【第16回】通訳なんでも質問箱「通訳現場での緊張」

「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、認定会員の岩瀬和美と山本みどり(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。

Q. 通訳業務に携わり15年も経つのに、今も現場でとても緊張します。遠隔通訳、特に自分以外にも当該外国語を解する人が複数いる場面では緊張もマックスです。緊張のあまり、関係ないことを口走ってしまうこともありました・・・。まだまだ準備が足りない面も多々あると思いますが、皆様どのように緊張を克服されているか知りたいです。(イルカ)


岩瀬和美の回答

現場での緊張、よくわかります。私もこの業界で30年以上お仕事していますが、未だに緊張します。

でも緊張って、「クライアントの期待に応えたい!」とか、「参加者(イルカさんの場合はバイリンガルの参加者)からいい評価を受けたい!」等々、自分自身により良いパフォーマンスを求めるからこそ生まれるのではないでしょうか。向上心があってこその賜物。緊張できるって素晴らしいことです。

適度な緊張は、肉体的にもメリットがあります。

・アドレナリンが放出され注意力が高まる

・瞳孔が広がって周囲の状況を敏感に察知できる

・筋肉が引き締まり、体の反応速度が向上する

これだけでもずいぶんとパフォーマンスが向上しそうですね。良きです。

ただし、緊張が過剰になるとパフォーマンスの劣化(イルカさんの場合は関係ないことを口走ってしまう)や、心の傷を生んでしまうこともありますから、緊張とはうまく付き合っていくことが大切です。

緊張を克服するためには、しっかりと準備を整えることが大切です。フル装備し鋼の心臓を持って現場に臨むことで、自信と心の余裕をもたらします。そして現場(遠隔を含む)では、参加者の反応を「見る」のではなく「眺める」ことに努めてみてはどうでしょう。イルカさんはバイリンガルの方々に緊張を感じているようですが、参加者は他にもいらっしゃいます。自分の言葉は全ての参加者に届いているか?会議は齟齬なく進んでいるか?その場を俯瞰することで、特定の人に過度に反応することから生まれる緊張は薄れていくでしょう。また、人間同士のお仕事ですから相性もあります。自分では納得できるパフォーマンスをしたとしても、ネガティブなコメントが寄せられることもあるでしょう。そんな時は「無問題=モウマンタイ」。一旦受け止めてから忘れちゃいましょう。忘れる力も通訳者に求められる才能の一つ。自分を信じ、前進あるのみです!頑張ってください。

山本みどりの回答

通訳の仕事って緊張しますよね。JACIエンパワメント部で2回講師としてお招きしている臨床心理士の瀬川先生も、「通訳は人前にさらされる仕事」とおっしゃっていました。改めて考えてみると、通訳者は本当にまな板の上の鯉ですね。プレッシャーがかかりますよね。

私も、仕事のときは緊張します。大きな舞台だったり、初めてのクライアントや業界だったり、大先輩がパートナーだったりと、理由はさまざまです。クライアントに誤訳を指摘されて、一気に緊張感が高まることもあります……!でも緊張すること自体は、特に悪いことではないと思います。緊張するからこそ、良いパフォーマンスをしようと努力したり、きちんと準備をしたりすることにつながっているのです。逆に、緊張感が全くないのがいいかと言われると、それも違いますよね。

個人的には緊張は、克服しようとするよりもうまく付き合っていく方がいいのかなと思っています。

イルカさんは「緊張のあまり、関係ないことを口走ってしまうこともあった」とのことですが、緊張しているなと感じたら、それを意識してみることもいいかもしれません。緊張にのまれてしまうことは避けたいものです。

また、自分のことに意識が向かいすぎていませんか?自分がどう見られるかということよりも、場の成功に意識を集中するといいかもしれません。そして、緊張感の高い仕事が終わった後は、思いっきり自分を緩めてあげましょう。


岩瀬和美

日本会議通訳者協会認定会員。1992年通訳業務を開始。IT、金融、マーケティング、教育、芸術、ファッション、 スポーツ等多様な分野に対応。バイリンガル司会、 ウェビナーのファシリテータも行う。

山本みどり

英日会議通訳者。東京外国語大学タイ語科を卒業後、イタリア滞在中に通訳の仕事と出会う。インタースクールにて会議通訳コースを修了。合同会社西友、日本アイ・ビー・エム株式会社の社内通訳を経て、2009年よりフリーランスとして活動開始。特に顧客訪問や取材時の逐次通訳が得意。 Website: yamamoto-ls.com