【第8回】インドネシア語通訳の世界へようこそ「どうやって仕事を得るか(その1)~直請けの場合~」

今回のテーマは、「どうやって仕事を得るか(その1)~直請け〔じかうけ〕の場合~」です。

ここでいう直請けとは、フリーランス通訳者が大本のクライアントから直接依頼を受ける形のこと。間に何らかの仲介業者が入る場合については、「その2」として次回取り上げます。

日本では、今のところフリーランス通訳者の多くが通訳会社(エージェント)経由で仕事を請ける形を主としています。直請けは基本的にしないという人も珍しくありません。
私も、長年エージェント経由の仕事が大半を占めていました。深く考えることなしに、周りを見て何となくそういうものだと信じ込んでいたところがあります。しかし、やがてその形に何かと限界を感じるようになり、直請け中心の業態へと移行を進めてきました。その結果、今では両者の比率が逆転しています。

決して主流でない直請けの方をあえて先の回に持ってきたのは、フリーランスにとってやはりそれが原点であり、将来に向けた活路でもあると今さらながら思うからです。
直請けは、営業からコーディネート業務まであらゆる役目と責任が自分の肩にかかってきます。大変といえば大変ですが、自らかじを取って何事も融通無碍に進められることは、サービスの迅速さやきめ細かさにもつながる強みです。張り合いは十分あるといえるでしょう。
また直請けで散々もまれておくと、間にエージェントが入る案件で営業担当や手配担当、コーディネーターの方とやりとりする際も、それぞれの立場と苦労を身をもって知るが故に、話が早く、かみ合いやすくなります。

直請けはハードルが高く感じる人もいるようですが、ためらっているうちにいつの間にか過度のエージェント依存体質が染みついてしまうと、なかなか抜けなくなって厄介です。デビュー初っぱなからとはいいませんが、ある程度早い段階から直請けにも慣れておくと、後の選択肢が広がると思います。

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「直請けの場合、営業活動はどうしてるんですか」とよく尋ねられます。
皆さんは営業活動と聞いてどんなイメージが浮かぶでしょうか。
訪問、電話、チラシ、ダイレクトメール等さまざまありますが、こちらから一方的に売り込もうとするやり方は概して嫌われ、効果が薄いといっていいでしょう。相手が求めていないときに押しつけがましく何を言っても響きません。うっとうしく感じ、扉をぴしゃりと閉ざされてしまうのが落ちです。
そればかりか、下手をすれば勝手に「仕事に困っている通訳者」とみなされ、「きっと何かしら原因があるんだろう」と勘ぐられるはめにすらなりかねません(つい先日も周りでそういう例を見たばかり)。

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では、どうするか。私がしてきたのは次の三つです。

(1)必要とする人に「見つけてもらえる」状態をつくる
(2)見つけてくれた人にとって「気軽に相談しやすい」仕組みをつくる
(3)数ある候補の中から「選ばれる」だけの優位性を何かしら持ち、それが外から見えるようにする

それぞれについて、もう少し詳しく見ていきましょう。

(1) 必要とする人に「見つけてもらえる」状態をつくる
それができていないばかりに、存分な活躍の機会を逃している人は多いように思います。
インターネットの未発達だった昔は、個人が直接「見つけてもらえる」状態をつくるすべはなかなかありませんでした。今は違います。Googleなどの検索エンジン、各種SNS、通訳者ディレクトリ、マッチングサイトその他のサービスプラットフォーム上で自分の存在を「見つけてもらえる」状態にしておくことは、その気になれば誰でもできます(ただし、はた目に「仕事にあぶれて必死」、「やみくもな安さ勝負に走っている」、「小遣い稼ぎ感覚でプロフェッショナルさに欠ける」と映る人たちであふれているような媒体は避けたほうがよいでしょうが)。

マーケティングの世界に、「インバウンド・マーケティング」といわれる手法があります。
〔参考〕 ブライアン・ハリガン、ダーメッシュ・シャア著、前田健二訳(2017)『【増補改訂版】インバウンドマーケティング』すばる舎
「こちらから無理に押しつけるのはやめ、インターネットを活用しながら有益かつ『突き抜けた』コンテンツを発信することで、向こう(顧客の側)からやって来てもらう」といったような趣旨で、私が行き着いた考え方もまさにこれです。
具体的なノウハウについては、同書その他多くのウェブマーケティング関連書籍に詳しく書かれていますので、目を通してみることをお勧めします。

(2) 見つけてくれた人にとって「気軽に相談しやすい」仕組みをつくる
せっかく見つけてもらっても、それだけでは何も始まりません。
次に求められるのは、気軽に、また安心してコンタクトが取れることでしょう。

私は個人事務所のウェブサイトを設けていますが、そこでは次のようにしています(→筆者プロフィール欄にリンクあり。まだ改良すべき点も多々ありますが、この程度の簡素なものでも当面の役には十分立つという例として参考まで)。
・分かりやすく覚えやすい独自ドメイン(indonesiago.jp
・PC(デスクトップ)とモバイル(スマートフォン)、どちらでの表示にも対応
・シンプルな構成で、必要な情報を手早く閲覧可能
・実績ページの内容は随時更新
・問い合わせフォームをはじめ連絡手段を複数用意し、いずれも手間なく(タップやクリック、画面遷移などは極力少なく)さっとアクセス可能
・サイトをHTTPS化(常時SSL化)し、マカフィー社によるセキュア認定を取得・表示

そのほか、ツイッター、フェイスブック(メッセンジャー)、リンクトイン、ミートアップ等々、各種のサービス上でも基本的にアカウントは全てオープンにし、いつ誰からでも直接連絡が受けられる状態にしています。

また、これはあまりできている自信がないのですが、仕組みだけでなく「気軽に声を掛けやすい雰囲気づくり」も大事だと思っています。

(3) 数ある候補の中から「選ばれる」だけの優位性を何かしら持ち、それが外から見えるようにする
上の(1)、(2)までは、誰でも割とすぐにできることです。インドネシア語の場合、今はそれをしている通訳者自体がごく少ないため「やった者勝ち」に近い状態ですが、いずれ皆がするようになれば「どうやって選ばれるか」を考えないといけません。

例えば私であれば、目指すのは「サービスの質で信用を築く」こと。単に「サービスの質を高める」ではありません。営業の観点からいうと、いくら自己満足的に質を高めても駄目で、それが他者からの評価ひいては信用・信望として周囲の目に映る(耳に入る)状態になって初めて意味を持つと思うからです。

「選ばれるには、ある程度の実績がないと厳しいのでは」と不安に思う人もいるかもしれません。確かに、実績が少ないうちは不利な面もあります。
そこをカバーする手だての一つが、前回触れた世代を超えた同業者同士のつながりではないでしょうか。
実力はあるのに経験年数の浅さゆえクライアントの目に留まらない通訳者がいた場合、(例えばリンクトインの「推薦」・「スキル推薦」機能のような形で)中堅やベテランがひと言口添えするだけでもだいぶ違うでしょう。
また、「優位性」の切り口はさまざまです。ファーストコンタクトからアフターフォローまで、「選ばれる」ために他と差別化できるポイントは工夫次第で山ほどあるはず。まだ実績が少ないからといって、あきらめるには及びません(「じゃあ、私は価格優位性で勝負だ」と採算を度外視した安売り競争に走ることは、自分も周りも破滅させるだけなので決して勧めませんが……)。

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ちなみに私の場合、直請けの仕事が入ってくるルートを件数の多い順に挙げるとおおむね以下のようになります。

1. (同業者や関係者、なじみのクライアントなどによる)オフラインの口コミや紹介・推薦
2. 同じくオンラインの口コミや紹介・推薦
3. ウェブ検索の結果から事務所サイトを見て(問い合わせフォームによる連絡)
4. 同上(Eメールによる連絡)
5. 同上(電話による連絡)
6. リンクトインのメッセージ
7. フェイスブックのメッセンジャー
8. 通訳現場でのお声掛け
9. ツイッターのダイレクトメッセージ
10. その他

「通訳現場でのお声掛け」というのは、講演会やセミナーで通訳を務めた際、一般参加者の中にインドネシア語の通訳サービスを必要とする人がいて、終了後に「今度うちでもぜひ」と声を掛けてくれるパターンです(そうしたことが何のはばかりもなく自由にできるのも、直請けならではのメリットだといえます)。

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次回は、「どうやって仕事を得るか(その2)~仲介業者経由の場合~」です。どうぞお楽しみに。

 


土部 隆行(どべ たかゆき)

インドネシア語通訳者・翻訳者。1970年、東京都小金井市生まれ。大学時代に縁あってインドネシア語と出会う。現地への語学留学を経て、団体職員として駐在勤務も経験。その後日本に戻り、1999年には専業フリーランスの通訳者・翻訳者として独立開業。インドネシア語一筋で多岐多様な案件に携わり、現在に至る。

インドネシア語通訳翻訳業 土部隆行事務所