【第4回】通訳・翻訳学習記-ミドルベリー国際大学院編「同時通訳と金融業界に挑戦していく2学期目」

 皆さん、こんにちは。ニック・コンチーです。丹羽つくもさんが前回1年目の秋学期の授業内容について説明してくれましたが、いかがでしたか。私は続きまして今回1年目の春学期の授業内容について書いていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

  春学期は秋学期に比べて特に大きな変化が二つありました。一つ目は、内容が「一般」から「経済・金融」というはるかに専門的なテーマに変わったというところ、そして二つ目の新たなチャレンジは、初めて同時通訳に挑戦したということです。

授業内容が徐々に専門的に

今まで文系を中心に勉強してきた私にとっては、「カネの世界」が謎にしか見えませんでした。このテーマに本格的に取り組むことは少し心配でしたが、私だけではなく、MIIS入学前に経済や金融を勉強した経験がないという1年生がほとんどでした。春学期はいわゆる短期集中コースとして、経済や金融の知識の基盤を築き上げることが主な目的の一つです。実世界でフリーランスの通訳依頼を受けた場合、自分の得意分野について通訳する保証はもちろんありません。そのため、このように速習し短期間で「専門家」になるというスキルは通訳者にとって必要不可欠なものです。

日英翻訳とサイト・トランスレーションの授業では、今学期の新しい内容に親しむために、各学生がデリバティブからリーマンショックまで、様々な金融・経済に関連するトピックから一つを選び、概要や歴史などを調べ専門家になります。最終的に授業でプレゼンを行い、調べてきた内容を全て共有します。学生たちはこのように授業内容をお互いに学び合っていくので、より責任感が生まれ、学生が先生から学ぶという従来の方向性とは違った形で学ぶことができます。練習会や自習は秋学期と同様に常に行いますが、金融世界を把握するためのプロセスの中で、授業中のプレゼンは特に重要な役割を果たしたのではないかなと思います。

同時通訳の初体験

1学期目の通訳授業は、逐次通訳に慣れること・メモの取り方を覚えることなどが主な目的でしたが、春学期では逐次通訳の勉強を続けながら、同時通訳も学ぶという新しい取り組みに挑戦していきます。「えっ、いきなり?!」と思うかもしれませんが、英日同時通訳授業の初日から同時通訳を実際にやっていきます。なぜなら、同時通訳の論理など抽象的な概念の説明を受けることよりも、一回自分でやってみてどこが難しいのかなどを体験するほうが学生により大きなインパクトを与え、さらに良い導入となるからだと思います。ちなみに、同時通訳のテーマは金融業界ではなく、「一般」から始めます。

同時通訳をするときは、聞いて理解することが8割、そして残りのたった2割を話すことのために使うという説明を受けました。これには少し驚きましたが、実際にやってみるとその通りだなと思いました。聞いた言葉の全てをそのまま別の言語に変えるのではなく、まず話し手の本当に言いたいことを把握してから言葉の操作を瞬間的に行い、内容を忠実に別言語で表すことが同時通訳というものなのです。高い言語能力が求められることは言うまでもないですが、どちらかというとコミュニケーション能力のほうが重要です。

秋学期と同様、春学期は授業が完全にオンラインで行われていました。同時通訳をズームで行うことは少し複雑なプロセスになるので、授業の流れについて簡単に説明したいと思います。まず先生は動画をDropboxにて共有し、学生は動画をダウンロードします。次に先生はズームの通訳機能を使って学生をバーチャル通訳ブースにアサインします。先生の「せーのっ!」の合図で学生たちはダウンロードした動画を自分のパソコンで流し、先生が各ブースに入ったり出たりして学生のパフォーマンスを聞きます。動画が終わり次第、学生はブースから出て、先生とディスカッションを行い、個々に評価をもらいます。 

モチベーションの維持

春学期は秋学期に比べて難易度が上がったことは間違いありません。授業ペースもとても速いので大変ですが、その分上達も速いです。私はわりと勉強が好きな方ではありますが、苦戦したときももちろんたくさんありました。授業での訳出は必ず録音するのですが、苦戦したときに振り返って数週間前のパフォーマンスを聞いてみると、自分がどれほど上達したのかを聞くことができるので、大きな励ましになります。

日英同時通訳で適切な日本語が浮かんでこないことが私にとって今でも大きな課題です。具体的な対策としては、単語カードを使い言葉を素早く呼び起こす練習をしています。また、同時通訳をするときは話し手のスピードに追いつけなくなり、訳出が遅れてしまうことが必ずあります。遅れを取り戻すことが難しいため、サイト・トランスレーションで学んだ「順送りで訳す」という方法を応用し、文章の最後を待たずにとりあえず聞いた言葉を完結した文章として終わらせることでペースをなるべく保つことを心がけています。 

そして勉強だけでなく、休憩を取ることも仕事の一部です。通訳は喉・耳・目などを使う仕事なので、体が資本!とにかく体を大切にしないと通訳ができないことは当然です。十分な食事・睡眠を取ることなど、体のメンテナンスも通訳業務の一部として考えても良いほど大事なことなのです。  

以上、2学期目の授業内容についての説明でした。次回は、つくもさんが夏休みの活動について書いてくれます。お楽しみに!


ニコラス・コンチー Nicholas Kontje

ミドルベリー国際大学院モントレー校在学中(2022年5月に卒業する予定)。専攻は日本語の翻訳・通訳。入校前、国際交流員としてJETプログラムに2年間参加し、帰国後は旅行業界で勤務。副業でフリーランス翻訳・通訳として活動する。

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