【第2回】通訳案内士のお仕事~北の大地から「講師として活用される通訳案内士」

皆様、こんにちは。北海道の通訳案内士・通訳者、飛ヶ谷園子です。前回は第3回JACI同時通訳グランプリの本選で発表したスピーチに基づき、コロナ禍における通訳案内士の現状についてお話しました。連載第2回目の今回は、通訳案内士を講師として活用する観光庁の事業の概要についてお話します。

「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」

昨年9月、各都道府県に登録をしている英語の全国通訳案内士の元へ、観光庁からある案内が届きました。2021年初頭に実施される「地域の観光人材のインバウンド対応能力強化研修」の講師募集のお知らせでした。

外国人訪日客、いわゆるインバウンドの数は近年急速に増加していましたが、観光地や施設の中には外国人を受け入れる体制が十分に整っていないところもあり、そういった施設にとってはインバウンド対応が課題となっています。観光庁が外国人旅行者を対象に毎年行っていたアンケートでも、旅行中に困ったこととして最も多くあげられた回答が「施設等のスタッフとコミュニケーションがとれない」ということで、言語がハードルとなっている現状を示しています(観光庁「訪日外国人旅行者の受入環境整備に関するアンケート」結果)。

そこで、コロナ収束後、インバウンドの観光需要が回復する時に今よりも質の高いサービスを提供することを目指し、観光施設等を対象としたインバウンド対応能力強化研修の事業がスタートし、通訳案内士が講師として派遣されることになったのです。

研修講師は、案内を受けて応募した通訳案内士の中から、書類選考と講義デモンストレーションによって、全国で571名が選ばれました。研修の主催者となるのは、主に全国の自治体、DMO(観光地域作り法人)や観光協会で、各地域の観光施設や宿泊施設などの中から研修を受けたい施設を募集し、それぞれのニーズに合わせて1日または2日間の研修が設定され、そこに選考を通過した通訳案内士が2名1組で派遣されるというものです。研修は2部からなり、前半は文化の異なる旅行客と円滑なコミュニケーションをとるための心構えについて、後半はインバウンド対応に特化した英会話のレッスンです。研修参加者にはテキスト等の教材が配布され、研修後も観光庁のウェブサイト上の動画を使って自分で勉強を続けられるようになっています。

このような研修が今年の2月、全国145組織によって270回開催されました。当初はすべて対面での研修の予定でしたが、1月に感染症拡大によって一部地域で緊急事態宣言が発令されたこともあり、オンライン開催が142回、実地開催が128回となりました。北海道では10回の研修が実地開催され、私はその内の2回の研修に講師として参加しました。

通訳案内士にとっての研修事業

観光庁によるこの研修事業は、その名が示すとおり「地域の観光人材」がインバウンド対応能力を高めるために行われたものですが、通訳案内士にとっても大きな励みとなるものでした。

前回お話したように、コロナ禍でインバウンドの客足が途絶え、本来の通訳案内業務の機会はほぼゼロになりました。多くの通訳案内士が、新しく始めた仕事やアルバイトをしながら、または勉強や研修に打ち込みながら、苦しい状況に耐えています。私自身も「インバウンドはいつ戻ってくるのか、再び同じように仕事ができるのか」という不安を常に抱えていました。

そんな時に通訳案内士としての知識と経験を求められる仕事ができたことは大きな喜びであるとともに、自分の能力と過去に行った業務を分析し、これまでのキャリアを活かす新たな可能性に気付いた機会ともなったのです。

次回は、実際の研修の様子について、現場で感じたことを交えながら詳しくお伝えします。


飛ヶ谷園子(ひがや そのこ)

北海道札幌市在住。全国通訳案内士(英語・ドイツ語)、英語通訳者。北海道通訳案内士協会理事。日本の漫画・アニメに興味のあるお客様とのコミュニケーションを強化するため、現在様々な漫画を読んで勉強中。