【第20回】通訳なんでも質問箱「逐次通訳におけるリテンションの向上」

「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、認定会員の岩瀬和美と山本みどり(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。

Q. 逐次通訳におけるリテンション力をアップしたいのですが、効果的な勉強法を教えてください。私はリテンションが苦手で、訳を落としてしまいがちなのですが、メモを減らすと思い出せませんし、自分で書いたメモが意味不明な場合もあります。(アップルさん)


岩瀬和美の回答

A. “通訳は逐次に始まり逐次で終わる”とも言われています。逐次通訳では同時通訳とは異なり、僅かな編集の時間が与えられます。その僅かな時間に自らの叡智を集中し、美しい訳出に仕上げてゆく過程というのは、技能を身につけた通訳者が自らにより高いハードルを課し、更なる高みを目指す「通訳の最終形」なのでは?なんて思っています。まだ人間にしかできない技ですから、私も逐次通訳では人間らしい訳出を心がけています。

さて、アップルさんのお困りごとですが、メモ書きに意識がとられてしまったり、解読不能なメモを残してしまうのであればノートテイキングである程度解決できそうですね。ぜひノートテイキングのトレーニングを続けられることをお勧めします。今はInterpreter Training Resourcesなど、オンラインのコンテンツもたくさんあります。活用されてみてはいかがでしょうか?

先日ご一緒したパートナーさんは、資料を音読しているとおっしゃっていました。音読で言葉やフレーズを聞き取る能力が向上します。リスニングスキルを高め、発言を正確に理解するのに役立ちます。また、目で読むだけでなく、口を使って音として耳に届けることで、情報が長期的な記憶に残りやすくなります。

ところで先日、血中酸素飽和量が高い人ほど、年収が高い傾向があるという米国の記事を目にしました。血中酸素飽和量が1%高くなると、年収は約$1,000(約11万円)高くなるという結果でした。血中酸素飽和量が高い人ほど、健康状態が良好で、仕事の生産性が高いことが、年収が高い理由として考えられるのだそうです。血中酸素量が多いと脳への酸素供給量が多くなり、記憶力を司る海馬を含む脳の活性化につながることはこれまでも目にしたことがありましたが、健康状態や生産性にも影響し、年収にも関係がありそうだというのはとても面白い洞察だと思いました。

ということで、ノートテイキングや音読のトレーニングに加えて、血中酸素飽和量を高める効果がある筋トレも生活に取り込んでみてはいかがでしょうか?

山本みどりの回答

A.アップルさんの質問文に、「リテンションが苦手」「訳を落としてしまいがち」「メモを減らすと思い出せない」とありました。逐次通訳をするとは、文章を聞いた瞬間に理解し、メモを残し、訳すことです。理解ができれば、聞いた瞬間に頭の中でイメージが描け、メモはそのイメージを形にするだけなのです。ディクテーションではありません。アップルさんの場合は、このプロセスの前半につまずきがあるように見受けられました。

文章を理解するためには、そのトピックに関する背景知識、単語力、文法力等が必要です。今回、私が特にフォーカスしたいのが文法力です。

実は文法を正しく読み解くことが、点を線に結び付け、テキストの正しい理解をすることの大前提になっているのですが、意外と見過ごされていることも多いと感じています。

英文法の理解が足りないと、言葉と言葉のつながりを正しくとらえていくことができません。そうなると、聞こえてきた単語だけをやみくもにつなげて創作してしまったり、訳をごそっと落としてしまったりすることにもつながります。

接続詞は正しくとらえられているか、仮定法を理解したうえで訳せているか、前置詞の用法を訳に反映できているか?一見細かく見える文法事項が、実は理解の屋台骨になっています。

というわけで、いったん逐次通訳そのものの練習から離れてみましょう。おススメの学習法は、文法の習熟度を再度確認すること、訳例が付いている教材を使ってサイトラをすることです。サイトラを行う際は、自分の口頭のアウトプットを録音して訳例と比較するのが重要です。引っかかった箇所、訳例と解釈が異なる箇所については、文法書を丁寧に確認しましょう。場合によっては文法の問題集をおさらいすることも必要になるかもしれません。

それに加えて、前述したように、背景知識と関連用語も不可欠ですし、メモ取りそのものを練習することも有効でしょう。前回紹介したような、大意を取る練習も効果があります。でもまずは、いったんメモを取ることから離れて、テキストの理解度を確認できるような訓練をしてみるといいと思います。


岩瀬和美

日本会議通訳者協会認定会員。1992年通訳業務を開始。IT、金融、マーケティング、教育、芸術、ファッション、 スポーツ等多様な分野に対応。バイリンガル司会、 ウェビナーのファシリテータも行う。

山本みどり

英日会議通訳者。東京外国語大学タイ語科を卒業後、イタリア滞在中に通訳の仕事と出会う。インタースクールにて会議通訳コースを修了。合同会社西友、日本アイ・ビー・エム株式会社の社内通訳を経て、2009年よりフリーランスとして活動開始。特に顧客訪問や取材時の逐次通訳が得意。 Website: yamamoto-ls.com