【第11回】はじめての通訳~通訳と訓練方法に対する誤解「昔から読書が嫌いなんです。どうしても本を読まなければなりませんか。」

答え

「はじめての通訳」―初心者―としては読書の優先度は確かに低いです。ただ、今後通訳の力を伸ばしていくためには必要です。

なぜこのような質問が?

授業中にある受講生を指名して訳出してもらったときのこと。言いたいことはなんとなくわかるものの、あまりにもまとまりのない日本語でかつ表現力、語彙力にも乏しい、といったことが何回も続いたため「本を読んでいますか?」と聞いたところ、タイトルのようなことを言われました。

翻訳者なら読書が必要なことはわかるが、通訳者に読書が必要なのかとも言われました。

どうやらその受講生の頭の中では

翻訳⇒書面での処理、読書は必要

通訳⇒音源での処理、読書はしなくても通訳できる

と思っているようでした。

なぜ通訳に読書が必要か

この点に関しては以前から多くの大先輩方がおっしゃってきたことでもありますので、その言葉をいくつか引用してみます。

比較的難しくない分野の場合は資料の量が多くありませんが、場合によっては、一日で電話帳1冊分の資料を読んで理解し、通訳できる準備することが求められることも少なくありません。

速読が得意、大学院などで専門的な知識を勉強されている、受験勉強が得意、試験や暗記が苦にならない人も向いていると思います。

 私自身が通訳になるために通った学校で優秀だった方は、優等生でもともと読書量も多かったと思われる方が抜きに出たパフォーマンスを発揮していました。

小熊弥生氏(『JTFジャーナルweb版/日本翻訳ジャーナル』フリーランス通訳への道より抜粋)

 

通訳者(翻訳者)に読書が必要なのは、もちろん知識を深めるという目的があるのですが、読書が習慣になると集中力、文脈の読み、語感、情報の整理能力、瞬間的な反応とその柔軟性・器用さ(僕は勝手に cerebral dexterity と呼んでます)が鍛えられるという効果があるからです。

 

関根マイク氏(TogetterサイトよりTwitter発言を抜粋「同時通訳についてちょっと語ってみる~マイク兄さん編」)

 

英語力が伸びる人は?という質問に対して

 

語彙が豊富な人です。その人の話を聞けば、読書量がわかります。本をたくさん読んでいる人ほど、多様な言い回しをストックしており、日本語の表現力に比例して、英語の表現力のアップも期待できます。

 

柴原早苗氏(「柴原早苗の通訳者のひとりごと」『English Journal』2008年9月号)

このように読書は知識を増やすだけではなく、表現力を増やすことそして通訳に必要な情報処理能力を鍛えるためにも重要です。

通訳に限らず表現をする仕事に携わっている人はアウトプットのみならずインプットもしないと表現や知識が枯渇したり、ワンパターンの表現しかできなくなってしまいます。

また、読書が苦手な人は概して文字、文章を丁寧に読み、時には戻って読み直し、という読み方をしているのですが、読書が好きな方は読んでその状況を頭に思い浮かべながら読んでいます。通訳時の頭の使い方に非常によく似ているように思います。

読書嫌いの人のための対策

読書が苦手とされている方の主な原因は①集中力が続かない②1語1語丁寧に読むために時間がかかるに分けられます。

対策として、①については1日いっぱい読書の日にあてるといった大きな目標を立てるのではなく、1日2ページまたは1日15分だけ読むことをお勧めします。このくらいの時間でしたら負担はかからないでしょうし、電車の中でも読書はできます。

②については興味ある話を読む、または映画、ドラマ化された本を読んでみて慣れるようにする。

興味ある話は当然集中力が続くでしょうが、映画、ドラマ化された本についても映像を先に見てから本を読むようにするとイメージが湧きやすく、主人公になった気分になって集中力が続くと思います。

アンソロジー(複数の作家による短編や読み切りを収録した作品集)から読むことを勧める方もいらっしやいますし、読書が苦手な方向けに読みやすい本をまとめたサイトもあります。

また、ビジネス本であれば苦も無く読めるという方には『ビジネスに効く最強の「読書」』出口治明著(日経BP社)をお勧めします。

ビジネス書から発展して論理的思考力を磨くのに適切な本が多数紹介されています。

読書に慣れてきたら、「100分de名著」というNHK Eテレの番組もお勧めです。この番組は誰もが一度は読みたいと思いながらも、なかなか手に取ることができない古今東西の「名著」を、100分でまとめる番組です。

時には読み応えのある本をじっくり読んで頭を鍛えることも必要ですが、いきなり難しい本を読んでも挫折しますので、助走としてこの番組は最適だと思います。

終わりに

私は「活字中毒」というくらい読書に親しんできましたので、通訳になろうとも言う人によもや「読書嫌い」な人がいるとは想像すらしませんでした。

若い方に限らず日本人が本を読まなくなったと言われて久しいです。かつては理系の人―日本語力に乏しい、文系の人―理系の知識には乏しいが日本語力に優れている、と言われてきましたが、今いわゆる文系出身者の日本語力が落ちていると感じます。通訳訓練をする前のレベル(準備段階のクラス)でこの傾向が顕著です。これではスタート時点でいわゆる理系の人達に負けてしまうのではないかとの危機感を覚えます。

読書の重要性をご理解いただき、読書好きな人もそうでない人も様々な本を楽しんで読んでいただけると幸いです。

次回は、通訳の実務に関する質問を取り上げます。


菊池葉子(きくち ようこ)

英語通訳者、英語講師、京都女子大学非常勤講師。2008年通訳デビュー。主な通訳分野は技術、IT, 建築、IR。2011年に通訳学校卒業後、同年通訳学校の講師として稼働開始。主に通訳初心者向けの授業を担当。また、2015年より大学講師として会議通訳演習を担当。受講生からは、最初から順を追って丁寧に指導してもらえる、飽きさせない授業をしてくれる、との評価を受けている。