【第1回】通訳・翻訳学習記―東京外国語大学編―「学校紹介」

みなさん、こんにちは。日本会議通訳者協会理事の佐々木です。

この度、私が現在在学している東京外国語大学大学院(以下:東京外大)での学生生活について連載をする機会を頂きました。現在1年目の後半ですが、これから卒業するまでの2年間、東京外大の日英通訳・翻訳実践プログラムでどのようなことを学んでいるのか、また授業以外では何をしているのか等をお伝えしていきます。大学院への進学を考えている方や大学院の日英通訳・翻訳分野の学習内容に興味がある方、若手でこれから通訳者・翻訳者になりたいと考えている方等、様々な方々に有益な情報を提供できればと思います。

今回の第1回は私の経歴と東京外大に進学をした経緯、そして東京外大の日英通訳・翻訳実践プログラムの概要についてお話します。

経歴

まず私の経歴ですが、大学の学部は経済学部で、国際経済学を専攻していました。大学の3年次にオーストラリアのクイーンズランド大学に1年間留学しました。留学中、通訳翻訳理論の授業は1科目履修していましたが、それ以外の通訳関係の科目は交換留学の規定上履修していませんでした。それでも英語力と通訳・翻訳の基礎知識は身につけることができました。

その後、帰国して無事単位も取得して大学を卒業した後、パン屋に就職しました。なぜパン屋に就職(?) と思われるかもしれませんが、この企業が海外進出を始めたばかりということで、「海外出張に行けば、通訳を仕事でする機会が来る」というとても甘い考えで就職しました。もちろんそのような甘い考えはすぐにかき消されましたが、それでも与えられた仕事を一生懸命していました。しかし、紆余曲折あり、1年足らずで退職しました。

そのあと転職活動していた際に、元々、先端技術に興味があったことを思い出し、IT・通信の分野の会社で通訳・翻訳が業務の一環である会社を数社受けて、そのうちの1社で働くことになりました。その会社では当初エンジニアとして仕事をしていましたが、英語が堪能ということで外国人エンジニア付きの通訳も任されていました。とはいえ、まだ大学を出て1年目、しかも技術系の知識はゼロでした。それでも社内で各製品のマニュアル(手順書)を毎日読み込み、分からないときはエンジニアに図を描いてもらい訳出するなど、何とか通訳もこなしていました。最終的にその会社ではエンジニア兼社内通訳者として2年働き、IT・通信の別の分野でも通訳経験や知識を得たいと考え、外資系通信会社に転職しました。

通信会社でも、以前の会社と同様にエンジニア兼社内通訳者として光通信のプロジェクトチームに所属し、業務に従事しました。この時も全く知らない分野でしたが、外国人エンジニアから研修を受けたり、通勤時間中にタブレット端末にダウンロードしておいたマニュアルを読み込んだりして徐々に理解を深めるように努めました。この会社での業務にも慣れていく中で、通訳をしている時間はやはり緊張感もありましたが、楽しく、何よりお客様に「佐々木さんの通訳でやっと意味がわかった。ありがとうございます」と言われたときに改めてこの仕事のやりがいを感じました。この経験から徐々に「もっと本格的にプロの通訳者として仕事をするために、理論も含めて通訳スキルの底上げをしたい」と思うようになりました。

ここからは東京外大に進学した経緯についてお話します。

大学院進学の経緯

上述の通り、通訳者として通訳技術を体系的に学びたいと思い、いくつかの案を考えました。

1つ目は仕事をしながら通訳学校に通う方法でした。しかし、私が働いていたプロジェクトチームではお客様からの問い合わせ対応も行っており、残業も多かったため、断念しました。

2つ目は通信教育による学習でした。しかし調べてみると、先生と直接やり取りをするというよりは自分が吹き込んだ録音をeメール等で送り、フィードバックをもらうというものでした。その時に直接聞いて解決したりできないのはもどかしいと思い、こちらも断念しました。

最後に考えたのが、大学院進学でした。大学院では2年間理論と実践を通じて通訳・翻訳を学ぶことができるカリキュラムがどの大学院のホームページにも書いてあり、自分の目的に合っていたので、大学院に進学することにしました。

国内と海外の両方で調べ、学費や学べる内容そして「研究も併せてできるか」という点も吟味しながら、絞っていきました。なぜ「研究」も重視したかというと、学部生のころに偶然書店で見つけたフランツ・ポェヒハッカー氏の『通訳学入門』とダニエル・ジル氏の『通訳翻訳訓練』という本がきっかけで通訳者としてのキャリアの先に研究者としても活動したいという思いがあったからです。こうして最終的に東京外大に決めました。東京外大は日英通訳・翻訳実践プログラムの卒業生が通訳者として活躍している実績と指導されている先生方の研究実績も豊富だったためです。仕事を辞める必要がありましたが、それでも今後のキャリアのことを考え、「お金はいつでも働けば稼げるけど、集中的に2年間学べるのはこのタイミングしかない」と思い、東京外大に進学することにしました。

最後に東京外大の日英通訳・翻訳実践プログラムの概要についてお話します。

日英通訳・翻訳実践プログラムの概要

東京外大の大学院には世界言語社会専攻、国際日本専攻の2つの専攻があります。日英通訳・翻訳実践プログラムはそのうちの世界言語社会専攻に属しています。

東京外大では学期がクォーター(四学期)制となっており、春学期、夏学期、秋学期そして冬学期という構成になっています。春学期が前期で、秋学期が後期、夏学期と冬学期は集中講義という位置づけです。

日英通訳・翻訳実践プログラムは、少人数で通訳・翻訳に関する理論と実践演習を行う形式になっています。現在修士1年生は私を含め3名で、2年生は休学中の方を含め3名という構成です。日英通訳・翻訳実践プログラムというプログラム名ですが、通訳関連の授業の方が翻訳関連よりも多いカリキュラムになっています。

カリキュラムは1年目に逐次通訳を集中的な演習を通して行います(詳しくは次回以降の連載でお伝えします)。2年目は同時通訳の演習を行います。大学内に通訳ブースが設けられている場所が数箇所あり、そこで同時通訳の演習を行います。ただ、現在は新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、先輩方は一部オンラインで同時通訳の授業を受けています。

理論に関しては、夏学期や冬学期中に開講される「集中講義」と呼ばれる講義で学びます。この集中講義についても今後の連載で紹介する予定です。

第1回は以上になります。次回は学校生活について、1年目春学期の授業開始から中間課題までのお話をしようと思います。

東京外大のキャンパス

佐々木勇介
JACI理事。東京外国語大学大学院修士1年。学部卒業後、ITおよび通信の会社2社で通算4年半、エンジニア兼社内通訳者として従事していた。趣味はイギリス発祥のスポーツであるクリケットと愛車のロードバイクで一人旅。