【第5回】通訳留学奮闘記~ロンドンメトロポリタン大学編「期末試験ー後編ー」

■期末試験を終えて

試験を終えてみるとやはり反省点は多々あります。逐次通訳では、題材となっていた時事問題はなじみがあるものでスピーチ自体も非常にわかりやすく、特にここが分からないなどということもなく試験中も「ラッキー!」と思うほどだったのですが、訳すときにはやはり細かいところにもこだわってしまって、一文一文の間をかなり長くとってしまいました。普段のようにとりあえず訳し始めて、とすると途中で文の構造をやっぱり変えたくなったりすることもあるので、それを避けたかったのですが、少し不自然で聞き手に不安を与える訳になってしまったのではと思っています。しかもそのことを本番通訳中に自覚していたので余計焦ってしまいました。同時通訳では、実は準備の10分間がいつから計測されているのかが分からず、最初しばらくの間何もせずに待ってしまっていて数分ロスしてしまいました。しかし、過去問演習の時に時間を短縮して取り組んでいたこと、またこの準備期間は「おまけ」だと思っていたのでそこまで焦らずにできたと思います。実はこちらもトピックは私が一番やりやすいと思っていた「リサイクル」が出題され、ラッキーだと思っていたのですが、自分でこんなにラッキーなのだからできなくても言い訳が聞かないな、などと余計なプレッシャーをかけてしまっていたと思います。実際の通訳では思い切って予測をもとに文章を始めるというよりは普段以上に長くデカラージュ(原発言が聞こえてから訳語を発するまでの時間のずれ)をとってしまい、練習ではあまりなかった「追いつけない」事態が発生して少し焦りました。

終わってみて、実力を全部出せたとは思えないし、調子は良くなかったと思います。出題さえたトピックなど個人的にはラッキーなことが重なったにもかかわらず、調子を合わせて自分の最大限のパフォーマンスをすることの難しさを感じました。試験当日を迎えるまで自分のできる最大限の準備や努力をしたかと言われると決してそうは言えず、もっとできたと思う節もありますが、正直なところ自分が思い描く理想の取り組み方で例えば試験前の1週間2週間を過ごせたからと言ってパフォーマンスが大きく変わったかというと今回はそうでもないとも思っています。また、当日初めて「こんな具合でやるのか」と分かることや驚くこともありましたが、実際の通訳の場面でもある程度避けられないことです。ですので、例え実力の5割6割ほどしか出せなくても、その出せる力の絶対量を増やすべく、日々能力全体のキャパシティーを増やしていくことが必要だと改めて感じました。

■もう一つのモジュール

ここまで長々と逐次通訳と会議通訳1の期末試験の話を書きましたが、リサーチと理論のモジュール、こちらは実は期末試験はないのですが、逐次通訳の試験の日を締め切りとした2000語のCritical Analysisのエッセイがあります。前回の記事でも書きましたように、私は早々に2000語を優に超える文章を書き終えていたのですが、提出の10日ほど前になって体裁を整えて備えようとしたところ、ファイルを開くとなんと、途中までしか保存されていませんでした。クラウドにとっておいたバックアップもファイルが壊れていて開けず、ワードでの修復も不可能…。よく「パソコンがフリーズして卒論が消えた! 」といった嘆きは昔から耳にしていましたが、これまでに私には経験がなく、念入りにバックアップをしていた自負もあってまさか自分に起こることとは思いませんでした。やっとの思いで書いたのに、心が折れそうになり、一時は正直提出をあきらめそうにもなり、気持ちの回復に時間がかかりましたが、提出6日ほど前に意を決して夜中にまとまった時間をとって作業をして何とか提出にこぎつけました。どんなに念入りにバックアップをしてもしすぎではないなと思ったと同時に、何事にも言えますが相変わらずハプニングが起こった時の気持ちのリカバリーに時間がかかるのが課題なので、普段の生活や勉強でも、通訳の場面でも、気持ちの切り替えをうまくできるようにしていきたいと思います。

■一足早く後期のモジュール

ロンドンメトロポリタン大学の会議通訳のコースでは、後期は会議通訳1の続きの「会議通訳2」「通訳者の労働環境」「EU/UN」というモジュールがあります。前期の3つのモジュールは全員に共通でしたが、後期は選択制のモジュールがあります。EUやUNなどの国際機関での専属通訳者を目指す人のための会議通訳EU/UNモジュールか警察や法廷などの公共サービス通訳「PSI」モジュールのどちらかを選びます。修士号を取得するためには、そのどちらかのモジュールを履行すればいいのですが、私はせっかく留学しているので「EU/UN」に加えて、公共サービス通訳の方も追加して授業に出席することにしました。他の後期のモジュールは2月第1週から始まるのに対し、公共サービス通訳は1月第2週から授業が始まっています。イギリスでは公共サービス通訳の国家資格があり、6月と11月に行われる試験に向けた意味合いの強い授業です。私は国家資格というよりは、このモジュールでの勉強を通じて日本語⇔英語の双方向の逐次通訳やサイトラ、ウィスパリングなどに取り組むことができ、今の自分の仕事のことを考えると実践的で役立つと考えたことが、授業をとることにした大きな理由の一つです。授業の内容についてはまた次回以降もご紹介したいと思います。

■その他

ロンドンメトロポリタン大学の会議通訳のコースでは、私のように留学していて1年でコースを終えるフルタイムの学生と、2年間かけてコースを終えるパートタイムの学生がいます。フルタイム、パートタイムそれぞれから1人ずつ、「学生代表」を選出し、その選ばれた学生代表は大学の授業や設備、サービスなどについて学生の意見を集めてコースリーダーやモジュールリーダー等と話し合いをするのですが、私はフルタイムの「学生代表」をしています。今回前期が終わったということで、クラスメートに「もっと授業がこういうふうに進められたらいい」「こういう設備を増やしてほしい」などの意見を聞いて回り、パートタイムの学生代表と協力して意見をまとめて、コースリーダーやモジュールリーダーとの話し合いに参加してきました。あまりリーダーのような役割を担ったことがないので自分に務まるか不安ですが、周りの人たちに助けられながら、クラスから出た意見は出せたかな、と思います。通訳の勉強とは直結していませんが、なかなかできない経験なのでありがたく思っています。

今回は前編・後編とだいぶ長くなりました。

いよいよ2月から後期の授業が始まります。また次回、新しいモジュールについてお話していきたいと思います。


溝田樹絵(みぞたじゅえ)
東京大学経済学部卒。大学卒業後、仕事を通じて初めて「通訳者」の仕事を間近に見たこ
とをきっかけに通訳に興味を持つ。国内の民間通訳学校で2年余りの通訳訓練の後、社会
人5年目に海外の大学院で通訳を学ぶことを決意、ロンドンにて初めての海外生活中。