第3回 JACI同時通訳グランプリ 入賞者の声

【学生部門】

グランプリ 丹羽つくも(ミドルベリー国際大学院モントレー校)

この度は、本グランプリ学生の部にて優勝をすることができたこと、大変光栄に思っております。

私が同時通訳の勉強を始めたのはコロナ禍の真っ最中で、実は未だに実際のブースに入ったことがありません。大学院の授業も、二学期間全てリモートでした。そんな中のJACI同時通訳グランプリの初リモート開催。まさか優勝できるとは思っていなかったので、カリフォルニアの深夜のホームオフィスで自分の名前をスクリーンで見たときは、思わず叫んでしまいました。(ミュートボタンに感謝です。)

今回のグランプリでは、4カ所、国やタイムゾーンをまたがって、ファイナリストの皆様と通訳することができました。ニコラス・コンチーさんと渡部美樹さんは同じ大学院で勉強しており、どちらも実力派で努力家であることを存じていたので、白熱した戦いになることは予測がつきました。また、今回パートナーとして本戦を共にした渡辺有紀さんは、イギリスからの参加で、時差などの調整が大変だったにもかかわらず、事前準備に快く対応していただき、そのおかげで本戦のプレッシャーを乗り切ることができました。このように、時間や空間を超えて様々な方とご縁が持てたことが、今回ならではの特長だと感じております。いつか皆様と一緒に、実際のブースで通訳させていただくのを楽しみにしております。

最後になりますが、今回の大会を可能にしてくださったJACI関係者の皆様および審査員の皆様、常に緻密で的確な指導をしてくださったミドルベリー国際大学院の教授陣、週何時間もの練習に付き合ってくれた同期生や通訳仲間の皆様、そして、通訳の勉強を心身共に支えてくれた家族や友人に感謝をしております。誠にありがとうございました。

準グランプリ 渡部美樹(ミドルベリー国際大学院モントレー校)

この度は準グランプリを受賞できましたこと非常に嬉しく、光栄に感じておりますとともに、素晴らしい学びの機会をいただき、心より感謝申し上げます。

まずは、コロナ禍の困難な状況の中、同時通訳グランプリを主催いただいたJACIの皆様、関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。在学中から本大会への出場を目標としており、日々の練習の中で大きなモチベーションとなっていました。今後もこの経験で得た学びを糧に精進してまいります。

また、院進学を勧めてくださった大学時代の恩師ならびに大学院で2年間熱心なご指導をいただいた恩師の教授陣には感謝の気持ちが絶えません。1年半前、授業で初めての同時通訳をしたとき、その難しさと何とも言えない体の底から湧き上がる興奮に目を見開きました。それから何度も壁にぶち当たり、その度に一喜一憂しながら目まぐるしく過ぎた2年間でした。どんな時にも温かく励まし、導いてくださった先生方の支えがあってこそ、今日の私があるのだと改めて実感しています。

本選の準備にあたっては、いただける情報が発表者とタイトルのみであったため、どのような勉強をすべきか悩みました。当日は、多少予想と異なるスピーチ内容にヒヤッとしたものの、現時点の実力を出し切りたい一心で集中して取り組むことができました。通訳を学ぶ学生同士で切磋琢磨することの有意義さを改めて感じながら、すでにプロの通訳者として活躍されている社会人部門の皆様ともお目にかかり、また次なる目標を見つけることができました。

5月に大学院を卒業し、6月からは東京で社内通訳として勤務しています。今回の受賞をまた新たなスタート地点として、さらに成長していけるよう精進してまいります。

改めまして、この度は貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました。

■指導教員 森 千代 ミドルベリー国際大学院モントレー校客員教授(日本語通訳)

まず初めに、昨年から続くコロナ渦という特殊な環境の中、今年も無事に同時通訳グランプリを開催されるにあたり御尽力されましたJACIの皆様に改めて深く感謝を申し上げたいと思います。思えば昨年の一月ごろダイヤモンドプリンセスの乗船者の中に感染者がいるというニュースを耳にしてから世界中で大変革の起きた一年半が過ぎ、それでもまだ日本国内のワクチン接種率は極めて低く、変異株の蔓延など気を抜けない状況が続いておりますが、その中にあっても途切れることなく有意義な活動を続けられ、今回のグランプリ開催に至られましたことは、一重にJACIの皆様の努力の賜物だと思っております。

第一回大会のグランプリ奥山裕太さん、第二回大会の準グランプリ福谷昌子さん、そして今回 予選を通過したニック・コンチーさん、グランプリ丹羽つくもさん、準グランプリ渡部美樹さんは、皆私がここ数年教えてきたかわいい教え子です。そして同時に前途有望な将来の同僚であり、彼らがグランプリに参加したこと、そしてこのような結果を残せたことを、一教師としてとても誇りに思います。そしてまた、高い実力を持った若き学生さんたちを、プロの通訳者としてさらなる高みへと成長させる役を仰せつかっている身として、改めて身の引き締まる思いがいたします。

私たちミドルベリー国際大学院では日本語通訳修士課程を学ばれる学生さんが毎年2-4人ほどおりますが、これからもこのような栄誉あるグランプリに参加させていただくこと、そして入賞・受賞することを目標に、教師と学生が一丸となって、通訳技術の向上にむけて研鑽を積んで参ります。ミドルベリー国際大学院で日本語通訳修士課程を学ばれる学生さんの共通点は、皆さん自分の実力に対する評価が非常に客観的で厳しく、向上心にあふれた努力家で常に「さらに上」を目指していることです。そんな彼らの通訳に対する真摯な取り組みを二年間見守る中で、通訳者として生計を立てているものとして、通訳修行には永遠に終わりがないこと、常に向上心を持ち一つ一つの仕事に全力で真剣に向き合うことの大切さを教えられ、まさに背筋が伸びる思いが致します。

改めましてJACIの皆様、審査員の諸先生方、本当にお疲れ様でございました。そして学生の皆さん、これからも通訳という素晴らしいキャリアに向けてぜひ頑張ってください! 

【社会人部門】

グランプリ 神田雅晴

最初にエントリーした第1回が2018年、通訳としての稼働が始まり半年程度の自分にはまさかグランプリとのこんなにも長い付き合いになるとは想像だにしていませんでした。初回の結果をバネに、第2回では挑戦心を燃やしエントリーし英日の訳出でテンポを乱し失敗。第3回では今まで費やしてきた時間や積み上げてきたもの、自分に対する自信が崩れてしまうのではないかというとてつもない不安と戦い参加しました。「2度あることは3度ある」「3度目の正直」どちらに転ぶかわからないなか、今まで指導していただいた先生方、激励をくれた先達の方々、ありとあらゆる通訳を体験できる環境、そこで的確なアドバイスをくれたQVCのチームの皆さんから頂いた言葉や教えが本当に支えになりました。

コロナ過に入ってから1年の間に通訳の仕方ももちろん大きく変わり、数え切れないほど失敗を重ねました。そこから得た反省や体験が確かな技術に繋がったのだと思います。実際にグランプリ中にもコーヒーメーカーの自動清浄が始まってしまい、その音をマイクに通さないよう手元でのミュートボタン操作と俳句レベルにコンパクトにまとめた訳出で乗り切ったシーンもありました。また通訳への変化以上にコロナ過でオンラインでの取り組みがかつてないほどに増えたことからも強く影響を与えたのかと思います。今回のグランプリを筆頭に物理的な場所や移動に縛られないことでこの1年は今まで以上に多くの方との繋がりを作り、雑念を削り通訳に没頭する最高の環境だったとも言えるのではないでしょうか。 人から頂いた言葉が心に、積み重ねてきた失敗が技に、愚直に続けてきた時間が体に成り本番のパフォーマンスに繋がったのだと思います。このような成長の機会を与えていただけて、本当にありがとうございました。通訳者としては誠に不甲斐ないところですが、言葉だけでは感謝を伝えきることができないので、これからも精進を続け皆さんから受け取った恩を少しずつお返ししていきたく思います。

準グランプリ 鶴田千佳

未曽有のコロナ禍、オンラインで開催された第3回JACI同時通訳グランプリに参加ができたこと、これは私にとっては偶然が重なりあった奇跡でした。

地方在住で育児中の私は、通訳学校を卒業し何年経っても望むような仕事の機会をもてないことを以前より不安に思っていましたが、下の娘が小学校に上がるタイミングで再度通訳力を磨きたいと考えていたところに「世界中から通訳者が受講しているオンラインスクールがある」と聞き、昨年初めに入会しました。

その直後にコロナの感染が拡大。多くの命が失われ社会経済への打撃があった一方でリモートワークが広がって遠隔同通も可能となり、スクールで高いレベルの仲間たちに囲まれ勉強を再開していた私は「地方の通訳者にとってはチャンスになるのでは?!」と淡い期待もしました。ところが実際は優秀で信頼の厚い通訳者の方々に仕事が集中し、私には話さえ回ってきませんでした。

努力が仕事につながらず、通訳という職を諦めかけていた今年の1月に転倒事故で頭蓋骨を骨折。後遺症は一生治らないとの宣告を受け、先への不安と「健康な時にもっと行動しておけばよかった」という後悔の闇に陥りました。しかし次第にその後悔は「今後はどんな機会も無駄にしない」という決意に変わっていきました。

そこに同大会の告知。例年は東京で行われる大会がコロナ禍のためオンライン開催ということで、「今年が最初で最後の自分の力を試すチャンス」と応募を決めました。

大会では準グランプリを受賞することができ、「諦めずに続けてきてよかった」と心より感じています。同時にこれをただの記念では終わらせたくはなく、今後のキャリアにつながるようこれからも精進します。そして同じように努力をしているけれど成果が見えず悶々としている人にもぜひ挑戦してほしいと思います。

最後になりましたが、コロナ禍に大会を継続してくださったJACIの方々、審査員の先生、グリンズアカデミーの先生と仲間、視聴して下さった皆様には心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

【実行委員長のメッセージ】

日本会議通訳者協会理事 小野陽子

まずは、お忙しい中、審査員をお引き受けくださった、鶴田知佳子様(東京女子大学現代教養学部国際英語学科教授)、桃原則子様(有限会社 M & Partners International 代表取締役)、工藤浩美様(株式会社 テンナイン・コミュニケーション 代表取締役)、トム・エスキルセン様、中山貴子様(株式会社 コミュニケーターズ 代表取締役)、朴 知姫様(ブレインウッズ株式会社)、フリィ マクウィリアムス様、エバレット千尋様に心よりお礼を申し上げます。

また、高木クリス様、飛ヶ谷園子様、素晴らしいスピーチを賜りありがとうございました。細かい時間制限と、同じスピーチを二回繰り返すという容易ではない条件下にも関わらず、時間通りに安定したスピーチをいただき本当に感謝しております。

本年度は初めて完全オンラインで開催いたしました。海外在住者の応募が増加し、本選視聴者も増加したことに加えて、オンラインでも一定の形で成立すると新たな発見や学びがある一方、改善点もあります。せっかくの機会なのに本選参加者のお披露目が十分にできなかったことや、技術面で審査員の皆様や視聴者の皆様にご不便をおかけしたことは次回以降に修正する課題として認識しています。

予選を勝ち抜いて本選に出場している皆さんのために、然るべき晴れ舞台を用意したいと運営一同考えていました。オンラインのではそれが十分にできなかったのが残念でしたが、本選出場者の実力は素晴らしく、グランプリとしては成功だったと思っています。

受賞者の皆様、本当におめでとうございます。審査員代表として総評をくださった鶴田様と中山様のお言葉は私にとっても心に留めておくべきだと思う素晴らしいものでしたので、今回は惜しくも授賞を逃した皆様もいただいた総評を基にこれからも頑張っていただければと思います。

視聴者としてご参加くださった皆様も、不正防止のためにフルネーム表示をお願いし、ご不便をおかけしましたが、ほとんどの方が途中で抜けることなく最後まで視聴してくださいました。それもスピーチの面白さ、本選出場者の同時通訳の質の高さのおかげだったと思います。

グランプリにご参加くださった皆様のおかげで今回も無事に終えることができました。皆様、どうもありがとうございました。