【第7回】通訳なんでも質問箱「経験を積むには?」

「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、対照的な背景を持つ協会理事の千葉絵里と関根マイク(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。

では、今回の質問です。

通訳学校を出ても、経験がないので、仕事に結びつかない場合、どのようにして、経験を積めばよいのでしょうか?あまり経験のない人向けの、仕事ってどのように探せばよいのでしょうか?


千葉絵里の回答

「実績がないから仕事がない。仕事がないから実績を積めない。実績がないので…」の堂々巡りからどう抜け出したらいいか、というお悩みはよく聞きます。「目から鱗」の回答は関根さんが書いて下さると思いますので、私からは割と一般的なお答えをしておきましょう。

まずはボランティア通訳で「実績を作る」ところから始めてみてはどうでしょうか。最近は在住外国人の方が多くなり、自治体でのボランティア通訳のニーズが高まっています。親御さんが日本語を話せないため父兄面談の時に通訳が必要だったり、病院への付き添いを依頼されたり、色々なニーズがあるようです。経験者に聞いた話では、学校でのボランティア通訳でウィスパリングが必要とされたことがあったとのこと。医療関係はもちろん高度な専門知識が必要ですし、最近はボランティア通訳でも高いレベルが求められているようですね。今年(2019年)はラグビー・ワールドカップが行われ、来年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて各国の事前キャンプ等も始まると思われますので、ボランティア通訳のニーズも更に高まると予測されます。そこで「実績」を作り、その実績をもとに通訳者を派遣する会社にアプローチするという手がまずあるかなと思います。登録のハードルが低い順に言うと、(1)一般的な人材サービス会社(大手でいうとリクルート、パーソル、パソナなど)の国際業務関連、(2)通訳学校の経営母体の「人材派遣部門」(英文事務・翻訳の仕事なども含まれることが多い)、(3)通訳学校の経営母体であるいわゆる「通訳エージェント」でしょうか。

なお、通訳学校を運営していない「独立系通訳エージェント」も沢山あり、登録のハードルは様々です。「○年以上の稼働実績」を求めるところもあれば、展示会専門に通訳者を派遣しており、通訳学校を卒業していない段階で登録OKのところもあります。「展示会 エージェント 通訳」などで検索してみてください。

既成のボランティアに応募する以外の実績の作り方もあります。私の場合ですが、友達の友達(外国人)があるセミナーに行きたいのだけれど、日本語なので十分分からなくて残念だ、ということを聞いたとき。通訳学校のクラスメートに協力を依頼してペアを組むことにし、セミナーの主催者に彼女のために会場の後ろのほうでウィスパリング通訳をしていいかと交渉し、通訳を実施しました。これが私の初めてのパナガイド・ウィスパリング通訳です。プロ科に進む一歩手前のクラスの時のことでした。私は地方の通訳学校育ちで、その地方では通訳学校受講生の段階でウィスパリング通訳をする機会など殆どない時でしたので、「ああこれでウィスパリング通訳の実績一つ作れた」と思って嬉しかったのを覚えています。ぜひ色々な機会をとらえて、クリエイティブに「実績作り」に挑戦してみてください。こういう風にしてある程度「実績」が溜まってくると、だんだんと希望するお仕事を得られる機会も増えていくのではないかと思います。

関根マイクの回答

「通訳学校を出ても」の解釈が難しいのですね。たとえば半年だけ通ったのか、それとも何年もかけてトップの会議通訳科を卒業したのか。仮に後者で学校(を運営するエージェント)から仕事を紹介してもらえないのであれば、厳しいことを言うようですが、それはあなたの実力がまだ足りないから、またはエージェント担当者から見てまだ足りないと信じる理由があるからではないでしょうか。特にいま(2019年春の時点)は市況がとても良いのに人手不足。エージェントは常に有望な若手を探しています。学校でもう少し勉強して、エージェントに認められるような実力をつけるべきではないでしょうか。

多くの通訳学校にはエントリーレベルのお仕事を紹介する案内板的なものがあるので、それに活用するのも一つの手です。そして学校の先生や学生仲間とのネットワークも大切にしましょう。デビュー後にじわじわと効いてきますよ。通訳者仲間から紹介される案件も結構ありますから。

何百人といる通訳者のなかで目立つためには、分野を絞って自己PRに活かすことも大事です。エージェントの通訳コーディネーターはたくさんの通訳者を評価して仕事を依頼する立場にありますが、新人が「なんでもできます」と言ってもまったく響きません。むしろニッチな分野でも、「私は現代アートが大の得意です。マルセル・デュシャンから会田誠まで幅広くカバーしています。」くらい言いきれた方がいい。まずは覚えてもらわないと依頼してもらえませんから。「現代アートのAさん」と記憶してもらえれば、美術品の保険関係の案件や、クリエイターのインタビュー案件など、周辺分野にも広がってきます。

もう学校に通っていないのであれば、勉強会やワークショップに参加して他の通訳者とつながってください。通訳を含め、結局ビジネスは人間関係です。すでに現場に出てもおかしくない実力をもっているのであれば、あとはたくさんの人やエージェントと知り合って「打席」を増やしていくだけではないでしょうか。JACIも頻繁にワークショップを開催していますよ!


千葉絵里

日本会議通訳者協会理事。特許事務所、自動車会社勤務等を経てフリーランス会議通訳者。得意分野は自動車、機械、経営、IR、人材&組織開発。力試しに受験した通訳学校のプレースメントテストをきっかけに通訳訓練を開始、二つの言語世界を行き来する面白さに魅了され現在に至る。海外留学経験はなく、通訳学校育ち。効果的な学習方法や仕事の準備の仕方を工夫することが好きで、勉強法・学習理論・心理学・コーチングなどの本を読むのが趣味。最近読んでよかった本は『GRIT やり抜く力』(アンジェラ・ダックワース著)『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』(加藤洋平著)。

関根マイク

会議通訳者、名古屋外国語大学大学院兼任講師、日本会議通訳者協会理事。得意分野は政治経済、法律、ビジネスとスポーツ全般。午後2時頃からエンジンがかかってくる遅咲きタイプの通訳者。現在は主に会議通訳者として活動しているが、YouTubeを観てサボりながらのんびり翻訳をするのも結構好き。イングリッシュ・ジャーナルに『ブースの中の懲りない面々~通訳の現場から』、通訳翻訳WEBに『通訳者のメンタルトレーニング』、通訳翻訳ジャーナルに『通訳の危機管理対策ドリル』を連載。