【第3回】通訳留学奮闘記~ロンドンメトロポリタン大学編「年内の授業が終了、クリスマス休暇」

皆さん、こんにちは。この記事を書いている現在はクリスマス休暇中です。今回は、休暇前までにそれぞれのモジュールで新たに学んだことに加えて、クリスマス休暇中の取組みやモジュール以外のことについてご紹介したいと思います。

■各モジュールで新たに学んだこと

1.逐次通訳

前回も少しご紹介した、ノートテイキングの時に使うシンボルについては、数回の授業でじっくり学びました。また、これまで学んだノートテイキングやnon-verbal skills(言語そのもの以外のスキル)、イントネーション、イディオムなどいろいろなスキルを組み合わせて、授業内でも6分程度のスピーチの通訳演習をすることが多くなりました。これは、前回の記事でもご紹介したように、今学期の期末試験が、6分のスピーチを一気に逐次通訳するものであるのを見据えてのことです。

さらに、年内最後の逐次通訳の授業は、グループワークでのプレゼンテーションでした。通訳学習に関連したテーマを設定して、3〜4人のグループでリサーチやインタビュー、簡単なアンケートを行ったり、関連する論文を読んだりして、20分前後のプレゼンテーションを発表しました。これは、成績評価の対象になります。私のグループではノートテイキングをテーマにし、特にスピーカーの話すスピードと通訳者のノートテイキングについて、チューター(言語に特化したフィードバックをくださる講師の先生)や卒業生の方、クラスメートに、実験への参加やアンケートへの協力を仰ぎながらプレゼンテーションを作成しました。他のグループも、ノートテイキングをテーマにしていたグループが多かったように思います。1カ月ほど前に、リサーチと理論のモジュールでもグループプレゼンテーションを行った際にも感じましたが、出身地やこれまでの経験等バックグラウンドが全く異なる人たちで集まったグループで、その上現在同じクラスの仲間であってもそれぞれの置かれている状況が大きく違う中、グループワークを進めるというのは想像以上に難しいことでした。

2.リサーチと理論

このモジュールでは、成績評価の期末試験らしい「期末試験」はありません。その代わり、成績評価は11月初旬に行われたグループプレゼンテーションと、1月の学期末に提出のエッセイをもとに行われます。エッセイの課題は「通訳学習に関連した論文のCritical Analysisを行って2000語程度にまとめる」といったものです。コースの最後に修士論文を書くことを見据えて、Academic Writingの練習の意味合いもあるそうです。

12月になってから、授業の内容もほとんどこのエッセイの課題の準備のためにCritical AnalysisやAcademic Writingに関することが多くなりました。そして、このエッセイの提出期限は1月下旬ですが、どの論文についてエッセイを書くかを12月上旬に定めて提出する必要がありました。私は逐次通訳のグループプレゼンテーションにも共通しますがノートテイキングに興味があり、ノートテイキングの際の言語の選択をテーマとしている論文に決めました。

3.会議通訳2

12月上旬に、早くも今学期最後の、第3回模擬会議が行われました。テーマは「リサイクル」です。通常の同時通訳の練習だけでなく、第1回の模擬会議以来のプレゼンテーションの機会もいただきました。午前・午後と計4時間ほどにわたって行われる模擬会議では、合計12名のスピーカーがいますので、今回も他の人と内容が重複しないようにということを意識して、「水のリサイクル」について、日本が世界に誇る技術を紹介しながらプレゼンテーションを行いました。前回のプレゼンテーションでの「より聞き手のことを意識して話す」という反省点を終始心がけることはできたのですが、なんと、本番中に時間が足りなくなってしまい、フロアから巻きの合図を見たときには少し焦りましたが、その場で、残りの内容をあきらめてそこまでの内容でまとめる決断ができたのは良かったです。また、質疑応答の時間に私宛の正直想定外の質問も頂いたのですが、その場で考えながら答えることができたのも収穫です。

通訳の面では、もっと準備をしておけばよかった、いった後悔なく、準備しておいたGlossaryの中の単語や調べた背景知識を活かしながら通訳ができたのは良かったと思います。ただ、回を重ねるごとにますます多くの課題が見つかります。今回感じたのは大きく分けて2つです。
1つめは、自分のパフォーマンスについて。これまで、早口のスピーカーについていくことの大変さばかり意識が向いていましたが、ゆっくり話すスピーカーも非常に難しいのです。そうしたスピーカーの通訳となったとたん、突然言葉がブツ切れになってしまいがちです。そして英語以外の言語からのリレー通訳となると、英語への通訳をするクラスメートもスピードの遅さに苦労しているのが感じられ、さらに日本語訳はブツ切れになりがちです。そういう時はもっと大きな意味の塊まで待ってから自然に言葉を出せるところで話し始めるように次回から気を付けようと思います。また、会議を聞いていた卒業生の方からご指摘いただいたのが、順調に通訳していても時々、急に砕けた話し言葉が混ざることがあるということです。普段の自分の言葉遣いはもちろん、報道などでどういった日本語が使われているかということにももっと注意して日頃から過ごしていこうと思います。

2つめは、パートナーとのブースワークです。まだまだパートナーからの交代にすごく苦手意識があり、もっと練習が必要です。また、現在授業では、自分が通訳をしていない時でもパートナーのために数字のメモなどをとるように言われていますが、私はまだまだ自分が通訳していない時は「へぇ!」「なるほど!」「こう訳そうかな?」等と思いながら聞き入ってしまうことも多いので、もっと余裕をもってパートナーの人にも心配りができるようになりたいです。

さて、上記のモジュールのうち、逐次通訳と会議通訳1には「チュートリアル」という時間があります。モジュールの授業が、多言語の混合であるのに対し、チュートリアルは言語別に特化しており、言語ごとにチューターの先生がいらっしゃいます。逐次通訳では6コマのチュートリアルが設定されており、また会議通訳1では模擬会議とチュートリアルにてチューターから指導を得る機会が合計8コマあります。逐次通訳では、主に多言語での授業の演習の際にチューターの先生もいらっしゃってスピーチの逐次通訳の演習を行うごとにフィードバックをいただきます。日本語の訳語の選択や、日本語も交えたノートテイキングの方法など丁寧に教えていただきます。普段多言語での授業で習っているノートテイキングの方法をヨーロッパの言語ではない日本語にそのまま応用することが必ずしも容易ではないので、日本語を活用したノートテイキングのアドバイスは非常に実用的です。会議通訳1のモジュールでの同時通訳のチュートリアルでは、多言語の授業とは別の時間に模擬会議のテーマになっていた「高齢化」「移民」「リサイクル」のそれぞれについて、関連したニュース記事を用いてサイト・トランスレーションなどの基礎訓練を行ったり、それぞれのテーマのスピーチを用いて同時通訳の練習を行ったり、自分たちでテーマの理解を深めるためにスピーチを作成したりします。また、毎回桁の大きな数字の変換の訓練や、メモなしでの逐次通訳なども行います。多言語での授業を通じて、どういう通訳をするのがよいのかだんだんとなんとなくわかるようになり、そのための練習の仕方のアドバイスなども頂いて自分であれこれ試行錯誤をしながら練習をするのですが、チュートリアルではやはり言語に特化しているということやそれゆえ少人数で指導していただけるので、これまで試行錯誤をしていた、なんとなくぼんやりとしていた部分が埋まっていくような感覚があります。

モジュール以外には、週に一度、ワークショップのようなセッションもあります。単語の学習の仕方についてフラッシュカードを作ったり、グループで問題を出したり、アプリを利用したりいろいろな方法を紹介いただき試してみるといったワークショップのこともありましたが、逐次通訳の演習を行うことも多いです。

■冬休みの取組み

12月2週目で年内の授業は終わり、3週目から1月の1週目まではクリスマス休暇となります。休暇中も、通訳しない日がないようにというアドバイスを先生方や先輩方から頂き、毎日何かしら通訳の勉強を行うよう心掛けながら過ごすことになります。また、なかなか通常学期中に落ち着いて時間が取れず読めていなかった論文や書籍を読んだりする貴重な機会にもなります。
そして忘れてはならないのが、リサーチと理論のモジュールのエッセイの課題です。提出期限の1月下旬まで一見時間はあるようですが、同時期に逐次通訳と会議通訳1の期末テストもある上、休暇が終わるとまた授業が再開することもあり、休暇中にある程度進めておかないといけなく、なかなか楽観視できないのです。

私は留学生活が始まってから特に、これまで日本語でも英語でも読んだり書いたりする経験が少なかったことを痛感しており、苦手意識もあるので、重い腰を上げて取り組みました。まず、自分の選んだ論文を、メモを取ったりラインマーカーを引いたりしながら丁寧に読んだ他、私の選んだ論文自体がCritical Analysisを行っているものなので先行研究の論文も探して丁寧に読みました。そして、記憶が新鮮なうちに一気にドラフト原稿を書き上げました。最初は導入の一文目からなんて書き始めようかとても悩み、書き出すのにとても時間がかかったのですが、これまでに習ったAcademic Writingの定石に忠実に従っているか、まずは過剰に気にせずに書き始めようと決めたことで進めることができました。初めは2000語というのはとても遠いゴールのように思えたのですが、一旦勢いがつくと、予想よりもはるかにあっという間に2000語に到達しました。もう少し時間をおいてもう一度読んで加筆修正を行い、書式や体裁を整え、引用等を抜いた正しい語数を数えたりして仕上げようと考えています。

次回は、前期のモジュールのまとめや期末試験についてご紹介したいと思います。


溝田樹絵(みぞたじゅえ)
東京大学経済学部卒。大学卒業後、仕事を通じて初めて「通訳者」の仕事を間近に見たこ
とをきっかけに通訳に興味を持つ。国内の民間通訳学校で2年余りの通訳訓練の後、社会
人5年目に海外の大学院で通訳を学ぶことを決意、ロンドンにて初めての海外生活中。