【第17回】通訳なんでも質問箱「現場での立ち振る舞いについて」

「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、認定会員の岩瀬和美と山本みどり(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。

Q.通訳者の派遣コーディネーターをしており、現場にも出ている者です。下記のような場面では、通訳者としてはどう対応すれば良いのでしょうか?

①場面…会議通訳
・出席者…日本人(日本語で会話、英語不可)6名、アメリカ人(英語で会話、日本語不可)、司会者(日本人、英語での会話可)

・通訳者…日英通訳者2名
・状況…会議中、日本人同士又はアメリカ人同士で内緒話ではない雰囲気で話し始めた場合、話しの内容を通訳した方が良いのでしょうか?

②同業者が「当事者に寄り添った通訳を行うように」と話しているのを聞いたことがあるのですが、具体的にはどういった対応が「寄り添っている」と言えるのでしょうか?私自身、通訳が必要な方全員に適切な対応を行うよう努めているのですが、「寄り添う」ことの具体的なイメージがいまいち定められず、ご意見を頂けたら幸いです。(ハリネズミ)


岩瀬和美の回答

ご質問ありがとうございます。①②まとめて回答させていただきますね。

重要な点は、会議に入る前にお客様の意向を確認することです。今回の会議では、参加者情報を受け取った際に、英語または日本語での会話が行われたり、司会者が参加者の発言に両言語で対応することが予想されます。しかし、お客様ごとに意向が異なる場合もありますので、会議が始まる前に必ず確認しましょう。

ただし、主催者と参加者の意向が事前に合意されていない場合もあります。例えば、日本側の参加者から「日本語のみの会話は通訳不要」という要望があったとしても、アメリカ側の参加者が日本語での会話に戸惑っている様子が見られる場合です。私はこのような場合、同時通訳の場合はアメリカ人参加者(英語チャネル)に対して、「通訳者の発言です。日本語のみの会話は通訳不要と言われています」と伝えます。逐次通訳の場合は、シチュエーションによって異なりますが、会議の進行を妨げないように司会者にメモを渡し、確認を依頼する方が良いかもしれません。ただし、確認中に「やはり通訳が必要」とリクエストされる可能性もあるため、その間の発言はメモに残しておきましょう。

先日、あるセミナー(逐次対応)で、「プレゼンは英日の通訳のみ(日英は不要)、その後のパネルディスカッションは日英両方の通訳が必要」という指示を受けましたが、隣に座っていたアメリカ人スピーカーにはその内容が伝わっていませんでした。日本語のプレゼンが進行している間、声に出して「日英の通訳は不要と言われています」と会議進行を妨げてしまうので、まずメモでお伝えしました。スピーカーは理解してくれたようでしたが、プレゼンの内容がその後のパネルディスカッションに関連していることが明らかでしたので、重要なポイントのみメモで伝えました。

これはプラスアルファのサービスとも言えるかもしれませんが、私は逐次通訳の場合、自分が通訳していない時でもメモを取り、仮想通訳をしています。そのメモをスピーカーが目に見える場所に置き、「よかったら参考にしてください」と指で示しました。結果として、パネルディスカッションでは日本語のプレゼンもある程度理解された状態で議論が進み、クライアントからも感謝の言葉をいただきました。

臨機応変に対応し、会議の雰囲気を壊さずに最善の通訳を提供することが、参加者に寄り添った通訳の役割ではないでしょうか。通訳者は機械ではありません。その場の空気に合わせた対応ができるのは、私たち人間だけです(現時点では)。私はそうした人間らしさを伝えるよう努めています。

山本みどりの回答

① への回答
通訳したほうがいいかどうかわからないときは、なるべく早く割り込んで「すいません。今の会話は訳しますか?それともインターナルの会話で通訳不要ですか?」とはっきり確認するようにしています。
割り込みづらかったら、他の参加者でもいいので、訳すべきかわからず困っているので確認したいという旨を伝えます。早めに確認することで、「この会議には通訳が入るので、訳しやすいように話す必要がある」点を周知することにもつながります。

② への回答
「寄り添う」という言葉、最近よく聞くようになりました。響きがいい一方で、抽象的で、使う人によって意味合いが違う言葉だと思います。

私なりにこの質問の「当事者に寄り添った通訳」を解釈するとすると、「そのスピーカーがターゲット言語を喋れたとしたら、何というだろう?」という視点を持った訳出になります。よく翻訳のレッスンでも言われることではありますが。

また、自分の感情を挟まず訳すことも重要です。スピーカーが言ったことが衝撃的だったとしても、ひるまずにそのまま訳す。丁々発止のやり取りになった時、きつい発言をソフトにしないできついまま訳す。
勝手に内容を変えない。あくまでも通訳者の立場でその場にいることをわきまえる。通訳者も人間なので、スピーカーの発言に感情が揺れ動いてしまうことはあり得ます。でも、そこをぐっとこらえて、なんなら「ここからが本領発揮」という気概を持って、一歩踏み込んで訳す。以上が、私の考える「当事者に寄り添った通訳」です。プロの通訳者に求められるスキルの一つかもしれませんね。


岩瀬和美

日本会議通訳者協会認定会員。1992年通訳業務を開始。IT、金融、マーケティング、教育、芸術、ファッション、 スポーツ等多様な分野に対応。バイリンガル司会、 ウェビナーのファシリテータも行う。

山本みどり

英日会議通訳者。東京外国語大学タイ語科を卒業後、イタリア滞在中に通訳の仕事と出会う。インタースクールにて会議通訳コースを修了。合同会社西友、日本アイ・ビー・エム株式会社の社内通訳を経て、2009年よりフリーランスとして活動開始。特に顧客訪問や取材時の逐次通訳が得意。 Website: yamamoto-ls.com