【第1回】通訳留学奮闘記~ロンドンメトロポリタン大学編

皆さんこんにちは。溝田樹絵(みぞたじゅえ)と申します。2018年10月より、ロンドンメトロポリタン大学の会議通訳修士コースで学んでいます。ロンドンでの留学生活で体験することを、等身大でお伝えしていきたいと思います。海外での通訳訓練の様子に興味をお持ちの方や今後留学を考えている方に少しでもお役に立てればと思います。初回の今回は、クラスの様子と、授業の一部をご紹介したいと思います。

まず、クラスに今秋10月入学したのは15人で、ヨーロッパを中心にアジア、アフリカなどから様々な年代、様々なバックグラウンドを持った学生が集まっています。みんな英語は共通していますが、通訳する言語の組み合わせも数も人によって多様です。実際の通訳パフォーマンスのフィードバックを中心に、同じ言語の組み合わせの学生同士で集まったり、その言語の組み合わせのチューターから教えていただいたりということもありますが、授業のほとんどは言語にかかわらずみんなで一緒に受けます。実はそのことが私が留学先を決定するのに重要視した一つです。海外の大学院の通訳コースの中にも、英語⇔日本語のように決まった言語で学科編成を行うところもあります。しかし私は、留学生活を通して、通訳スキルだけではなく、いろいろな英語を聞いて多様性の中で学ぶ経験を得たいと考えました。今年はクラスメート15人のうち私を含め3人が日本人で、これは例年に比べると日本人の割合が多いそうです(全体人数が少なめで日本人人数が多め)。英語⇔日本語の仲間がいるということは、ブースワークなど1人では学べないことを実践的に学べる等の大きな利点がありますが、何より、困った時に気軽に聞いたり助け合える安心感は大きいです。

10月からスタートしたコースでは、論文の提出まで含めて一年間のカリキュラムで、大きく前期、後期と分かれています。前期の現在は3つのモジュール(科目のようなイメージ)があり、“The Interpreter’s Skills and Tools” “Conference Interpreting 1” “Interpreting Theory and Research for Interpreters” と名前がついていますが、長いのでそれぞれ「逐次通訳」「会議通訳1」「リサーチと理論」と呼ぶことにします。

■逐次通訳

まず逐次通訳(The Interpreter’s Skills and Tools)が基本となります。初回の授業の時に聞いた、このモジュールで扱うトピックには、記憶訓練、ノートテイキング、言語コミュニケーションと非言語コミュニケーション、プレゼンテーション、予測、集中力等通訳の勉強をする上で必要な事柄が詰まっています。週に3コマ(1コマは2時間)あり、うち1コマはこうしたテーマに沿った説明を聞いた後に実際に通訳訓練の中で活かしてみる、2コマは通訳演習が中心となります。

そして何よりこのモジュールの特徴は毎週課されるスピーチです。前の週の日曜の昼までに、その週のテーマに沿って両言語(私の場合は英語と日本語)でリサーチをし、Glossary(いわゆる単語リストのイメージ)を作成し、内容を考案したうえでスピーチを自分で動画で録画してアップロードして提出します。題材として共通しているのは「なるべく自分の国に関連した1週間以内の時事問題であること」です。この課題がなかなか大変です! 耳にしたことのあるニュースでも、そのほとんどは、自分が人に話せるほど理解していませんし、まして英語で話すということになると自分がいかにモノを知らないかということに気づかされます。初回のスピーチはたったの1分でしたが、そのリサーチをするのに数時間、スピーチを人に伝わるようなものにできるよう練習して録画するのにさらに数時間、1分のスピーチのためにこんなにかかってようやくできたものも決して満足できるものではなく、想像以上の自分の知識不足や能力不足にため息をつかざるを得ませんでした。そのスピーチも2回目からは3分となり、3回目は一風変わって「自分のなじみのない国旗について」、4回目は初めて母国語(日本語)でのスピーチをしてクラスメートのものを英語に通訳。そして現在取り組んでいるものは4分のスピーチですが、「自分の本心とは反対の意見をそれらしく述べる」というものです。

授業の中で良いパブリックスピーキングとはどのようなものかということについても、クラスでディスカッションをしたり意見を出し合ったりしながら学びます。中でも特に繰り返し強調されるのは「スピーチの中での自分の話し手としての立場を明確にすること」「スピーチの目的を明らかにすること」「導入(Introduction)と結論(Conclusion)に注意を払うこと」です。初めのころの私のスピーチは、新聞記事等から得た事実の羅列であり、特にスピーチの目的など考えたこともありませんでした。また、時事問題のスピーチでは政治家や企業の経営者等になり切ってその立場でスピーチすることも多くあります。けれども自分以外の誰かになり切って「〇〇社の社長を務めております溝田樹絵です」といったスピーチをすることは芝居をするようで気恥ずかしくなかなかできずにいました。しかし、スピーチの中で「溝田樹絵」でいるだけでは、説得力をもって話せる話題も限られてしまい、内容にも幅がなくなってしまうことに気づき、ようやく4度目のスピーチで架空の立場でスピーチをすることができました。

さて、このスピーチですが、各自スピーチをすることが最終目的ではなく、クラスメートのスピーチを通訳の練習に使います。

授業の中で立候補したり指名されたりしてスピーチを披露するとき、他の人はスピーチを最後まで通して聞いた後に訳出を個人個人で行い、各自のボイスレコーダーに録音します。また、スピーチの宿題はGlossaryやReferencesと一緒に映像をクラス全員が見られようクラウドの指定フォルダーに提出しているので、私はクラスメートのスピーチを使ってメモあり・なし両方で逐次通訳の練習をしています。トピックも基本的にそれぞれの学生の自分の国の時事問題なので、この学習を通じて今世界で起きていることを知ることもできて一石二鳥です。

スピーチそのものの他、通訳スキルとしては今、ノートテイキングを学んでいます。初めは聞くことに集中するため、1〜2週間はメモを取ることが許されていませんでした。その後、「5つまでキーワードを取ってOK」「絵のみOK」「漫画のようにコマ割りすればOK」などと色々な制約のメモ取りに挑戦しました。意外だったのは、絵でのメモ取りが想像以上に効果的だったことです。これは意識的に絵で描くことでビジュアル化・非言語化が無意識にできたということなのではないかと思います。今は以前よりメモを取って良い量が増えましたが、それでもメモ取りはあくまで記憶を呼び起こすためのきっかけということを忘れずに理解することに重きを置いて取り組んでいます。

■リサーチと理論

「リサーチと理論(Interpreting Theory and Research for Interpreters)」はその名の通り、通訳者として業務にあたるのに必要なリサーチ手法やその意義、そして理論について学ぶモジュールで、週に1コマです。なぜリサーチが必要なのか、なぜ理論が必要なのか等のディスカッションから始まり、ある通訳業務に対し自分だったらどのような準備をするか、なぜその方法をとるのか等授業の中でディスカッションを多くします。ほぼ毎週の宿題で、理論に関連した論文の一部を読み感じたことや、自分のこれまで取ってきたリサーチ手法について批判的な視点から考えたことを文章でまとめて提出します。現在取り組んでいるのは、5人のグループで架空の会議を想定し、その通訳業務についてなぜそのような手法をとるのか、とことん「なぜ」というところにこだわってプレゼンテーションをします。いろいろな国の人とグループを組んでグループワークをするということ自体初めての経験で、進め方についての話し合いからすでに新鮮に感じています。

次回は、今回説明しきれなかった会議通訳1やモジュール以外の授業、その他新たに学んだことについてご紹介したいと思います。

クラスのみんなで自分の故郷の料理を持ち寄ってSocial Lunchをしました!

溝田樹絵(みぞたじゅえ)
東京大学経済学部卒。大学卒業後、仕事を通じて初めて「通訳者」の仕事を間近に見たこ
とをきっかけに通訳に興味を持つ。国内の民間通訳学校で2年余りの通訳訓練の後、社会
人5年目に海外の大学院で通訳を学ぶことを決意、ロンドンにて初めての海外生活中。