【第6回】通訳留学奮闘記~ロンドンメトロポリタン大学編「後期の始まり」

みなさん、こんにちは。
ロンドンメトロポリタン大学では、2月から後期の授業が始まりました。

後期にも3つのモジュールがあります。モジュールの正式名はそれぞれ“Conference Interpreting (EU/UN Context)” “Conference Interpreting 2” “The Interpreter’s Professional Environment”といいますが、ここではそれぞれ「EU/UN」「会議通訳2」「TIPE」と呼ぶこととします。

■EU/UN

その名の通り、欧州連合(EU)と国際連合(UN)の内容に特化したモジュールです。モジュールの中心は全4回の模擬会議(第5週、第7週、第9週、第11週に行われる)で、他にはEUについて6回、UNについて6回、それぞれの組織の仕組みや歴史などについての知識を深めるためのワークショップがあります。さらに、言語別のチュートリアルセッションも4回行われ、4回の模擬会議に備えて知識を強化したり、言語に特化した通訳練習を行ったりします。模擬会議はEUの本会議だったりUNの総会を模した内容や設定になっており、模擬会議のスピーカーはそうした実際の会議に出席しているような人になり切って参加します。言語はB言語からA言語のみですので、私にとっては英語から日本語のみです。逐次通訳、同時通訳両方扱っています。

そして大きな特徴として、会議の運営を学生が行うということがあげられます。全4回の会議のテーマも学生の話し合いによって決まりました。また、毎回の会議は午前と午後に大きく分かれており、学生は言語の組み合わせによって午前午後いずれかで通訳をしますので、通訳をしていない方の会議の運営を行うのです。会議の運営チームには“Event Manger”(会議全体マネジャー)、“Speakers Manager”(スピーカーマネジャー)、“Head of Agenda”(アジェンダ担当)、“Chef d’equipe”(ブース担当)、“Head of technology”(テクノロジー担当)といった役割があります。基本的に運営チーム全体で、また午前午後の枠を超えて協力して進めますが、大まかには、Head of Agendaがアジェンダの枠組みを作成し、スピーカーマネジャーがスピーカー候補となるチューター、卒業生などに連絡をしてアポを取ってスピーチの依頼をします。Chef d’equipeは通訳ブースで当日問題が起こった場合の窓口となるような位置づけです。また、Head of technologyは音声が聞こえない、等問題が起こった時のメイン担当となります。運営チームで会議の座席表や通訳ブースの配置表をつくったり、ブースに各言語を表示するための紙を用意したり、模擬会議のポスターを作って、全部事前に印刷してセットすることや、当日来ていただいたスピーカーの方のおもてなし(飲み物やクッキーなどの用意)も運営チームの仕事です。

この会議の運営が非常に困難です。前期も2回のグループプレゼンテーションを経て、グループワークの大変さは経験してきましたが、今回は自分たちのチームワークが悪かったらただプレゼンテーションの評価が低くなる、といった自分たちだけに影響を及ぼすわけではなく、模擬会議全体に影響するので責任重大です。思ったように進むことはほとんどなく、どうしても会議全体のことが優先になるので個人の勉強との両立は非常に難しいです。

会議通訳2

このモジュールは、前期の「会議通訳1」の続きのような位置づけです。EU/UNの模擬会議と同じ週に計4回の模擬会議が行われます。そしてこれまでと同様にあらかじめ午前・午後に分かれて同時通訳の練習を行うのです。通訳をしていない間は会議の出席者としてスピーチを頼まれて発表することもあれば、ディベートに参加したり他の人のスピーチの内容についてコメントを述べたり質問をしたりします。

前期の会議通訳1の模擬会議のスピーチやプレゼンテーションは、ほとんど全てパワーポイントのスライドに沿って進められ、スライドは事前資料としてリサーチに使うことができました。しかし、今学期の会議通訳2はほとんどスライドはありません。事前準備の際はより少ないヒントから、周辺知識を強化したり、スピーカーのバックグラウンドから内容を予想したりする必要があります。

そして最大の違いは、A言語からB言語、つまり私の場合は日本語から英語への同時通訳があるということです。概ね1回の模擬会議に1つ、日本語のスピーチがあり、それを日本語の学生が英語に訳し、そのほかの学生はそれをさらに自分たちの言語にリレー通訳をするのです。ちゃんと内容の伝わる通訳をしなければ、多くの学生が日本語から自分の言語への通訳ができませんので、責任重大です。事前にスピーカーから出ているキーワードをもとに、関連する記事を探して音読してその分野で頻繁に使われる表現を身につけたり、また原稿が事前に渡されている場合にはベタ訳(事前に与えられた読み原稿の翻訳)を作っておいたりしてできる限りの準備をします。

また、この会議通訳2のモジュールにも言語別のチュートリアルセッションがあります。このモジュールは英→日、日→英双方向の通訳を行いますので、チュートリアルセッションは英→日で4回、日→英で4回の合計8回設定されています。

■TIPE

モジュールの正式名称からもわかるとおり、通訳者を取り巻く労働環境について、グループディスカッションを中心に進められる授業です。まずテーマとして与えられたのは「コースを修了して通訳者としてのキャリアを歩み始めようと考えたときにどうやって仕事を得るか」ということです。まだ経験も少ない中幸先の良いスタートを切るには人脈が大事ということから、どうやってもっと経験のある通訳者とのつながりを作っていくか、ソーシャルメディアの活用の仕方、履歴書やCVの書き方、名刺の作り方などについて今のところ学んでいます。また、過去の卒業生や現在通訳者として活躍されている方が仕事を受けるためにどのようなツールを活用しているかといった例もたくさん見せていただくことができます。

日本で通訳者として仕事をするというと、民間の通訳学校に通い、在学中からOJTをしたりエージェントに登録して仕事を探して社内通訳者として経験を積んで、人によってはフリーランスに転向するというのが主流な方法であるようですが、ヨーロッパではそういうわけでもないようです。また、日本以上にソーシャルメディアを活用して仕事を受けるということも多くあるようで、プライベートでソーシャルメディアを楽しむのとは違ってどのように「仕事用の」アカウントを作って活用していくかということも学びます。また、日本以上に自分のホームページを持っている通訳者も多く、実際のホームページを見ながらどのようなホームページを作ればいいのか、どういった情報をどのような表現で記載するかといったことについての授業もありました。マーケットの様子がまた日本とは全然違うので、日本の通訳市場で活用することに直結するかというと必ずしもそうではありませんが、海外ではどのような「自分の見せ方」が良いとされているかということを知るには良い機会です。

さて、後期の開始ということで、今回は後期のモジュールの紹介をしました。

次回はそれぞれのモジュールでその後どういうことを学んでいるかにも触れたいと思います。

 (模擬会議中の一コマです)


溝田樹絵(みぞたじゅえ)
東京大学経済学部卒。大学卒業後、仕事を通じて初めて「通訳者」の仕事を間近に見たこ
とをきっかけに通訳に興味を持つ。国内の民間通訳学校で2年余りの通訳訓練の後、社会
人5年目に海外の大学院で通訳を学ぶことを決意、ロンドンにて初めての海外生活中。