【第4回】通訳なんでも質問箱「逐次通訳の練習方法ー通訳ガイド二次試験―」

「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、対照的な背景を持つ協会理事の千葉絵里と関根マイク(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。

では、今回の質問です。

件名: 逐次通訳の練習方法
内容: 通訳ガイドの二次試験を受ける予定なのですが、メモの有効な取り方や練習方法はありますか?ガイド資格を持つ友人の話では、試験の緊張などでメモ取る余裕などなく、本人はひたすら日本語を集中して聞き取ったと言ってましたが。


前田結花の回答

レギュラー回答者の一人・千葉は通訳ガイド試験の受験経験がありません。そこで、尊敬する先輩通訳者である前田結花さんに回答をお願いしました。前田さんは、丁寧な準備と実力、そしてきめ細かい配慮と対応でクライアントさまからゆるぎない信頼を得ている通訳者さんです。大学院・専門学校でも教え、ピラティス・インストラクターの資格をお持ちのスーパーウーマン。主に東京と福岡を拠点にご活躍中です。さてそのお答えやいかに・・・。

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通訳案内業試験の面接試験での逐次通訳の問題のことですね。私が受験した2001年の面接試験はこの方式ではなかったので、どのようなものかを調べてみました。日本人試験官が「通訳する日本文」を読み上げた後、受験者がその日本文を1分間以内で通訳するという問題だとのこと。現場の日英逐次通訳に近いものになっていますね。

試験の出題範囲は日本事象一般で歴史、地理、観光等範囲が広いのが特徴です。日本事象関連の単語・用語の日英クイックレスポンス(日本語を聴いてすぐに口頭で英語にすること)ができるようにしておくことは大前提で、実践対策としてはご友人の「ひたすら日本語を集中して聞き取る」というアプローチをお勧めします。

インターネットで、「通訳案内士試験 逐次通訳 問題」等で検索してみると、過去問やオリジナル問題にヒットします。中には問題文の音声が吹き込まれていて、その後に1分間のポーズが用意してある、という実戦さながらの練習ができるものもあります。

問題文の長さの日本語についてはメモをとらなくても保持できるように。これは日々の意識的なトレーニングによってできるようになります。最初から問題文の日本文をすべて英語にしようとするのは大変かもしれません。ですから始めのうちは日本語を聴いてから間髪を入れず、その内容を日本語で再現する、というのも一考です。あるいは、1文だけを英語にしてみる、とか。そして、「メモをとるのは3語以内にする」「日本語を聞きながら英語で使う構文や動詞を決める」「英語を話し始めたら言い直しはしない」といったマイルールを決めておく。また日ごろから音声で入ってくるものを受身的に聴くのではなく、通訳を前提とした「攻めの姿勢で」聴くことを習慣づけておきましょう。

逐次通訳試験と同じ方法で日ごろからトレーニングをしておけば(つまり場数を踏んでおけば)本番でも平常心に近い状態で臨めるはずです。質問者様のご健闘を心からお祈りしています。

関根マイクの回答

ノートテイキングに関する書籍は第1回でいくつか紹介しました。ただノートテイキングは厄介なもので、慣れていないうちに書きすぎると聞くことに集中できません。通訳は聞いて理解することが最優先されるべきであり、メモはあくまでも補助的な役割にすぎないのです。

私はたまに通訳学校で教えることがあるのですが、一所懸命にメモをとっているのにもかかわらずイマイチな訳出をする生徒には、メモをとらずに聞くことに集中し、話者の発言を起点言語(つまり日本語から英語への通訳であれば日本語)で再現するように指示します。すると「メモはとれない」と腹をくくったからなのか、必ずといっていいほど正確性が上がります。要は、聞くことに集中すれば高い精度で理解と再現ができるのに、メモをとる行為が理解を妨害しているのです。

あなたの友人がノートテイキングの技術を持っていたかはわかりませんが、自分のノートテイキングに自信が持てないのであれば、「ひたすら日本語を集中して聞き取った」のは正解ではないでしょうか。しっかり聞くことで話の大筋を理解できればコミュニケーションが破綻することはありません。あとは最低限の数字をとるくらいで十分なケースが多いです。

「メモの有効な取り方や練習方法はありますか?」という質問に対して、「もっと背景知識を理解し、その話の何が重要なのか(メインメッセージ)をとらえ、同時に話の先を読む技術・感覚を身につけた方が通訳的には最善」と答えるのは卑怯でしょうか。でも断言しますが、いま日本の現場で活躍している通訳者の大多数はノートテイキングを体系的に学んだことはありません(そもそも体系的に教えている教育機関が国内には存在しない)。それでもしっかり仕事ができるのは、聞く力、理解する力、先を読む力が高度に発達しているからです。


千葉絵里

日本会議通訳者協会理事。特許事務所、自動車会社勤務等を経てフリーランス会議通訳者。得意分野は自動車、機械、経営、IR、人材&組織開発。力試しに受験した通訳学校のプレースメントテストをきっかけに通訳訓練を開始、二つの言語世界を行き来する面白さに魅了され現在に至る。海外留学経験はなく、通訳学校育ち。効果的な学習方法や仕事の準備の仕方を工夫することが好きで、勉強法・学習理論・心理学・コーチングなどの本を読むのが趣味。最近読んでよかった本は『GRIT やり抜く力』(アンジェラ・ダックワース著)『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』(加藤洋平著)。

関根マイク

会議通訳者、名古屋外国語大学大学院兼任講師、日本会議通訳者協会理事。得意分野は政治経済、法律、ビジネスとスポーツ全般。午後2時頃からエンジンがかかってくる遅咲きタイプの通訳者。現在は主に会議通訳者として活動しているが、YouTubeを観てサボりながらのんびり翻訳をするのも結構好き。イングリッシュ・ジャーナルに『ブースの中の懲りない面々~通訳の現場から』、通訳翻訳WEBに『通訳者のメンタルトレーニング』、通訳翻訳ジャーナルに『通訳の危機管理対策ドリル』を連載。