【第5回】探査工学から見た地球と宇宙「カーボンニュートラルについて(4) 」

地熱発電について

前回のコラムで二酸化炭素地中貯留(CCS)のことを書かせていただきました。今回紹介する地熱発電も、地球を利用してCO2の削減に貢献できるエネルギーです。

地球の内部はとても熱く、日本では火山地帯でない普通の場所でも1000m掘削すれば温度は45度くらいになります。当然地球の中心部(核と呼ばれる場所)はさらに熱く、5000度を超えると考えられています。その熱は大きなエネルギー源と考えることができます。地球内部の熱の多くは、地球内部に存在する放射性元素が崩壊するときに発生するとされています。地球の中で放射性元素が地球を温め続けてくれるため、地熱は持続可能なエネルギーと捉えることができます。

地球内部の熱は、地熱発電以外にも様々な理由で重要です。少しスケールの大きい話をしてしまいますが、地球の中心部には核と呼ばれる場所があります。その外側部分(外核)は高温のため液体の状態で、その主な構成成分は鉄であると考えられています。つまり、鉄が液体の状態で存在し、さらにその液体の鉄が対流していると考えられています。鉄が対流すると、電磁誘導で電気が発生し、さらにそれが地磁気を発生させます。この地磁気は、方位磁針で北を教えてくれるだけではありません。この地磁気が、生命に有害な宇宙線を跳ね返してくれるため、地球上に生物が住むことができます。つまり地球内部が熱くないと、生物の住みにくい星になっていたはずです。実際、火星は地球よりサイズが小さく、火星の内部は地球よりも冷えているため鉄の対流が失われていると考えられています。そのため、磁石の機能が失われ、宇宙線の影響をダイレクトに受けてしまいます。生物は宇宙線を大量に受けると被曝してしまいますので、長期間火星に滞在するには宇宙線の対策を行う必要があります。我々が地球上で住むことができるのは、放射性元素が地下で崩壊して熱を発生させてくれているから(外核で液体の鉄が対流しているから)と言えるのかもしれません。つまり、(1)地球内部の放射性元素の崩壊→(2)地熱→(3)外核での鉄の対流→(4)地磁気の発生→(5)宇宙線から生命を守る、という関係があることになります。

その地下の熱をエネルギーとして利用するのが地熱発電です。地熱発電では深さ2000mくらいの井戸を掘って熱水を取り、その熱でタービンを回して発電します。地下深部では圧力が高いので、温度が100度になっても沸騰しません。実際に地熱発電に使う流体は300度くらいの高温です。これが地上にやってくると、圧力が下がって沸騰します(液体から気体になります)。沸騰で発生した蒸気は大きなパワーがあり、タービンを回してくれます。一方で蒸気と共に発生する熱水は、再度地下に注入されます。熱水は純粋な水ではなく、生物に有害な物質が含まれているからです。我々人間が温泉として楽しんでいる地熱流体にも、魚などの生物には有害な物質が含まれます。また二酸化炭素が含まれることが多くあります。私は鉄分が多く、少し酸性の温泉が好きですが、魚などの住むことができない水の中に入って楽しんでいることになります。

日本の地熱ポテンシャルは非常に大きいとされています。実際、日本には地熱源となる火山が多く存在します。というのも、日本列島の下に太平洋プレートやフィリピン海プレートが沈み込み、そこに含まれる水が深度200kmくらいで放出されてマグマを形成し、それが火山となっているためです。しかし日本は火山大国であるにもかかわらず、地熱発電が全エネルギーに占める割合はわずか1%にも届きません。なぜ、地熱発電がもっと普及しないのか?と私は子供の時に疑問に思っていました。それにはいくつか理由があります。まず、地熱資源のある場所には温泉があるため、発電に使うことでその泉源を枯渇させてしまい、観光業などに悪影響を及ぼす懸念があることです。そこで現在は、温泉の泉源と地熱発電に使う熱水の関係を調査する試みなどが実施されています。また先に書いた通り、地熱開発で出てきた水は地層に戻す必要がありますが、無理やり地下に水を圧入すると地震を誘発してしまう可能性もあります。それ以外にも、コストが他の発電に比べて少し高いという理由もあります。このように地熱が普及しない理由はいくつかありますが、現在も(大人になったであろう私も)もっと地熱発電が普及すればと思っています。

海外に目を向けると、ケニアでは電力の半分くらいを地熱発電で賄っています。なぜ、ケニアでは地熱発電が普及しているのでしょうか?地熱の流体が流れる貯留層の特徴にその答えがあります。ケニアやアイスランドなどの地熱先進国の地下ではプレートが形成されています。つまり、地殻(地面)が新しく生まれる場所にケニアやアイスランドなどは位置しています。このような場所では、正断層という種類の断層が発達します。この断層は水が通りやすく、さらに直線状に分布するため、熱水が通っている場所を容易に予測できます。私はケニアのオルカリア地熱発電所というところへ行ったことがありますが、断層がどこを通っているか地表の地形を見れば容易に予測できます。アイスランドでも同様の地形がみられます。熱水が通っている場所を予測して井戸を掘れば高い確率で地熱エネルギーを得ることができるため、掘削に投資しやすい環境と言えます。

一方で、日本では火山が多く存在し、熱エネルギーはあるものの地熱流体が存在する場所が分かりにくく、地熱発電が進まない要因の一つとなっています。先に述べたように、日本はプレートが沈み込む場所にあります。このような場所では、水の通りやすい断層が少ないです。また火山やマグマのでき方もケニアのような場所とは異なります。日本ではマグマができる場所が深く、地下の構造が複雑なため、地熱流体が存在する貯留層を見つけることが難しいのです。つまり、熱エネルギーが存在していても地熱流体の流れている場所(良好な掘削地点)を見つけるのが難しい、ということになります。私の専門は探査工学ですので、日本のような複雑な地質状況でも地熱資源のある場所を見つけるための手法を開発しています。

地熱発電は、風力や太陽光に比べると安定して電気が得られるためベースロード電源(天候の影響を受けない安定した電力源)的な役割を担うとされています。一方で地熱流体を発電に利用しすぎると地下の熱水の温度が下がってしまい、発電が難しくなります。つまり地熱地域ごとに利用できる地熱流体の量には上限があり、その量を把握することで持続可能な地熱発電が可能になります。このように地熱発電には地球を相手にする難しさもありますが、安定した再生可能エネルギーであることは非常に魅力的です。カーボンニュートラルの中で重要な役割を担うことは間違いないと思っています。

今回、紹介したのは一般的な地熱発電で、温度の高い地熱流体を必要とするものです。もっと低温の地熱流体でも、バイナリー発電と呼ばれる方法などでエネルギーを生み出すこともできます。反対に、もっと高い温度の地熱流体を利用する試み(超臨界地熱)も行われています。もし余裕があれば、次回以降に記述したいと思います。


辻 健(つじ たけし)

東京大学大学院工学系研究科・教授。地球惑星科学・探査工学。
研究室HP