます。これからもどうぞよろしくお願いします。


丹羽 つくも Tsukumo Niwa

2020年より米ミドルベリー国際大学院モントレー校(MIIS)在籍。10歳から海外子女として育ち、現在は米国在住。自動車部品メーカーにて社内通訳として3年間勤務した後、会議通訳者を目指してMIISへ進学。第3回 JACI 同時通訳グランプリの学生部門でグランプリを受賞。

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