【第9回】柴原早苗の通訳ライフハックス!「時間別メニュー」

2020年が始まりました。今年は東京オリンピック・パラリンピックが開催され、アメリカでは大統領選挙が、芸術面ではベートーベンが生誕250周年を迎えるなど、色々なことが控えています。私自身、本年も健やかに通訳業務に勤しみたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、1月に入ってから早や数週間が経過しましたが、みなさん、調子はいかがでしょうか?「元旦に計画を立てたけれど、うーん、イマイチ」「お正月に太ってしまった…」「通訳学習をサボっていたら英語が出てこない」など、それぞれ悲喜こもごも(?)かもしれませんよね。でも、過ぎてしまったことはいくら悔やんでも元には戻せません。できることは「前を向いて行動をとるのみ」なのです。そこで今回は「時間別メニュー」と題して隙間時間にできることをご紹介します。時間の長さに応じてのメニューです。

1. 3分メニュー

i.AFNニュースのシャドーイング:ラジオのAM810キロヘルツに周波数を合わせると、American Forces Networkを聴くことができます。これは在日米軍向けの放送で、すべて英語です。大半は音楽(ロックやポップス)が流れているのですが、正時にはAP Network Newsが流れます。スポーツニュースや告知などを含めると合計3分ほど。これを私はシャドーイングしています。ニュースの音読速度は世界最速とも言われますので、すべて拾えなくてもOK。大事なのは一日一回、3分間はシャドーイングをすることが目的です。

ii.自発的音読:たとえば電子レンジでご飯を3分間温めているとします。その間、もちろん他の家事や料理をしても良いのですが、私は手元にある英文の音読を習慣にしています。電子レンジ近くに英字新聞や印刷した英文ニュースを置いておき、ひたすら読んでいくのです。3分以内に読めればOK。時間が余るぐらいの短い記事であれば、超速で読んでみたり、手でリズムを取りながら読んだりなど、バリエーションを付けています。

iii.瞬発力・単語切り替えゲーム:3分以内の隙間時間があれば、私は「目の前に見えるものすべてを英・日で声にしてみる」という課題を自ら課すことがあります。わかりきった単語でもOK。それこそ目の前に青いシャツがあれば「青シャツ・blue shirt」という具合に口にしていきます。大事なのはとにかく声に出すこと。通訳者にとっての最悪シナリオ。それは「知っていても詰まってしまい訳せなかった」という状況です。

2.15分メニュー

i.社説の英日読み比べ:The Japan News(読売新聞英字版)には英語学習者にうってつけのコラムがあります。読売新聞の日本語社説記事を翌日に英文と共に掲載しているのです。左側に英文、右側に和文があるため、まさに対訳そのもの。15分時間がある時、私はこれを「日本語音読→英文音読」と読み進めていきます。通読後は不明単語を蛍光ペンでマーク。これだけで立派な英日単語リストができます。他にも英訳の組み立て方を分析したり、背景知識をネットで調べたりなど、発展学習も可能です。15分だけでもかなり充実した学びができます。

ii.ディクテーション:1分ほどの英語動画や音声を用意してディクテーションをするというのも、15分ぐらいあればできる作業です。できればスクリプトや和訳があればベスト。ディクテーションというのは手を動かして書き取るという一種の「単純作業」です。よって、脳が疲れている時でも取り組みやすいはずです。不明箇所があっても気にせず、まずはディクテーションを最後まで仕上げ、あとはスクリプトでチェック。これだけでも実力につながります。

iii.文法問題集を解く:英語の勉強というのは、中学高校を終えてしまうとだんだん文法をフィーリングでこなすようになってしまいがちです。言い回しなどもその都度チェックするより、何パターンか口にしてみてしっくりくる方を選んでしまうケースがあります(少なくとも私の場合は…)。基礎に立ち返るのは実は大事なことですので、15分ほどの時間がある時は、タイマーを15分だけかけて、文法問題集に取り組むのも良いでしょう。問題集でなくとも、文法コラムを読む、辞書の解説記事をじっくり読むなどで構いません。要は15分だけ文法に意識を向けるということです。

3.30分メニュー

i.自分のパフォーマンスを見直す:私の場合、CNNやCBS Evening Newsで30分間連続で英日通訳を行っています。自分のパフォーマンスを聴き直すというのは、自己改善を考える上で欠かせません。30分間通訳している自分の日本語訳を聴き直し、お客様としてどう感じるか、改善できる部分は何か、妙な癖や誤訳・知識不足はないかといった観点から自己評価をしています。かなりシビアにおこなっています。

ii.運動と知識インプットの同時進行:「体力づくりも仕事のうち」と信じる私にとって、スポーツクラブ通いは欠かせません。私が参加するのはスタジオレッスンなのですが、少し早めにジムで受付をしたら、30分ほどランニングマシンで走ることもあります。幸いマシンにはテレビが付いていますので、テレビ画面をザッピングしながら足を動かします。NHK・Eテレの教養番組からは知識を、民放のバラエティ番組からは世の中のトレンドや最近の話し言葉などに注目しています。

iii.密かに脳内同時通訳:たとえば外部のレクチャーへ出かけたとします。「残念ながら自分が期待していた内容とは違った…、眠い!」という状況になったときなど、私は「むしろこれは脳内同通のチャンス」ととらえています。セミナー講師の話をひたすら頭の中で同時通訳してみるのです。全部できなくても気にしないのがポイント。わからない表現が出てきたら、それもメモしておきます。「眠くなってしまうセミナー」も、脳内同通を30分もすれば一気に目が覚めます。

いかがでしたか?今回は隙間時間活用メニューの一例をご紹介いたしました。今年もみなさまにとって有意義な一年となりますように!

 


柴原早苗(しばはら さなえ)

放送通訳者。獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳業に従事。NHK「ニュースで英会話」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。