【番外編】通訳留学奮闘記~梨花女子大学校通訳翻訳大学院編~「卒業試験不合格から7か月……」

40歳を目前に韓国の通訳翻訳大学院に入学した通訳(の卵)の2年間にわたる「海外留学奮闘記」。最終回では無念にも不合格となった卒業試験についてご紹介しましたが、今回は番外編として〈その後の7か月間〉についてお伝えします。

就業ビザが……下りない!?

実は卒業試験が終わって間もない今年2月頃に、日本ブランドの商品を展開する韓国企業から運良く就職内定をいただきました。

昨今、深刻な就職難が叫ばれる韓国。社内通訳の公募もめっきり減ってしまっています。早い時期での内定ゲットは偶然に偶然が重なった、かなりラッキーな結果なのです。

卒業はできなかったけど就職はできたぞ!と意気揚々、就業ビザの申請手続きに入ったのですが、当局から返ってきた審査結果は「NO」。理由は「大学院の卒業が確定していないから」というもの。何と、卒業試験不合格がネックとなってしまったのです。

韓国での就業ビザ獲得にはさまざま複雑な要件があるのですが、業務に関連した学位もなければ、日本で通訳として勤務した経験(フリーランスはNG)もない私のようなケースでは、韓国の大学院卒業が必須条件になるそうです。

ならば、と内定先とも相談して今度はアルバイト(資格外活動)の申請をすることにしました。当時は「留学ビザ(D-2)」による滞在であったため、申請さえすれば一定条件下でのアルバイト勤務が認められる、と入管の職員に言われたためです。

ところが。

実際に申請してみると今回も「NO」。私のように卒業試験不合格により正規の期間を延長した留学ビザの場合はアルバイト不可、というのが理由でした。

おーい!アルバイトの申請を勧めた入管職員、出てこーい!(怒)

結局のところ、卒業するまでは「試験勉強に専念すること」が私に認められた唯一の韓国滞在理由となってしまったのです。

困ったのは内定先です。この時点ですでに4月上旬。前任の通訳はすでに退職していて、私の着任をまだかまだかと待ってくださっていました。

これは内定取り消しかな……と覚悟を決めていたところへ、

「社内で検討した結果、やっぱり卒業まで待つことにしました」

という電話連絡が。

え、いいんですか!?という感動と共に、「何が何でも絶対に6月の再試験に合格しなければならない」という最大級のプレッシャーが重くのしかかることになります。

試験開始5分で確信した「不合格」……

再試験は6月20日(金)。

2月にぼちぼちとスタディを再開し、3月以降は毎朝7時半から1時間半ほどオンラインで、週末は学校のブースを借りて同時通訳のトレーニングを行いました。

在学生のときは暇さえあればスタディの予定を入れていたため1日3〜4回というスケジュールも珍しくなかったのですが、今回は「学びをきちんと自分のものにする」ことを目指して、より復習に重点を置くことにしました。

間違えた表現をメモ帳にまとめて、暇さえあれば何度も見返して、移動中も同期が送ってくれた録音音声を聞きながらぶつぶつと同時通訳の練習を、といった具合です。

加えて、ニュースを見ているときもぶつぶつ、講演を聞きに行ったときも小声でぶつぶつ、何かが聞こえてくればとにかくぶつぶつ(なかなかの不審者ですね)。

在学生の頃からやっていればよかったのに……何でやらなかったのかな。ま、当時はそんな余裕も体力も残されていなかったからね(という言い訳)。

そして迎えた試験当日。

半年前と比べれば瞬発力も高まり、表現力もだいぶ向上して「これはもしかしたら合格できるかも」というところまで来ていました。

決められた時間に控室に入り、名前を呼ばれ、試験会場の通訳ブースに入ります。

最初の科目は「同時通訳(日韓)」です。

ところが。

聞こえてくる日本語が全く理解できません。テーマは「米トランプ政権の関税政策が日本経済に及ぼす影響」のようなのですが、筆者が言わんとするメッセージが何なのか、雲を掴むような気持ちのまま試験がどんどん進んでいきます。

5分ほど経って、「あ、落ちたな」と思いました。

採点中の教授たちの背中に向かって「先生ごめんなさい」と心の中で唱えます(通訳ブースは教室の後方に設置されているのです)。

とはいえ途中で投げ出すことは絶対にできないので、試験に!集中しろ!最後まで諦めるな!!と自分に言い聞かせながら、試験終了まで何とか力を出し切りました。

2科目めの「同時通訳(韓日)」まで終えて、呆然としながら地下鉄に乗って自宅に向かうのですが、少しでも気を緩めると目元にじわっと涙が溜まってきてしまいます。

一生懸命トレーニングしたのにな。

今度こそ内定取り消しになっちゃうのかな。

この日から合否発表までの1週間はやけ酒ウィークとなりました。

周囲の友人やお世話になった方々にも、「残念ながら再チャレンジとなりました」などとフライング報告していたくらいです。

ところがどっこい、発表当日。

どうせ不合格ならさっさと確認して各方面に報告しよう、と早々に大学のポータルサイト画面を開くと「あなたはすでに総合試験に合格しています」というメッセージ。

ん?いやいや、そんなわけないでしょう。きっと何かの間違いよね。まさかね。

震える手で合否結果表示のボタンを押すと……そこには「合格」の文字。

ん?合格?え?何でーーーっ!?

素直に「何で?」という感想しかなかったのですが、何度確認しても「合格」という文字は消えずにそのまま残っています。

同期にも画面のキャプチャーを送って確認してもらい、どうやらこれは本当に合格したらしい……と納得したのは数十分後のこと(それでも3日間くらいはエラーの可能性も考えて毎日確認していましたが)。

こうして私の留学生活はやっと本当の終わりを告げたのでした。

めでたし、めでたし。

* * *

その後ビザの申請も通りまして、現在は韓国にて念願の(?)サラリーマン生活を送っています。

8月16日(土)には日本通訳フォーラム2025「韓国の通訳翻訳大学院、修了してみたら◯◯だった」にも参加予定です。2年間の留学生活について、日本語ネイティブ3人が包み隠すことなく全てお届けしますので、ぜひご覧ください!

合否結果よりも先に表示された「あなたはすでに総合試験に合格しています」というメッセージ。この時点ではまだ「何かの間違いだ!」と思い込んでいました。

中村かおり

韓日通訳者を目指すライター。マスメディア業界での記者・編集者生活を経て独立後、2018年1月の初ソウル旅行をきっかけに34歳で韓国語学習をスタートさせる。2020年秋から半年間、韓国・ソウルでの語学研修に参加。2023年3月から梨花女子大学通訳翻訳大学院(修士課程・韓日通訳専攻)にて通訳専門訓練中。