【第23回】通訳なんでも質問箱「移動拘束費の扱い」

「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、認定会員の岩瀬和美と山本みどり(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。

Q .移動拘束費の扱い

エージェントにより移動拘束費の金額がかなり違うような気がするのですが、業界標準的な目安はあるのでしょうか?また、日帰り出張も、2泊3日等の出張も、往復は1度として扱われるのでしょうか?移動日が2度発生しているので2回としてカウント(つまり移動拘束費を2回分請求)する通訳者もいるようなのですが。(きらきらぼし)

岩瀬和美の回答

A. きらきらぼしさん、ご質問ありがとうございます。

確かに、移動拘束費の扱いはエージェントによってばらつきがあり、業界全体で統一された標準はありません。業界大手のサイマルインターナショナルでは、東京駅(関西では大阪駅)から60km以上離れた場合を出張扱いとし、移動時間に応じて段階的に拘束補償費を設定しています。業務のない日の移動で3時間半以内なら半日料金の50%、3時間半超または現地滞在が必要な場合は1日料金の50%といった具合です。

私の経験上、日帰り出張は、よほど無理なスケジュールでない限り往復を一回として扱うのが一般的です。一方、宿泊を伴う出張では、出発日と帰宅日それぞれに拘束が発生するため、2日分を請求することは理にかなっています。最終的には各エージェントの契約書で算出基準を事前に確認することが重要です。

そもそも移動拘束費とは、通訳者が移動に長時間を要することで他の業務を受けられなくなる「機会損失」への補償です。例えば通訳業務が5時間でも、現地への移動に5時間を要すれば、その間の稼働可能時間を奪われるため、移動拘束費は正当な報酬の一部と考えられています。

しかし近年、働き方や移動のあり方そのものが変化しています。交通網の発達で移動時間は短縮され、インターネットの普及により、移動中でも案件の準備や資料整理が可能になりました。かつては出張先で他の仕事を受けることは難しかったものの、今では通信環境さえあればオンライン案件を並行して行うこともできます。一般企業では副業が認められる時代です。こうした変化を踏まえると、「拘束」という概念の意味そのものを改めて見直す時期にきているのかもしれません。

「移動=完全な機会損失」ではなくなりつつあります。移動拘束費を単なる慣習として捉えるのではなく、働き方が多様化する今、通訳者としてもその根拠と意義を再定義していくべきテーマなのではないでしょうか。

山本みどりの回答

A. 請負ベースで仕事を依頼するエージェントは、派遣会社や一般的な正社員の雇用主とは性質が違うので、移動費の標準化は求められていないと思います。会社ごとに多少の違いがあっても不思議はありません。

ただ、私自身が登録している大手と中堅のエージェント3社の支払い規約を確認したところ、

終日の移動→終日通訳料金の半額

半日の移動→半日通訳料金の半額

という形で、3社同一の設定となっていました。

たまたまこの3社だけが同じ設定にしており、他社だと違ってくるのかもしれませんが、それほど大きな差は見受けられませんでした。

日帰り・宿泊を伴う出張の場合の扱いについては、「その日に何をしたか」で判断されます。

例えば、2泊3日の出張で、移動が3時間程度、2日目に終日業務が入っている場合、

1日目 半日移動→半日移動拘束料

2日目 終日通訳→通訳終日料金

3日目 半日移動→半日移動拘束料

という考え方が一般的です。往復で1回分というよりは、実際の拘束が発生した日ごとに計算される、と考えるとわかりやすいでしょう。

通訳者がどのように請求したとしても、最終的にはエージェントの社内規定にのっとった処理がされます。疑問があれば事前に確認するのが確実です。

個人的な経験では、半日業務の近距離出張案件だと、「移動拘束込みで終日料金」というオファーも時々あります。なので、結局はケースバイケースになる…というのが私の考えです。

補足ですが、直接エンドクライアントや海外エージェントと取引する場合は、移動費・打ち合わせ費用・キャンセルポリシーなどの諸条件もすべて自分で設計できます。日本のエージェントの条件に満足できない場合は、こうしたチャネルの開拓も選択肢になるでしょう。


岩瀬和美

通訳歴30年以上。ITやビジネス分野では日々奮闘しつつ、芸術関連の仕事に心癒される瞬間を見出している。還暦を過ぎ、これからの働き方・生き方を模索中。

山本みどり

英日会議通訳者。東京外国語大学タイ語科を卒業後、イタリア滞在中に通訳の仕事と出会う。インタースクールにて会議通訳コースを修了。合同会社西友、日本アイ・ビー・エム株式会社の社内通訳を経て、2009年よりフリーランスとして活動開始。特に顧客訪問や取材時の逐次通訳が得意。 Website: yamamoto-ls.com