翻訳家

保護中: 【第9回】こう訳すか、ああ訳すか、それが問題だ「依頼者のニーズに焦点を当てる『スコポス理論』」

今回は、どのような翻訳が“良い翻訳”かに関して、翻訳する人の立場ではなく、訳文を利用する側の立場から考えてみることにしましょう。 おそらく翻訳家の多くはそれぞれ「こういう翻訳が良い翻訳だ」という持論を持っていることでしょう。もちろん、それはむしろ当然のことであり、それ自体が悪いわけではありません。ただ、それが利用者のニーズと異なる場合は、翻訳家がいくら“良い翻訳”だと言い張っても、利用者か...

保護中: 【第8回】こう訳すか、ああ訳すか、それが問題だ「翻訳家と聖書」

W・A・グロータースはその著書『誤訳』で次のように述べています。 「日本でヨーロッパの文学作品を訳す時、何かわからない“X”が訳者の前に立ちはだかっている。それはヨーロッパ文化の底深く横たわっているものである。ヨーロッパ人の生活の具体的な、こまごました事実が訳者にとって理解できないために、いろいろ困ったことが起きる。ことに文学作品のなかに隠れているキリスト教文化は日本の訳者にとって苦手なも...

保護中: 【第7回】こう訳すか、ああ訳すか、それが問題だ「翻訳の限界―「完全な翻訳」は可能なのか」

読者の皆さん、「完全な翻訳」って可能だと思いますか? え? その前にその「完全な翻訳」の定義を教えてくれって? たしかに、その定義によっても答えが全然違ってきますからね。 そこでまず「完全な翻訳」の定義から考えてみましょう。ベストセラーになったW・A・グロータースの『誤訳』には次のように書かれています。 「完全な翻訳が可能だということは、言語で伝えられる事がらのいっさい、ただ意味の大...

保護中: 【第4回】こう訳すか、ああ訳すか、それが問題だ「訳文を「等価」の観点から見直す(3)」

今回は文法レベルでの「等価」について考えてみましょう。 日本語は非常にユニークな言語ですから、どの外国語を翻訳するにしても、その外国語と日本語の文法の違いが「等価」を実現する上で障害になりえます。ただ、一口に「文法の違い」といっても多岐にわたり、すべてを網羅することは不可能ですので、ここでは無生物主語の訳し方について考えてみることにしましょう。 英語では無生物を主語にすることはよくあ...

保護中: 【第33回】翻訳家ありのまま「訳書のタイトル、誰が決めると思いますか」

訳書のタイトルって、いったい誰が決めると思いますか。訳者? それとも出版社? それとも訳者と出版社が相談し合った上で? で、最終決定権はどちらにあると思いますか? この点に関して私は次のように解釈している(あくまで私の解釈である)。すなわち「最終決定権は出版社にあり、ゆえに通常は出版社が一方的に決めるが、出版前に訳者に伝えることは伝える」。 最終決定権が訳者ではなく出版社にあると私が...

保護中: 【第32回】翻訳家ありのまま「翻訳書が出したいんじゃなかったんかい」

30代の頃の私は次々と著訳書を出しており、執筆と翻訳で多忙を極めていたが、そんな中でもあちこちの出版社に売り込みをかけていた。 血気盛んだった私はアポイントも取らずに、自分の著訳書を持参して出版社に突撃することもあったのだが、そのうちの一つがH出版であり、たまたまそのとき受付に現れたのがT氏だった。 見たところ40代のT氏は嫌そうな顔をしながらこう言った。 「すみません、今ちょ...

保護中: 【第31回】翻訳家ありのまま「出版が遅らされ、支払いも遅らされ…」

すでに「未払い印税回収劇」を三度お話ししたわけだが、“出版された本”の印税は比較的回収しやすいのである。ところが、ずるずる出版を遅らされている場合は、出版されていないだけに回収が難しい。出版社側にしても“出版されてない本”は売り上げが上がってないわけだから印税を先払いするのは難しいだろう。だからずるずる出版が遅れることは出版社にとっても著訳者にとっても非常にまずいことなのだ。 その“ずるず...

保護中: 【第30回】翻訳家ありのまま「未払い印税回収劇③マル秘催促法」

私が作家・翻訳家デビューした1990年代半ばは出版業界が最も盛り上がっていた頃だったが、その後IT革命のあおりを受けて本が売れなくなり、出版業界は未曽有の大不況となった。出版業界の規模は年々縮小し、出版社の数も書店の数も激減した。 だが、その一番のしわ寄せが行ったのは作家・翻訳家ではないかと思えてならないのだ。実際、翻訳家へ支払われる訳者印税は8%が相場と言われていたが、7%になり6%にな...

保護中: 【第29回】翻訳家ありのまま「何冊リーディングをタダでやらせるつもりなんだよ!」

ある日、何の縁もなかったLパブリッシングのK氏から突然電話がかかってきた。K氏によれば、翻訳エージェントから紹介があったとのことで、私にリーディング(原書の概要作成)を求めてきた。 じつは翻訳エージェントからの紹介で連絡が入ったのはそのときが初めてだったが、仕事に結びつくかもしれないわけであるから、紹介されること自体はありがたいことではあった。ただ、K氏がまるで私がリーディングを引き受ける...

保護中: 【第28回】翻訳家ありのまま「リーディング料、出ないんじゃなかったの!?」

出版翻訳家が出版社からよく頼まれることの1つにリーディングがある。何をやるかといえば、原書にどんなことが書いてあるかがざっと分かるように日本語で概要を作成するのである(「概要」のことを「サマリー」といったり「シノプシス」といったりする出版社もある)。 編集者はその概要を企画会議にかけ、出版するか否かを話し合うというわけだ。私は数十人の編集者とお付き合いしてきたが、原書が読める人は皆無に等し...

保護中: 【第27回】翻訳家ありのまま「全部訳した後でそう言われても…」

Z社の編集長から出版の相談に来て欲しいといわれたので伺ってみると、編集長はその場で編集者K女史を紹介してくれ、今後は彼女と二人で進めてくれと言った。 K女史は「急がして悪いけど2ヶ月で仕上げてもらえる?」と依頼してきた。かなりの無茶ぶりだったが、死に物狂いで2ヶ月で仕上げて訳文をK女史に送った。 数日後K女史に呼び出されたので編集部まで行ってみると、彼女は開口一番こう宣った。 ...

保護中: 【第26回】翻訳家ありのまま「印税率を聞くのも一苦労」

前回、印税の支払時期について詳しく聞いていなかったために生じた一悶着をお話したわけだが、読者の中には「事前にきちんと聞いておかなかったあなただって悪いよ」と私を非難する人もおられると思う。たしかにそれも一理ある。だが、印税の支払いについて詳しく聞き出すことはけっこう大変なのである。今回はそれがうかがえる実例をお話ししようと思う。 ある日、G出版からメールで翻訳書出版の相談を持ちかけられたの...

保護中: 【第25回】翻訳家ありのまま「未払い印税回収劇②ちょっと可哀そうなことしちゃったかな」

Cセラーズで初めて訳書出版することが決まったとき、編集者から「印税6%」と聞いて仕事を始めたのだが、見本書籍ができた日に「重版印税の6%は約束するから、初版印税だけ4%に負けてほしい」と相談を持ちかけられ、うかつにも私はそれを了承してしまった。その際、「印税支払日は発売の2ヶ月後」と聞かされていたが、その後経理部から送られてきた明細を見てみるとビックリ。印税は発売後2か月後から月に1回、4回に分...

保護中: 【第24回】翻訳家ありのまま「未払い印税回収劇①私だって生活に困ってます」

留学から帰国して3年経っても生活は苦しいままだった。最大約50万円まで膨らんだ借金を英会話講師などをやりながら完済したばかりで、いつ借金生活に逆戻りするかというギリギリ状態が続いていた。 そんなある日、編集者が拙宅に打ち合わせに来たので、一番気になっていたことを訊いた。 「印税って、いつ支払われるのですか」  すると彼女、ばつが悪そうにこう応えた。 「えっ、言ってませんで...

保護中: 【第23回】翻訳家ありのまま「『売れてるのか?』って何度も同じこと訊かないでよ!」

前回、「誰でも本を出せる」という夢のある話をしたので、今回は本を出すことのネガティブな側面をお伝えしようと思う。ポジティブな側面とネガティブな側面の双方を勘案して、それでも本を出したいと思えるか冷静にご判断いただければと思う。 単行本の執筆や翻訳に夢があるのは否定しない。ただ、「ベストセラーになって印税ガバガバ」というのは、狙ってできるようなものではないし、そもそもそんなことを狙って書いた...

保護中: 【第22回】翻訳家ありのまま「売り込んで売り込んで売り込んで…」

読者の方の中には、「いつか私も本を出してみたい。訳書でも語学参考書でもエッセイでも私小説でもいい。とにかく自分の名前で本を出してみたい。だけど、それって生まれ持った特別な才能がある人しかできないことじゃないかな」と思い込んでいる方がおられるのではないかと思う。 しかし本を出すのに生まれ持った特別な才能など要らない。その実例が私だ(笑)。30歳まで「私の本を出してくれる出版社など絶対に見つか...

保護中: 【第21回】翻訳家ありのまま「『暇があったら翻訳お願いできませんか』って言われても…」

2年間の大学院生活を終えて帰国する際、私は“ちょっとした有名人”になった気分に浸っていた。今から思えば、まったくの錯覚なのだが、当時の私が錯覚するのも無理はなかった。というのもシェフィールド大学のエッセーコンテストに4期連続で入賞したり、在英邦人向けの日本語新聞2紙からコラム連載を依頼されたり、留学体験記を出版するとイギリスの新聞にバカでかい顔写真付きで紹介されたり、その流れでBBCラジオに出演...

保護中: 【第20回】翻訳家ありのまま「イギリスでのハチャメチャなバイト体験」

前回、留学中に「翻訳以外にも通訳、日本語教師、日本語のナレーター、在英邦人向け新聞のコラム連載の仕事が入ってきた」と書いたため、私が語学力抜群の優秀な人材だと勘違いしたかたもおられると思うので、タネ明かしをしておこうと思う。 私が次々と仕事にありつけたのは、それだけ私が優秀だったというよりも、シェフィールド在住の日本人の数が限られていたからである。つまり、当時のシェフィールドには「日本人だ...

保護中: 【第17回】翻訳家ありのまま「東北大卒副社長の驚愕すべき一面」

東北大卒副社長が翻訳部に異動してきた当初、私はネイティブ並の英語を話す彼に憧憬の念を抱いていた。 ところが前回述べたとおり、彼は私に対して「(オーストラリア人を“除外”する内容の)あの求人広告はまずいよ~」と声を荒げたのである。求人広告の原稿は社長が書いたことは彼も知っていたし、彼自身、私が英訳した英文をチェックもしていたにも関わらず、である。私はそのとき思ったのだ。 (求人広告はも...

保護中: 【第16回】翻訳家ありのまま「オーストラリア人解雇事件」

翻訳部設立2年目が終了するとき、オーストラリア人校正者も契約が打ち切られることになった。 彼はもともとグループ企業内の英会話講師をしていたのだが、自ら校正の仕事がしたいと申し出て翻訳部の校正者になっていた。彼の仕事は英文をチェックすることだから、日本語ができなくてもできる。彼はそれをいいことに日本語を学ぼうとせず、漢字は勿論、ひらかな・カタカナですら読めないままだった。 社長はそんな...

保護中: 【第15回】翻訳家ありのまま「会議通訳として駆り出された」

すでに何人ものトラブルをつらつらと書き綴ってきた私ではあるが、「そういうあなたはそんなに優秀だったのか、何一つ汚点はなかったのか」と訝しがる人もあろう。 じつは私にもあまりに恥ずかしくて一生だれにも言いたくなかったビジネス上の汚点がある。他人のトラブルばかり書いて自分の汚点を書かないのは不公平ではないかという思いがよぎったため、ここで私の汚点を赤裸々に語ろうと思う。というのも翻訳家の方々に...

保護中: 【第14回】翻訳家ありのまま「身の毛がよだつ大事件勃発」

大事件というのは突然勃発することは希で、たいていの場合、いくつもの原因が重なり合って勃発に至るものである。 例えば、ピッチャーがどんな球を投げたとしても、満塁になっていなければ満塁ホームランを打たれることはない。逆にいえば、ランナーが一人も出ていなければ、最悪でもソロホームランで済むのである。あるいは、高価な物品がたくさんある家に空き巣が入れば被害も甚大だが、盗むものが何もない家なら空き巣...

保護中: 【第13回】翻訳家ありのまま「京大卒社長VS東北大卒副社長」

翻訳部の人員体制は創設2年目に入ってからガラリと変わった。東大大学院出身の女性スタッフの勤務形態が「月曜だけ週1出勤、週4回自宅勤務」から「月曜と木曜の週2出勤、週3回自宅勤務」に変更になった以外にも、東外大卒の女性の後釜としてフェリス女学院大卒の女性が採用されたし、国際部から東北大卒の男性が異動してきた。 東北大卒の男性は55歳。社長より若干年少だ。大柄の社長とは対照的に小柄ではあったが...

保護中: 【第12回】翻訳家ありのまま「東大大学院出身の女性を寵愛する京大卒社長」

京大卒社長の目からすれば、京大こそが日本一の大学であり、東大は「同率1位で日本一の大学」であった。そんな社長がこよなく愛したのは、東大大学院出身の女性との「京大VS東大トーク」であった。 飲み会の席になると、必ず自分の横に東大大学院出身の女性を座らせ、「京大はこうだったが、東大はどうだったの?」という「京大VS東大トーク」を繰り広げるのだった。社長にしては、それがもっともしたかったトークテ...

保護中: 【第11回】翻訳家ありのまま「想像を絶する残業地獄」

翻訳部創設1年目が終わろうとするころ、翻訳部に大型の和英翻訳の仕事が入ってきた。 社長は大喜びだったが、超特急で仕上げてほしいという依頼だったから私にかかる負担は甚大だった。というのも東外大卒の女性は1年で辞めさせられることが決まっていたし、「週1回出勤、週4回自宅勤務」の東大大学院出身の女性に和英翻訳を依頼するのは効率が悪かったため(というのもネイティブチェックを受ける場合、出社していた...

保護中: 【第10回】翻訳家ありのまま「翻訳部創設1年で8人中4人がいなくなった」

個人的な恨みはまったくないので、悪くは言いたくはないのだが、中央大出身の営業担当の男性はつねにきな臭い噂が流れていた。男が身を持ち崩す3悪は酒とギャンブルと女だと言われるが、それを地でいくタイプかと思わせる噂だった。 翻訳部が創設されて半年過ぎた頃、突然、彼が出社しなくなった。彼の仕事は翻訳の仕事を取ってくるのがメインのはずだが、日々どのような仕事をしていたかは不明だった。というのも社長が...

保護中: 【第9回】翻訳家ありのまま「社長の大言壮語を封印してやった 」

ミシガン大学大学院出身の男性が「自宅待機」になり出社しなくなってからというもの、社長はことあるごとに彼を引き合いに出しては我々を鼓舞するようになった。 「あんな人なんか居なくなって十分やっていけるってとこ見せつけてやろうじゃないか。なあ、君たち、頑張れよ!」 英日翻訳のチェックは京大卒社長が行なっていたのだが、その頃からその厳しさが増した。誤訳が見つかろうものならこっぴどく叱られるよ...

保護中: 【第8回】翻訳家ありのまま「京大卒社長の英語の“真の実力”」

京大卒社長は学歴の話が大好きで、飲み会になると必ずといっていいほど学歴の話をするのだった。翻訳部設立当時の翻訳スタッフの学歴は京大、東大大学院修了、ミシガン大学大学院修了、東外大卒、慶大卒、青学卒(私)だったが、飲み会で話題になるのは決まって前者5大学であり、私の母校・青山学院は蚊帳の外だった。 そんな社長、誰も聞いてもいないのに、いきなりこんなことを言って学歴話をし始めるのだった。 ...

保護中: 【第7回】翻訳家ありのまま「みんなが『自分が1番』と思っている職場」

学歴至上主義の京大卒社長にとって唯一、頭が上がらなかったのがミシガン大学大学院出身の男性だった。なにしろ彼は“世界の頂点”ともいえるマサチューセッツ工科大学卒、かつミシガン大学大学院修了である。京大卒といえどもこの華麗なる学歴の前にはひれ伏すしかなかったのか、神様みたいな扱いをしていた。 ところがミシガン大学大学院出身の男性の“真の実力”が露呈し、「自宅待機」にさせて以来、社長はこんなこと...

保護中: 【第6回】翻訳家ありのまま「かくして大型契約が消えてなくなった」

ミシガン大学大学院出身の男性は自信過剰なところがあり、他人を小ばかにする癖があった。それを最初に感じたのは、入社して間もないころ、社長を除いた翻訳スタッフ5名で開いたミーティングのときだった。 彼はまだ我々と一緒に仕事をしたことがなかったのだから、我々がどれくらいの実力の持ち主なのか知らなかったはずである。なのに彼はみんなの前で私のことを評してこう宣ったのだ。 「宮崎は男なんだから本...