【第2回】知っていればこんなに楽しいワイン通訳~葡萄畑から食卓まで~「テイスティング(前編)」

みなさんこんにちは。今日はワインのテイスティングについてわかりやすくお伝えしたいと思います。数年前に資格を取るためにワインスクールに通っていた時、復習と銘打って授業のあとにクラスメートとよくテイスティングをしていました。

周りから見ると、かなり怪しい雰囲気だったと思います。真剣な顔をしながら食事はそっちのけでグラスを傾け「清澄度は、粘性は」、鼻を近づけてクンクン「柑橘系」だの「火打石」だの(笑)。さらに口に含んだ後は「アタックが強い」「タンニンが」そして最後にブドウの品種を当てる、という一連の流れがあります。日本ソムリエ協会の資格の二次試験のテイスティングで、ワインの特徴と品種などを答える、というテストがあったからです。

テイスティングが終わるまでは食事の匂いは遠ざけたいし、ワインに集中したい。今でも美味しいワインを飲ませてくれるお店に行くと、メモしたい衝動にとらわれます。この経験はワインの通訳には大いに役立っています。試飲付きのセミナーの時は外観(見た目)、香り、味わいなど一連のフルコメントをすることが多いからです。

テイスティングのコメントには順番があります。茶道のようにかっちり決まった型があるので、パターンをおさえてしまいましょう。流れは、外観(見た目)→香り→味わい→特徴判断です。品種を当てることが目的だと思っている人が多いですが、それは試験のため(笑)。それよりも、どんな特徴のワインで、どんな場面でどんなお料理に合わせたらいいワインなのかを知る、伝えるということの方が大切なんです(ワインスクールの先生の受け売りです。笑)。

まずは外観(appearance)から。要は見た目です。

“Clear, bright, pale gold color, medium concentration, no signs of gas, medium viscosity.”  (白ワイン)

“Medium-clear, bright, medium color concentration. Ruby core with significant rim variation, showing garnet and orange. Medium-plus viscosity.” (赤ワイン)

” Opaque, medium concentration. Ruby color with a slight orange rim. Medium-plus viscosity. Slight staining of the tears.”  (赤ワイン)

外観だけでもこういった言葉が飛び交います。それぞれ別のワインについて述べていますが、どれもいくつかの要素について順を追ってコメントをしているのがわかります。

まず輝き・清澄度(clarity)は、良好で(clear, transparent)、輝きのある(bright)と表現されることが多いです。透明度が低い(opaque)ワインもあります。通常は濁ってないですよ、健全ですよ、ということをチェックするためのものですが、自然派ワインを売りにしているワイナリーなどでは、わざとフィルター濾過をせず、濁りのあるワインもあります。

次に色調(color)。つまり、色の感じです。白ワインは、若いワインは、緑がかかった淡い黄色(greenish pale yellow)、ここから淡い黄色(pale yellow)、黄色(yellow)や黄金色を帯びた黄色(gold)と濃くなっていきます。産地もよりますが、ブドウの品種によってワインの色に特徴が出ますので、色調を見るだけでもある程度はブドウの品種や、生産された国を絞ることもできます。また一般にはワインの熟成が進むにつれて色は濃くなります。

下の写真ではブドウの品種によってワインの色にどんな特徴があるか示されています。

(WINE FOLLYのHPより)

赤ワインはグラスを45度くらい向こうに傾けて、ワインの表面に色の層ができたところのワインの縁(rim)の色のニュアンスを見ると特徴や違いがわかりやすいです。

若めのワインは紫色のニュアンスが加わると、紫がかかった(purplish)、若干まだ紫色を残した赤い明るめの色はルビー(ruby)、さらに熟成が進んで紫色が抜けた暗めの色はガーネット(garnet)、かなり熟成のニュアンスが加わると、オレンジがかった(orangish)という形容詞がつきます。さらに熟成が進むと、琥珀色(amber)やマホガニー(赤黒い褐色、mahogany)などの独特な表現も使われます。淡い(pale)、濃い(dark, dense)といった濃度(concentration)もよく表現されます。

粘性(viscosity)も大事です。いやいやワインは粘ってないでしょ、サラサラでしょと言われそうですが、アルコール度数が高くなるとそれなりにねっとりしています。つまり見た目だけでアルコール度数が高いか低いか、ある程度見極めができるようになるのです。よく熟したブドウからのワインのアルコール度数が高いことは多いので、これは色の濃さから類推することもできます。

傾けたグラスをゆっくりと起こし、ワインがグラス内側の壁面を流れる様子を見て粘性を判断します。ワインの脚(レッグス: legs)、涙(tears)という言葉も出てきます。


(wineponderのHPより)

最後に泡立ちです。全く泡立ちがなければstill、軽い泡立ちがあればslightly fizzy, lightly sparklingなどと表現します。

ここまでが外観(見た目)です。まだ香りも味わいもわかりませんが、見た目だけでも、ブドウが育った地域が温暖なのか冷涼なのか、ブドウの品種の類推、アルコール度数などかなりのことがわかるのは、驚きですよね。

これでテイスティングの外観、香り、味わいのうちの一つの要素がやっと終わりました。フルコメントは結構体力を使います(笑)。紙面の都合上、香りと味わいは次回となりますが、ワインに関わる仕事をされている方々はグラス一杯のワインに対して、常に全方位的に分析をしています。なぜこんなにマニアックなのか、それはワインの取引をする上で、言葉にすることが重要だからです。例えば新しい電子機器を買うときに、CMや口コミだけで買う人、スペックを比較して買う人、いろいろだと思いますが、生産者と卸売業者、小売業者の中ではやはり事実であるスペックが重要になります。これに希少性や話題性なども加わって価格が決まってきます。

ワインの世界も同様で、生産者が作ったものを表現し、リカーショップやレストランで消費者に選んでもらうための共通用語があるのでしょう。

ところで、先日「ワインと通訳」のレクチャーをさせていただく機会に恵まれました。終わった後に数人から、日英の用語集のようなものがないかと質問がありました。

オススメは『必携ワイン基礎用語集(柴田書店)』『地図で識る世界のワイン(講談社)』です。基礎用語集は、初めて目にする語句を調べるのにとても便利。すべての語句に、英語表記あるいは現地語表記(固有名詞の場合はフランス語ならフランス語のまま)があるのも助かります。またテイスティングの時に出てくる表現の、日本語・英語・フランス語の一覧表があります。もう一冊の本はワインの地図帳で、ワインの産地やワイン法がわかりやすくカラーでまとまっていて薄くて軽いので、持ち歩くのに便利です。

またワイン用語の英語のグロッサリーは、Wine SpectatorのGlossaryというページが、英英辞典のように使えて便利です。用語を英語で説明してくれるので、どのような文脈でどんな言葉が使われているのかがわかります。よくフランス語のままで使われる用語などは、フランス語の記載もあり、発音が聞けるようになっています。

下の写真はDで始まる用語ですが、とても頻繁に出てくるフランス語のDégorgement(デゴルジュマン: 瓶内二次発酵によって生じた澱を取り除く作業)のところには、英語ではDisgorgmentですよと書いてあり、フランス語の発音が聞けるメガホンマークもついています。

さて、難しい話はこのへんにして、美味しいワインでひと休みしましょう。

■今月のおすすめワイン

2012リースリング、フランス/アルザス(Camille Braun)参考価格2,670円

SAKURA AWARDSシルバー賞受賞(2015年)

(サクラアワード:ワイン業界で活躍する女性が審査員を務める日本国内最大級のワイン審査会)

今回はフランスのアルザス地方のリースリングです。先日のワイン会で出していただいたこちらのワインがとても美味しくて、ご紹介したいと思いました。

スッキリした果実の甘みと派手すぎない白い花の香り、舌を刺激する酸味が上品で爽やかなこちらのワイン。辛口ですがほんのり甘いニュアンスから、生ハムメロンや生ハムを巻いたアスパラガスなどと。和食では、豚しゃぶサラダをポン酢で、また天ぷらを塩でいただくのもオススメです。ミネラルの風味も感じられるので、豚肉や塩などとの相性がよいようです。

Bon appetit!


松岡由季(まつおかゆき)

通訳者。日本ソムリエ協会ワインエキスパート。ドイツワイン協会ドイツワインケナー。ワインはもともと赤白ロゼの区別しかつかなかったが、出張先の南アフリカで出会ったワインの美味しさに感動してワインの世界へ。農家や醸造家の情熱や思いを伝えるワイン通訳の醍醐味を知る。その他通訳分野は、IR、自動車、ITなど。著書に「観光コースでないウィーン」(高文研)