【第14回】今日も苦し紛れ!放送通訳のブースから「四字熟語は便利(ただし条件付き)」

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同時通訳をしていると、いかに「省エネで訳せるか?」が大事になってきます。何しろ和訳を考えているうちに、ヘッドホンから聞こえる英語はどんどん先を行っているのです。悩んでいる暇はありません。瞬時に考えてそれを口にする。その繰り返しにつきます。よって、回りくどい日本語や、口の動きが上下左右に激しくなるのも私にとっては避けたいところ。短い単語で内容をズバリ表現できる和訳が理想なのですね。

その点、日本語は便利な言語。以下の例文を見て下さい:

I like apple.

このサイトでこれほどの基本文章を掲示するのは気が引けますが(笑)、これを文字通り直訳すれば、

「私はリンゴが好きです。」

となります。でも、日本語は主語を省けるのが特徴。

「リンゴが好きです。」

と言った場合、聞き手が「あ、この話し手さんはリンゴ好きなのね」と察してくれるのです。一方、「リンゴが好き」「リンゴ、好き」のように省いた表現でも通じます。英語では必ず主語と動詞が求められるので、ここが大きな特徴的差異となります。

もう一つ便利なのが「漢語」。たとえば、

Thank you so much for this wonderful opportunity.

を「やまとことば」で訳せば、「このような素晴らしい機会を頂き、ありがとうございます。」となりますよね。でも、漢語にすれば、

「こうした結構な機会を頂戴し、感謝申し上げます。」

といった感じでしょう。「結構」「頂戴」「感謝」という具合で音読みが続きます。口の開きが大きくなく、短時間で言える単語です。

一方、同通で助かるのは「四字熟語」。たくさんの意味を瞬時に表せる表現です。「温故知新」「竜頭蛇尾」「一日千秋」など、そういえば義務教育時代の教科書に出てきましたよね。実はこの四字熟語、通訳現場では威力を発揮してくれるのです。たとえば先日のCNNで私が担当した”King Charles”(日本時間2024年4月4日放映)でのこと。あ、その前にこの番組について少々。これは1時間のトークショーで、司会者はジャーナリストのGayle Kingと元NBA選手Charles Barkleyの名前を冠したもので、英国のチャールズ国王のことではありません(笑)。

話を元に戻しましょう。この日のテーマは「スポーツ選手とSNS」。とある選手がSNSに書き込んだところ炎上した、というものでした。そこで司会者のゲイル・キングがゲストにこう尋ねたのです:

“Some people say she brought the backlash on herself?

この下線部分をどう訳すか、私は一瞬迷ったのですね。文字通り訳せば「自ら反発を招いた」となるでしょう。でもこれでは文字数が多すぎます。そこで私の苦し紛れ訳はコチラ:

「自業自得」

文字数も大幅に少なくなりました。このような時に便利なのが四字熟語なのです。

ただし、四字熟語の利用は「条件付き」です。何しろ四字熟語と言ってもたくさんあります。きちんと意味を分かっていれば日英同時通訳でも太刀打ちできますが、そもそも知らなければお手上げです。たとえば、

「弊社では柔軟なアイデアを重視しています。石部金吉(いしべきんきち)な性格ではいけません。」

こちらを同時通訳する際、「イシベ・キンキチ?Who?歴史上の人物?」と私など思ってしまいます。「石部金吉」とは「融通の利かない人間」のこと。石や金などの固いものを並列させて人名のようにした四字熟語です。

通訳者に必要なのは語学力以前に「一般常識と知識力」。しみじみ思います。


柴原早苗(しばはら さなえ)

放送通訳者、獨協大学非常勤講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言、大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも担当。ツイッター(@Addington76)も日々更新中。