【第1回】通訳・翻訳学習記-ミドルベリー国際大学院編「入学する前に調べたこと・やったこと」

皆さん、こんにちは! 丹羽つくもと申します。

今回から数回に分けて、私が現在通っているミドルベリー国際大学院 (Middlebury Institute of International Studies)についてご紹介させていただくことになりました。クラスメイトのニック・コンチーさんと交代で、入学するまでの準備や、授業の様子、モントレーでの生活についてなど、色々と書いていきたいと思っています。アメリカで唯一の日本語通訳の修士課程であるMIISでの勉強をご検討されている方に、少しでもお役に立てればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

入学を決断した流れ

私は、10歳のときからアメリカで海外子女として育ちました。アメリカに来てすぐは、両親も私も英語が全くわからず、何をするにも汗ばんだ手で電子辞書を必死に操っていました。幸い、私は子供で吸収が早かったので、1年半ほどで日常会話はできるようになりました。そのころから、電話の受け答え、買い物のレジでのやり取り、学校での面談などで、両親の通訳をすることが多くなりました。(このような形で、アメリカの移民コミュニティでは、子供が大人のために通訳をする家庭が数多くあります。)日本語の補習校や塾にも通える環境だったので、日本語・英語をパラレルに勉強して、ミシガン大学アナーバー校で学士課程を修了、やがて独り立ちしました。

その後ミシガン州の日系自動車部品工場とご縁があって、社内通訳・HR担当者として採用していただきました。お金をもらって通訳をするためには、しっかりとトレーニングをしなければ、と思い、逐次通訳・同時通訳・医療通訳などの講座を仕事の合間に受講しました。これが私の通訳人生の始まりです。その頃からMIISの卒業生などにお会いすることが数回あって、キャリアアップにはここしかない!と思い、出願をしました。

出願手続き

出願するにあたっては、大学卒業証明と成績証明書の提示、志願動機のエッセイなどが必要でした。また、”A language, B language, C language”が何かと聞かれます。A languageは、主に母語・母国語、ネイティブ言語、「第一言語」のことです。B languageは外国語として初めて学んだ言語、いわゆる「第二言語」です。C languageは、B languageよりも使う頻度は少ないけれども、読み書きなどは十分にできる、いわゆる「第三言語」以降です。特にヨーロッパ言語では、A⇔B両方向の通訳をするよりは、B→A、C→Aなどの一方向に特化する方も多いようですが、MIISの通訳の修士課程では基本的に両方向を訓練します。

他の通訳学校で勉強された日本語・英語の通訳仲間たちと話して気づいたのは、この分け方が一般的とは限らないということです。それでは、なぜMIISでは「第一言語」や「ネイティブ」という言葉を使わないのでしょうか。基本的に、「第一言語」や「母語」は、本人が一番長けている言語とされています。しかし、家で話す言葉と外で話す言葉が幼い頃から異なったり、家の中でも複数の言語を話たりして育つ人もいます。海外で育ったため、第一言語と母語が異なる人もいます。分野やシチュエーションによってはB languageのほうが使いなれている(例えば、大学で勉強した内容など)という人も多いです。このように、「英語ネイティブ・日本語ネイティブ」で割り切れない、言語環境の多様性も、MIISの特長だと毎日感じています。

入学試験の一環として、Language and Skills Test (LST)という言語能力テストを受けました。英語と英語以外の言語(私の場合、日本語)の行き来の能力や、モダリティの行き来の能力が問われる、JLPTや英検、TOEFLなどとも性質が違うテストです。翻訳・通訳の能力よりは、目で読んだ情報について、口頭でまとめることができるか?耳で聞いた情報について、自分の言葉で書いてまとめられるか?などの能力が問われました。テーマは社会問題やニュースの話題が多いので、日頃からアンテナを張って、新聞記事を読んだ後に口頭で説明してみたり、数分以内の動画で聞いた内容を文章でまとめたり、という練習を行いました。

また、アドミッションオフィスの方との面接も行いました。MIISの通訳・翻訳プログラムは、質の高いバイリンガルや業界経験者でも苦労するほどのハイレベルなプログラムなので、それを完走できる資質があるかを見極めるものだと思われます。

もし十分な業界経験がある場合には、Advanced Entry (AE)として出願することもできます。1年次のクラスを履修する必要なく、主に2年次のクラスのみを履修して、2年(4学期)のプログラムを1年(2学期)で修了できるシステムです。AEでの入学を希望する際には、1年次の期末試験レベル相当の試験を受ける必要があります。また、能力のある学生には奨学金(返済不要)も支給される場合があります。

学校の様子を知るためには、年数回行われるPreview Dayに参加されることをおすすめします。コロナ以前は、キャンパスで1日から2日かけて行われていました。コロナ以降は、オンラインにて、実際の教授が講義をしてくださったり、通訳の学生がデモンストレーションをしたり、現役生や卒業生と話す機会が与えられたりと、充実したプログラムになっています。

以上、今回はMIISの出願までの流れについてご紹介しました。長い記事ですが、少しでもお役に立てていれば幸いです。次回は、ニックさんから、合格してから入学するまでの流れについてご紹介します。お楽しみに!


丹羽 つくも Tsukumo Niwa

2020年より米ミドルベリー国際大学院モントレー校(MIIS)在籍。10歳から海外子女として育ち、現在は米国在住。自動車部品メーカーにて社内通訳として3年間勤務した後、会議通訳者を目指してMIISへ進学。第3回 JACI 同時通訳グランプリの学生部門でグランプリを受賞。

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