【第16回】柴原早苗の通訳ライフハックス!「Zoomの効果的な使い方」

かつて通訳者デビューを目指していたころ、スクールに通うことに加えてもう一つ、力を入れていたことがあります。それは「現役プロ通訳者のパフォーマンスを聴くこと」でした。そこで注目したのが、「展示会の無料セミナー」。横浜のみなとみらいや東京の国際展示場、千葉の幕張メッセでは様々な展示会が開催されており、一般向けのセミナーも充実していたのですね。内容そのものよりも、同時通訳に興味がありましたので、受付でレシーバーを借りてはせっせと聞くことを続けました。おかげで「自分がお客様ならこのような通訳を聞きたい」という指針が出来上がったのです。以来、「供給側と受け手側両方の立場を体験すること」はとても大切と思うようになりました。

そこで、今回はWeb会議ツールのZoomを効果的に活用する方法についてお伝えします。

1. はじめに

 私が初めてZoomを使ったのは、昨年のコロナがきっかけです。出講している大学の授業がすべてオンラインになり、「ライブ授業」「映像オンデマンド型」「課題配信型」の3択から選ぶこととなったのです。私は対面授業が大好きである一方、自分で動画を撮影してYou Tubeにアップするだけの技術力は有していません。また、通訳という授業柄、課題配信でレポートを学生に提出させるのは形式的に難しいという理由から、迷わずZoomライブ授業に決めました。

2. Zoomの利点

 最大の長所は、やはりリアルタイムでの進行です。学生がカメラをオンにしていれば表情も見えますので、今の様子が分かりますよね。前例のないコロナという中、ややもすると学生たちは孤独感を覚えています。よって、生でやりとりをすることは学び以前に精神衛生上、必要であると私は思うのですね。ブレイクアウトセッションで学生同士が交流できることも大切です。それができるZoomは最強のツールなのです。

 一方、マイナス点としては、WiFi不具合による回線切断、音声や画面の不良などが挙げられます。それでもなお、Zoomの利点はあると私は考えます。

3. 自分もZoom受講生になってみる

 自分が指導する「だけ」の立場では、受講生のニーズをきめ細やかに把握できません。そこで私は様々なライブセミナーに参加し始めました。自分が受講者になってみると、「こうだったら嬉しいなあ」というポイントが色々見えてきます。たとえば、講師のカメラ目線、話すスピード、資料の提示方法、回線が落ちた時の対処法などです。

 今まで受講したセミナーで特に難儀したのは、「講師の声量が小さすぎて聞こえない」「講師側の回線がとにかく落ちる」というものでした。こうなると、受講側も視聴する気持ちが一気に萎えます。技術が100パーセント完璧でないとは言え、防げることや不測の事態も考えた上で、主催する必要性を感じました。

4. 受講生のモチベーションを引き上げるには

 さて、私は夏の終わりごろから某スポーツクラブのオンラインライブレッスンに参加しています。これはZoomを用いてリアルタイムでスタジオレッスン同様の内容を受講できるものです。特に気に入っているのはストレッチやヨガなどのレッスンで、自分が受けてみて、Zoom利点がモチベーションにつながると感じ始めました。

 中でも大きいのは、「全国のメンバーたちが今この瞬間、受けていることが励みになる」という点です。普通の動画サイトにも運動系の映像は沢山ありますが、「いつでもどこでも受けられる」ものです。でもこれは「いつになってもどこに行ってもアクセスしない」という甘えにつながりかねません。ゆえに、ライブレッスンのように「今、一緒にみんなで頑張る」という状況の方が真剣になれます。たとえ画面オフでもニックネームでの参加であっても、「あ、○○さんは今日も頑張っているな」と思えるのです。

 もう一つの利点はチャット機能です。ジムのライブレッスンでは常時オンですので、レッスン前後にインストラクターさんや全体向けにメッセージを送ることができます。何よりも嬉しいのは、一人一人のコメントを先生が読み上げて下さること。これは「ラジオに投稿してパーソナリティに読んでもらえた!」というのと同じぐらいの喜びだと私は思います。ジム会員という限られた空間ですので、妙な書き込みがないのも特徴と言えますよね。

5. 講師として心がけること

 では、講師はZoom利用で何を心がけるべきでしょうか?特に私が大事に感じるのは以下の通りです:

*画面ではなくカメラを見て話す → 画面に目をやると、視線がそれてしまう

*いつもよりゆっくり話し、間(ま)をとる → 聴き手に解釈する余裕を

*受講生のカメラオフには理由がある → 私がジムのライブレッスンでカメラオフにしているのは、「ノーメイク、普段着での参加」だからです。講師やクラスに対して個人的に何かあるわけではないので、講師側もぜひ受講生に配慮を

*明るく、笑顔で → 対面で会えないからこそ、楽しく!状況に応じて手を振ることも

*チャットに気づいてあげて → カメラだけ見ているとチャットに気づかないことも。全体に有益なコメントはぜひ取り上げて。受講生限定のセミナーなら書き込み者の名前を読んであげると喜ばれる

*カメラオンの人にはお礼を → 私が受けているジムのレッスンでは、講師が「○○さん、カメラオンありがとうございます!」と声がけをしており、日増しにカメラオンが増えてきている

ざっとこのような感じです。レッスンの内容や聴衆の状況に応じて、上記の項目をうまく取り入れると充実感も高まるでしょう。

6. 受講生として心がけること

 良いライブレッスンをする上では、受講する側にも「一緒に作り上げる」という気持ちがあれば、より効果が出てきます。そこでおススメしたいのが以下の項目です:

*リアクションボタンを活用する → 拍手マークや絵文字など、和みます

*カメラオンにできるのならぜひ → 講師も喜びます

*チャットへの書き込みは手短に → 長いと講師にとって読むのが大変ですので

*プロフィール画像に工夫を → Zoomにはプロフィール画像やバーチャル背景を設定できます。私はペットの写真を使っており、このおかげで講師に覚えてもらえました

*授業の前と終わりにチャットへ簡単な書き込みを → 「今日もよろしくお願いします」「ありがとうございました」といった一言があると、講師も教え甲斐があるでしょう

 今回はZoomの活用法についてのライフハックスでした。通訳者の方、あるいはデビューを目指している方、一般の読者のみなさん、「自分自身が両方の立場を体験してみること」は、様々な気づきを得る上でとても大切だと私は思っています。上記のヒントが少しでもお役に立てば幸いです。


柴原早苗(しばはら さなえ)

放送通訳者。獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳業に従事。NHK「ニュースで英会話」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。