【第4回】通訳留学奮闘記~ロンドンメトロポリタン大学編「期末試験ー前編ー」

皆さん、こんにちは。今日はいよいよ期末試験のことを中心にご紹介したいと思います。

■期末試験までの準備

3週間にわたるクリスマス休暇が終わると1月2週目から授業が再開です。とはいえ、授業再開後2週目は授業がなく、その翌週が期末試験なので、休暇が終わると即試験前最後の授業という形になります。期末試験があるモジュールは逐次通訳と会議通訳1(同時通訳)で、試験前最後の授業ではいずれも試験当日の時間の確認や試験の進め方の確認、採点基準の確認が全体で行われた後、残りの授業時間を使って過去に期末試験で出題されたスピーチを使ってのいわゆる「過去問演習」を行いました。

では、それぞれの試験について、また試験までどう過ごしたかについてもう少し詳しくご説明します。

逐次通訳の試験は以前も少しご紹介したように、6分間のスピーチを一気に訳すスタイルの逐次通訳で、英語から日本語(B言語からA言語)のみです。スピーチの題材として時事問題が扱われているということ、数字が含まれていること、イディオムやことわざも1つは含まれていることなどが事前に言われていました。用語集、辞書、オンラインのデバイスなど持ち込みはできません。

一方、会議通訳1の方は10分間の同時通訳です。題材はこれまで学期中の3回の模擬会議で扱われた「高齢化」「移民」「リサイクル」のいずれかで、言語はこちらも英語から日本語のみです。模擬会議とほぼ同じ形式でスライドを用いたプレゼンテーションの同時通訳で、試験開始と同時に6枚ほどのスライドのコピーを渡され、10分間準備期間があります。こちらは用語集、辞書、スマートフォン、パソコンなど持ち込みが可能で、この10分間を最大限利用してその後の通訳に備えます。

私自身は逐次通訳の方が不安でした。大きな理由は、題材が時事問題と広く、自分になじみがあるものからそうでないものまでどれが出るかわからないということがあげられました。特に日本からきている私にとっては、イギリスやヨーロッパ特有の背景事情を知らないとスピーチの内容がいまいちピンと来なかったり適切な訳語を使えなかったりということが過去問で練習していても何度もありました。辞書等の持ち込みもできないので、試験本番の緊張感の中、わからない単語が出てきたり、背景事情の分からない話題だったらどうしようと思っていました。また、6分間の逐次通訳では、当然ながら自分が訳す場面では自分が話さない限り沈黙です。「なんだっけ?」等と考えて少し止まってしまうとその沈黙が余計自分の緊張を増します。一方同時通訳では幸いそんなことを考えている余裕はなく次々と訳していくのでその点では不安は少ないと思っています。

最終授業が終わってから試験までの約10日間、逐次通訳は毎日過去問に取り組むよう心掛けました(本当は同時通訳も何らかの形でやるつもりはありましたができませんでした)。普段の授業の教材などをダウンロードできる学生用のサイトに、過去の試験問題が7、8年分載っているので、それを使って試験と同様一気にメモを取りながら聞き、一気に訳して自分のパフォーマンスを録音しておき、終わったら聞いて、気が付いたことを「自分のパフォーマンス振り返り用」に作っているノートに書いていきました。スクリプトが入手できるものは、スクリプトを見て内容を確認することもありました。これで大体過去問1回分で30分〜1時間です。昨年の試験に出題されたものから始めてめてだんだんと遡る形で取り組んでいきました。試験の5日ほど前に、「初見用」として演習できるようにとっておいた1回分を除いて一通り過去問に取り組み終わったと思います。

しかし決して勉強は順調ではありませんでした。疲れてしまったり、集中力がそがれてしまったりして、自分の体感では当初「よし、これだけやるぞ!」と思っていた半分も取り組めていないと思っています。そしてそのことで自己嫌悪に陥ったり、一日の終わりになって「今日もあまり取り組めなかった…」と落ち込んだり焦ることも多くありました。また焦りに加えて、「試験だからもっと情報を細大漏らさず把握しなくては」と思いすぎて必要以上にメモを取るようになってしまい、これまで授業で身に着けたメモの取り方からは少しずつ離れ、自分の焦りに追いつくどころか離れていくかのようにどんどん通訳はできなくなっていく感覚もありました。そこで、これまで当たり前にやっていたことを取り戻そうと思い、割と自分が取り組みやすい、馴染みやすいと思った過去問について「メモなし6分逐次」で練習してみました。もちろん情報量は落ちますが、一番大事なkey messageをとるというところに立ち返ろうと考えたのです。過去問2、3回分をメモなし逐次をやってからメモを取って取り組むということをしたおかげで、「完璧主義のメモの呪い」から無事抜け出すことができたように思います。

試験2日前になって、ようやくまとまって数時間をとって、時事問題をチェックしました。試験問題作成期間を考えると12月までのニュースであることを考慮し、2018年のイギリス、ヨーロッパで起きた出来事をチェックしたり、各国の政治体制や政治家の名前や肩書を確認してノートにメモしました。本来もう少し早くやっておく作業だったと思いますが、通訳そのものが不安だったことと、幅広く時間をかけて知識を増やすことは確かに自分のためにはなりますが、試験のことを考えると出題されるテーマは1つ2つなので、効率を考えると直前に短時間で集中して対策をしようと思っていたからです。試験前2日間は1日の半分を逐次、もう半分を同通の練習に当てました。逐次通訳はこの2日間で、これまでに取り組んだ過去問すべてをもう一度、一通り試験と同じ方式で取り組んで録音して気づいたことを書き出すということをしました。

***

さて、ここまで逐次通訳の話ばかりしてきましたが、実は同時通訳は試験3日前まで、学期中の模擬会議で作った用語集の確認等はしていましたが、授業以外に自分では一切過去問に取り組んでいませんでした。試験1週間ほど前から学期中に行われたチュートリアルで扱ったスピーチなどの復習をして、試験3日前から過去問に取り組み始めました。それでも、スライドを渡されてから辞書やインターネットを使って10分間準備期間があることやトピックが絞られていることもあり、逐次ほどの不安はありませんでした。

自分で過去問に取り組む時には、10分間の準備期間を8分に短縮して演習を行いました。当日は緊張もあり、普段以上に丁寧に時間をかけてしまったりすることが絶対にあると考えたからです。そしてスライドをダウンロードしても印刷が自宅でできないので、スライドごとに本当は書き込みたいことをメモに書いて準備しまして、タイマーが鳴ったらスピーチを流して通訳をするといった具合です。こちらも録音して自分のパフォーマンスを聞き、気づいたことを「自分のパフォーマンス振り返り用ノート」に書いていきました。こうして1通り1回分の過去問をやるのに30分ほどです。自分で取り組んでいる間に同時通訳は逐次のようなスランプはなくむしろトピックは3つに1つと決まっているので、だんだん「何とかなるのでは?」という気になっていたために、当初の予定より勉強は減速気味だったと思います。ただ、「高齢化」「移民」「リサイクル」の中では個人的には「リサイクル」が出るといいなぁ、「移民」は日本人にとってはなじみが少ないこともあるし自分にとっては一番難しいと思っていました。過去問の中には3つのトピックのうち複数を組み合わせたプレゼンテーションもあったので、そういったケースも想定はしていました。また、不安材料としては、今年の試験のプレゼンテーションのスピーカーは会議通訳1のモジュールリーダーですので普段から耳馴染みはありますが、過去問の中には別のスピーカーの物しかなかったので、プレゼンテーションとなるとどうなるのか本当は演習しておきたかったという気持ちはありました。

***

試験は1日目が逐次通訳のモジュール、2日目が会議通訳1のモジュール(同時通訳)です。いずれも午前中で、私が指定された時間は朝一番でした。あまり朝に強くないので、起きてから時間が経ってからの試験がいいと思い、逐次通訳の試験の日は早起きして、朝4時からとっておいた初見の過去問1回分と、もう一度やっておきたいと考えた過去問2、3回分に取り組み、余裕をもって学校に行きました。終了すると、まっすぐ家に帰り、気持ちを切り替えて翌日の会議通訳1の試験に向けて同時通訳の練習をするつもりだったのですが、眠くて仕方なかったので、この日はあきらめて寝ることにして、翌朝3時から同時通訳の演習をしました。会議通訳1の過去問に取り組んだのは遅かったのですが、2日前までに幸い過去問は一通り終わっていたので、もう一度取り組みたいものを選んで何年分か演習を行い、用語の確認などをして本番を迎えました。

 


溝田樹絵(みぞたじゅえ)
東京大学経済学部卒。大学卒業後、仕事を通じて初めて「通訳者」の仕事を間近に見たこ
とをきっかけに通訳に興味を持つ。国内の民間通訳学校で2年余りの通訳訓練の後、社会
人5年目に海外の大学院で通訳を学ぶことを決意、ロンドンにて初めての海外生活中。