【第3回】通訳なんでも質問箱「簡易通訳機:話者と通訳者の声がかぶる」

「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、対照的な背景を持つ協会理事の千葉絵里と関根マイクが不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画……なのですが、今回の質問は通訳業界随一のガジェット通である平山敦子さんに回答をお願いしました。餅は餅屋です!

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では、今回の質問です。

Q. パナガイド(ブランドはパナではなかったかもしれません)を使ってウィスパリングをしている際に、話者の声とウィスパリングをしている通訳者の声がかぶって聞こえるという指摘を受け困っています。どのようにしたら解決または多少でも改善できるのでしょうか。通訳者と話者の距離が近く、話者の声が大きめだと話者の声も拾ってしまうのでしょうか。話者はマイクを使っていることもそうでないこともありましたが、来週早々の案件は、話者はマイクなしの小会議室で、話者から離れた席に移動するのは難しいかもしれません。パナを使っているのに通訳が大きめの声で話すのも周りの必要ない大多数の方にうるさがられると思いますし、生耳なので聞く方に支障がでます。


平山敦子の回答

詳しい状況が分からないので、頂いた情報に基づいて様々な可能性と対策について書きます。
まず、パナガイド(および類似の製品)は、正しい使い方をしていれば、マイクに近いところの声を大きく拾うはずなので、どんなに話者の声が大きくても、通訳者の声がかき消されるということはありません。なので、取っ掛かりとしては、使い方が適切であるかどうかを疑う必要があります。まずは以下の確認をしてみてください。

1.付属のヘッドセット型マイクを使用している場合、方向は正しいですか?

*風防(スポンジのカバー)を外して、マイクの表(声を拾う部分。MICと白字で印刷してあり、金属の網のようなものが付いている側)が外を向いていないか確認してください。万が一外を向いていたら、通訳者の口のほうへ向くようにねじってください。

2.マイクと口の距離が離れすぎていませんか?

離れすぎていると、他の音も拾ってしまいます。マイクの種類にもよりますが、1.5~2cmくらいで良いと思います。

3.付属のマイク以外のものを使っている場合、指向性はどうなっていますか?

指向性についての情報

「超指向性」のマイクは全方位的に音声を拾いますので、話者の声も拾う可能性があります。パナガイド付属のマイクを「正しく」使用することをお勧めします。

これでも解決しなかったら、以下をご検討ください。

4.話者が一名で、パナガイドをもうワンセット用意できる状況にあるなら、通訳の耳取り用に使ってはいかがでしょうか。話者にパナガイドに向かって話してもらい、少し離れた場所でそれをイヤホンで聞きながら通訳する。複数が固まって座っている場合には「超指向性マイク」をパナガイドに取り付けて、複数の話者の前に置くようにします。【参考リンク】

5.話者の声を物理的に遮る対策を講じる。

例えば、クリアフォルダやパンフレットなどをパナガイドと一緒に持って、盾にする。
あるいは、半分冗談みたいなものですが、100均などで売っている漏斗を使ってカバーを自作してみましたが(写真参照)、これで口を覆うと外の音が多少遮断されます。ただ、漏斗はあくまで漏斗ですので、理想の集音効果を狙うのであれば、パラボラ構造でなければなりません。パラボラのパーツはこちらで購入できます。(注文してみました。検証してどこかで結果は共有します。)

 

最後に、話者から離れて座るという選択肢についてですが、これは倍のギャラでももらわない限り、あるいは1名のところを2名に、2名を4名にと増員でもしてもらわない限り、やるべきではないと思います。頑張ればできるかもしれませんが、それは通常より負荷の高い労働です。同じギャラで負荷の高い仕事をするというのは、値下げに等しい行為ですので、業界の相場を壊し、回り回って自分の首を締めることになります。お客様はなかなかイメージできないと思うので、たとえ話が役に立ちます。電波の悪いところにいると、スマホの電池の減りが早いですよね?それは人間も同じです。

以上、ご参考になれば幸いです。


平山敦子

会議通訳者。得意分野は司法、軍事、IT、自動車など。元米国大統領、経済学者など著名人講演の同時通訳も多数。この仕事を目指したきっかけは大学在学中のアルバイト。スポーツイベントのバイリンガルスタッフとして働いていたが、ある日現役のプロ通訳者と同席、その仕事ぶりを目の当たりにし衝撃を受ける。

「私もこんな風になりたい!」とアルバイトに精を出す(?!)うちに、いつしかそれが仕事に。通訳界では知る人ぞ知るガジェットおたく。パフォーマンスを最大化してくれる優れモノの道具を求め日々研究中。