【第7回】通訳案内士のお仕事~北の大地から「北海道の冬のトラブル」

皆様、こんにちは。北海道の通訳案内士・通訳者、飛ヶ谷園子です。本連載では、通訳案内士の仕事に関して、研修講師や通訳案内業務の内容についてこれまでお伝えしてきました。第7回の今回は少し趣向を変え、これまでの業務で直面した交通トラブルについてお話します。

大雪と交通

「北海道といえば、雪」―北海道を訪れる外国人旅行客、特にアジアからの観光客が最も期待するものが雪です。冬は北海道では観光のハイシーズンで、雪景色、雪や氷のお祭り、ウィンター・アクティビティを楽しみに訪れる観光客の多さを考えれば、雪が北海道にとって非常に大切な観光資源であることは言うまでもありません。もちろん、通訳案内士も雪の恩恵にあずかっているわけですが、それと同時に、雪に泣かされることもしばしばです。

日本は自然災害の多い国ですから、豪雨や台風、地震などによって交通が乱れることは珍しくありません。しかし、冬の北海道では「大雪で交通が麻痺する」というのは、もはや日常の一部です。公共交通機関が止まり、高速道路と一部の一般道は通行止め、幹線道路は大渋滞…そのような状況は頻繁に起こります(この原稿を書いている今日も、大雪の影響で飛行機やJRの多くの便が欠航・運休になりました)。冬に長距離移動の計画を立てる時は、数時間から半日の余裕を見ないと、かなりの確率で遅刻します。

通訳案内士の業務は多くのツアーで専用車や貸し切りバスを使うので、お客さんと合流してツアーが始まれば、移動手段に困ることはありません。通常より移動に時間がかかったり目的地に到着できなかったりということがあっても、それはもはや誰の責任でもありません。交通の乱れで一番怖いのは、ツアー開始前にピックアップ場所までたどり着けないという事態です。例えば、札幌在住の私が釧路空港発着のツアーを受ける時、自分で釧路へ移動して前泊します。その時に交通機関が動いていなくて移動できず、ツアー開始当日に「ガイドがいない!」という状況だけは避けなくてはならないのです。

これまでに私が交通トラブルで一番冷や冷やしたのが、通訳案内業務ではありませんが、第5回で簡単にお伝えした研修講師の仕事への往路でした。

斜里までの長い道

約一年前の2021年2月半ばのある日、北海道は大雪に見舞われていました。私は翌日に網走市で研修講師の仕事が控えていたため、網走で前泊するために札幌をJRで出発しました。しかし、旭川から先の交通機関が雪の影響ですべて止まり、道路も通行止めになったためにどうしても網走までたどり着けないことが確定し、「講師が来られないため」という理由で研修は中止されました。同様の研修が翌週に知床の斜里町ウトロ地区で開催予定だったので(詳細は連載第2回第3回を参照)、主催者の熱意と尽力により、網走研修はウトロ研修の翌日に開かれることになりました。

札幌から知床ウトロ地区まで行くには、まずJRで知床斜里駅まで行き、そこから1時間弱バスに乗ります。知床斜里駅からウトロ地区までのバスは1日に4便しかなく、悪天候等の影響で最終バスに乗り遅れる可能性も考えて、知床斜里駅前のビジネスホテルに前泊することにしました。

JRで札幌駅から知床斜里駅まで行くには2つのルートがあります。1つめは旭川を経由する特急オホーツクで網走へ行き、乗り換えて東へ向かうルート。2つめは特急おおぞらで釧路へ行き、釧網線で北上するルート。どちらも所要時間は6時間半~8時間ほどです。前の週の運休騒ぎも考慮し、できるだけ早い時間に出発しようと決めていました。早朝の時間帯は1つめのルートの方が接続が良いため、6:56札幌発網走行きの特急オホーツク1号を予約しました。

当日、札幌駅に到着して目にしたのは「大雪のため特急オホーツク1号運休」の知らせ。必死に情報を集め、旭川まで行けばその先は電車が動くという話を聞き、慌てて7:00札幌発の旭川行き高速バスに飛び乗りました。しかし高速道路は通行止めで札幌市内は大渋滞。1時間半ほどかけて20キロほど進んだ地点で「この先、一般道も通行止めの地域があるため、引き返します」とのアナウンスがあり、バスは10時過ぎに札幌駅に帰着。3時間の渋滞ドライブとなりました。

気をとり直してJRの券を買い直し、11:50札幌発の特急おおぞら5号で釧路へ向かいました。出発から1時間ほどして列車がシカと衝突して止まってしまいましたが(これも北海道の日常茶飯事です)、釧路には定刻から19分遅れただけの16:10に到着。すぐに釧網線に乗り換え、知床斜里駅に着いたのは定刻の18:29でした。朝6時に家を出発してから12時間半の大移動となったのです。そして、ウトロ行きの最終バスは18時に出てしまっていたので、「最終バスに乗り遅れる可能性も考えて、知床斜里駅前に前泊」という決断が正しかったことの証明となりました。

こうして振り返ってみると、冬の北海道で起こりえる交通トラブルが凝縮された一日だったのだなと思います。とんでもない目にあったように聞こえますが、このような出来事は冬の北海道では珍しくなく、長距離移動をすることが多い通訳案内士は常にこういった事態を想定しているのです。

次回も、北海道での業務に関する体験についてお伝えします。

(トップ画像はもっと知りたい札幌市 | ライズ北海道|産直グルメ・ギフト・食品食材通販サイト (rise.hokkaido.jp)https://rise.hokkaido.jp/want-to-know-more-sapporo/より引用)


飛ヶ谷園子(ひがや そのこ)

北海道札幌市在住。全国通訳案内士(英語・ドイツ語)、英語通訳者。北海道通訳案内士協会理事。日本の漫画・アニメに興味のあるお客様とのコミュニケーションを強化するため、現在様々な漫画を読んで勉強中。