【第6回】通訳なんでも質問箱「同業者に仕事を紹介されたときの謝礼」

「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、対照的な背景を持つ協会理事の千葉絵里と関根マイク(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。

では、今回の質問です。

私は国外で社内通訳をしていたのですが、最近フリーランスになりました。日本の通訳業界では同業者に仕事を紹介してもらったら、一割を謝礼として払うのが常識と聞きましたが、本当にそうでしょうか。紹介された仕事先から再び依頼が来たら、ずっと一割払い続けるのでしょうか。


千葉絵里の回答

フリーランス通訳者になり丸12年が経過しましたが、こういうことは聞いたことがありません。仕事を紹介いただくときも、紹介するときもあるのですが・・・。大抵が「私と一緒に同通のパートナーを組んでいただけませんか?」というご依頼だからかもしれません。承諾したら、それ以後はエージェントさんの担当領域になりますからね。

でも、中には、直接取引のお客様(企業・団体)に対して、通訳者さんがエージェント的役割を果たしている場合もあるようです。そういう時にお声かけいただいたときは、率直に「クライアントさんからコーディネーター料を頂いていらっしゃいますか?」とお尋ねするようにしています。そういうことをお聞きしにくいような、遠い関係の方からは基本的に仕事はお受けしていません。色々トラブルのもとになり兼ねませんから。

仕事をご紹介いただいたら、一所懸命に準備をし、紹介くださった方の顔をつぶさないようにするのが自分にとっては一番優先順位が高いです。エージェントさんを紹介いただいた場合も同様ですね。自分で応募して登録したエージェントさん以上に、緊張して仕事をすることが多いです。「○○さんが紹介してくれた、あの通訳者はダメだったではないか」と、紹介してくださった方の信頼性まで損なってしまいかねませんので。狭い世界なので、同業者からの評判というのもとても大事なのです。

仕事の紹介以外にも、「この方にこれだけやっていただいて、申し訳ないな、有難いな」と一緒に働く通訳者に対して思うことは色々あります。「こういう分野の準備の仕方はどうしたらいいですか?」と問い合わせてみたら非常に懇切丁寧にご教示くださったり、コーディネーターさんが気付かなかった点に気づいて資料請求をしたり、分担をより公平かつ楽になるよう振り直してくださったり。あるいは、「こういう条件で通訳者を募集している知り合いがいるのだけれど、どなたかご存じありませんか」という問い合わせに対して、ご自分の人脈を総動員して答えてくださることもあります。そういう方には、できるだけ同じようなことをして報いたいと思っていますが、世の中にはどうしても返しきれない恩というものもあります。相手が自分よりも圧倒的に知識も人脈もある場合です。そういう時は、いつか彼や彼女と似たような立場になれたら、後輩に対しそういうことができるようになろう、と「ペイ・フォワード」の考え方でいいのではないでしょうか。そういう意味でいうと、完全にご本人にペイ・バックできなくても許していただいていると感じることが多く、私はとても先輩に恵まれていると思います。

関根マイクの回答

紹介者に一割を謝礼として払うのは常識ではありません。そのような条件のもとで下請契約や約束などを結んでいない限り、再び依頼が来た場合も同様です。この同業者さんは特に働きもせずに、一度紹介するだけで未来永劫一割の中抜きを狙っているようですが、それはちょっと都合がよすぎるのではないでしょうか(笑)。

さて、常識ではありませんが、私は同業者に出張案件などを紹介してもらったりしたときは、現地でしか入手できないような商品(地元酒蔵にある季節限定の日本酒とか、職人のガラス細工等)を購入して御礼として贈ったりはしています。する必要はありませんが、したいので。美味しいものを貰って喜ばない人はいませんし、ビジネスは人間関係が大事ですから、その意味でもおみやげを贈ればプラスです。

出張案件ではなくても、案件を紹介してもらったら、次に会って食事をしたときに御馳走するとか、会う機会がまったくない場合は年末年始にアマゾンのギフト券を贈ったりします(少額ですが)。繰り返しますが、お金やモノで御礼をするのは常識でも義務でもありません。けれど初めて紹介してもらった際にはなんらかの御礼をするのが筋ではあるのかな、というのが個人的な考えです。2度目からは特に何もしていません(大口のクライアントを紹介してもらった場合は別ですが、このあたりはケースバイケースで)。ちなみに私が「筋である」と考えるのは自分自身の振る舞いに関してだけであって、私が仕事仲間に案件を紹介した場合は特に見返りは期待していませんし、求めもしません。

上記とはまったく別の話ですが、私はある会社と案件紹介に関する契約を結んでいます。紹介があるたびに一定の紹介料を支払い、この支払いは一定期間継続します(この会社は通訳業務にまったく興味がないが、通訳業務の問い合わせをたびたび受けるので、私が受け皿になっている)。このようにお互いが納得できる合意ができるのであれば問題ないと思います。


千葉絵里

日本会議通訳者協会理事。特許事務所、自動車会社勤務等を経てフリーランス会議通訳者。得意分野は自動車、機械、経営、IR、人材&組織開発。力試しに受験した通訳学校のプレースメントテストをきっかけに通訳訓練を開始、二つの言語世界を行き来する面白さに魅了され現在に至る。海外留学経験はなく、通訳学校育ち。効果的な学習方法や仕事の準備の仕方を工夫することが好きで、勉強法・学習理論・心理学・コーチングなどの本を読むのが趣味。最近読んでよかった本は『GRIT やり抜く力』(アンジェラ・ダックワース著)『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』(加藤洋平著)。

関根マイク

会議通訳者、名古屋外国語大学大学院兼任講師、日本会議通訳者協会理事。得意分野は政治経済、法律、ビジネスとスポーツ全般。午後2時頃からエンジンがかかってくる遅咲きタイプの通訳者。現在は主に会議通訳者として活動しているが、YouTubeを観てサボりながらのんびり翻訳をするのも結構好き。イングリッシュ・ジャーナルに『ブースの中の懲りない面々~通訳の現場から』、通訳翻訳WEBに『通訳者のメンタルトレーニング』、通訳翻訳ジャーナルに『通訳の危機管理対策ドリル』を連載。