【第11回】通訳なんでも質問箱「 海外出張の時差対策」

「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、対照的な背景を持つ協会理事の岩瀬和美と関根マイク(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。

今回の質問は海外出張の時差対策ということで、日本・北米・欧州で活動する認定会員の中村いづみさんと、旅行代理店勤務の坂井由美子さんに回答をお願いしました。

Q。このたび初めての海外出張に行くことになりました。アメリカ中部の都市で行われる国際会議ですが、時差が14時間あり、日本とはほとんど昼夜逆転しています。通訳業務もさることながら、時差ボケで眠くなったり頭が働かなくなるのでは、と思うと、心配です。先輩通訳者の皆様は、時差ボケ対策にどのようなことをされていますか?また、海外出張に関して、気をつけた方がいいことがあれば、是非ご教示ください。

中村いづみの回答

時差ボケ対策についてですが、今回、私が個人的に実践して効果を実感している方法をご紹介します。

まず、一般に時差ボケとは、体内リズム(体内時計)が乱れることで、不眠や日中の倦怠感といった症状が発生すること、と言われています。そこで、体内リズム、体内の器官を規則正しいリズムに近づけるために、コントロール可能なことは何かを考えました。考えついたのは、到着地の時間に合わせた睡眠時間の確保と、胃腸のリズムを調整すること(ある意味、胃腸を勘違いさせること)です。例えば、日常生活においても、睡眠不足だったり、睡眠時間や食事を摂る時間が不規則だったりすると、体がだるくなる、疲れを感じるという経験をされた方は多いのではないでしょうか。また、人間の体温は寝ている間は低下し、朝起床して、食事をとると、消化管全体が 筋肉運動を開始して熱を発する、ということもよく知られています。ですから、睡眠をとる数時間前には食事を終えるようにします。

前置きが長くなりましたが、ここから私が実践している対策の実例をご紹介したいと思います。まず移動日は、起きた瞬間から到着地の時間に合わせて行動します。便宜上、米国夏時間で記載していきますが、例えば、ニューヨークを午前11時頃(日本の夜中12時頃)に離陸する便で日本に帰国する場合、可能であれば午前4時頃に起きてジムに行き、1時間ほど筋トレと有酸素運動を行います。そして午前8時(日本時間21時)には「夕食」を済ませ、離陸と同時に睡眠をとります。自ずと最初の機内食はお断りして、寝倒します。私は乗り物酔いしやすいので、念のため酔い止め薬を飲んでおきます。光を遮るためのアイマスクも効果的です。また、機内では様々なノイズが発生して睡眠を妨げる可能性があるので、ノイズキャンセリングヘッドホンを愛用しています。そして到着地のお昼頃に起床するのですが、週末寝すぎてしまった、という時間感覚でいられます。激務が続いた直後のフライト(特に日本発のフライト)では、気づいたら飛行機が着陸準備に入っていた、ということも度々ありますが。

起床後、「昼食」を軽く食べ、仕事の準備をしたり、動画を見たりして、14時頃に成田空港到着、自宅には16時前に到着します。その後、ジムに行って軽く運動をします。体内時計をすでに日本時間に合わせているので、夕食の時間には通常通りお腹が空き、22時前後には眠気に襲われますので、その勢いにのって就寝します。今回はアメリカ東海岸から日本への移動を例にとりましたが、逆の移動の場合も、睡眠と食事の時間帯を到着地に合わせ、出来るだけ移動前後に運動するというルールは変わりません。私は以上のやり方を実践するようになってから全くと言っていいほど時差ボケ症状はありません。

移動前後に運動するということについてですが、私は週に5日から6日ジムに通っています。忙しい時には、自宅やホテルで、ダンベルを使った筋トレや自重トレーニングを行ったり、屋外でランニングやパワーウオーキングをしたりしています。普段の生活では、仕事や家事でそれなりに身体を動かす機会がありますが、日本から欧米に渡航する場合などは、飛行機の中で十数時間もほとんど身体を動かす機会がないということになります。つまり、頻繁に長時間飛行機に乗る生活をしていると、運動不足、体力の衰えにつながる可能性もあるため、移動前後に筋トレや有酸素運動を必ず行います。出張先のジムやランニング中など、企業経営陣の方々をお見かけしますが、彼らが日々運動を欠かさないのも然るべき理由があると言えます。

坂井由美子の回答

北米時間、ヨーロッパ時間の時差の解消方法ですが、その国の時間に体をならすことがポイントになります。機内では、最初の機内食が終わったら2~3時間程、睡眠をとり、少しずつ現地の時間に合わせます。食後は温かい飲み物(ノンカフェイン)を飲みます。

現地に着いたら、温めのお風呂に浸かり汗をかくのが効果的です。ストレッチをして筋肉をほぐし、リラックスした状態で就寝します。ストレッチは到着してから2日間は念入りにほぐすようにしています。頭痛がある場合は、首の後ろに温めたタオルをあてるのを3回繰り返すと頭痛が和らぎます。

とりあえず、血行をよくするために体を動かし、リラックスをして睡眠を多くとることをおすすめします。私の場合は6時間~8時間ですが、個人差があるので、普段より多めにとってください。

私は1年の半分以上は添乗業務に従事しているので、機内で10時間以上も座って何もしない状態が続くとすぐに運動不足になって調子を崩します。なので、腹筋と背筋のエクセサイズを各50回、朝昼夜にわけて行って体力をつけています。

先日、私事ですが機内で休めず現地で時差ボケになり足がつりました。けれど上記で案内させて頂いたことを実践しましたら、すぐ解消しました。余談ですが、滞在する国を好きになると心も体も力がみなぎり、時差ボケ解消になりますよ。


中村いづみ

会議通訳者。日本語教師・英語教師として自らの教室を運営した後、通訳者に転向。マクドナルド、IBM、ボシュロム、イオン(小売)、自動車・製造業等での社内通訳を経て、独立する。医療機器、製薬、技術、エンターテイメント、教育など幅広い分野で活躍。

坂井由美子

2000年から旅行代理店に勤務。国内・海外で年間230~250日の添乗業務に従事。