【第2回】通訳留学奮闘記~梨花女子大学校通訳翻訳大学院編~「ピカピカの1年生、新学期スタート」

34歳でハングル文字から韓国語学習をスタートさせ40歳を目前に韓国の通訳翻訳大学院に入学した私が、「通訳のための海外留学」のリアルな実態をお届けします。

今回は、3月2日からスタートした新学期についてのレポートです。

韓国の新学期は「受講申請」という関門から始まる

日本の大学の「履修登録」にあたるものを、韓国では「受講申請」と呼びます。文字どおり受講したい授業を自ら選択して申請するものなのですが、日本のように一筋縄でいかないのが“韓国スタイル”です。

日本であれば、決められた期間内に登録さえ済ませれば大抵は履修可能です。人気の授業に希望が集中し抽選となることもありますが、卒業要件に影響するほどではありません。

一方、韓国の「受講申請」は先着順が一般的です。数秒の差で希望の科目が、しかも卒業に必修の科目なのに取れなかった――というのはさほど珍しい話ではありません。

受講申請受付スタートの数十分以上前からパソコンを立ち上げておいて待機するのは基本中の基本で、より高速なインターネット環境を求めてネットカフェに向かう学生もいるほどです。

この「受講申請」バトルに初めて参戦するとあって数日前から極度に緊張しつつ、先輩方に連絡を取りながら情報収集を行いました。

ところが、先輩方からは意外にも「全く心配しなくて良い」との返事。

大学と違って大学院、それも通訳翻訳大学院のような専門大学院の授業は専攻別に細分化されており、他の学生の入る余地がないため競争力は高くないというのです。

それどころが定員未達で「閉講」になってしまう科目もあるという話で、実際、私が申請したうちのひとつは受講希望者が2名しか集まらず(!)閉講となってしまいました。

今学期は6科目でのスタート

私の通う梨花女子大学通訳翻訳大学院(以下、梨大)の場合、1学年前期では最大14単位が履修可能で、科目数にすると7科目です。私は必須科目5つプラス選択必修科目1つの計6科目(それぞれ1コマ2時間×週1回)を履修することになり、想定よりもやや余裕を持ってのスタートとなりました。

具体的な内容は以下のとおりです。

1. 通翻訳入門

「等価」「忠実性」「意味の理論」「スコポス理論」「努力モデル」など通翻訳に関連する様々な概念や理論を、韓国語や日本語で書かれた論文を読みながら理解していくものです。

担当者の発表の後に、質疑応答、討論、教授からの補足説明が続きます。

梨大は韓国の他の通訳翻訳大学院とは異なり通訳専攻と翻訳専攻とでクラスが分かれているのですが、この授業は両専攻の学生が顔をあわせる数少ない機会の一つとなっています。

翻訳を集中的に学んでいる学生の意見やその表現力から刺激を受けることも多く、毎週楽しみにしているレッスンです。

2. 韓国語

韓国語ネイティブと共に「より高い水準での韓国語表現力」の習得を目指すものです。

作文、添削、要約、パラフレージング、翻訳文の比較・批評、擬声語・擬態語、文法クイズなどを行います。

非ネイティブ(=日本語ネイティブ)にとっては苦労の連続ですが、クラスメイトの様子を見ているとネイティブだからといって楽勝というわけでもなさそうです。

結局のところ語学力とは、論理的な思考力、情報整理力、表現力がモノを言うのだということを痛感させられます。

3. 実務翻訳

ビジネスメールや商品取扱説明書、自治体の広報文書など、実務で扱う機会の多いテキストを中心に翻訳し、互いの訳文を比較・討論します。

皆で一斉に同じ文章を翻訳し他の人の素晴らしい表現を参考にできるというのは、こういう場だからこそ許される貴重な機会なのかもしれません。

「辞書の意味に惑わされすぎないように」「原文に影響されすぎないように」「1対1でただ置き換えるのではなく、状況(意味)を正しく把握しそれを目標言語(訳出する言語)で再構成するように」などというアドバイスをよく受けています。

4. 文章口訳(サイトトランスレーション)

環境や経済、AIなど各分野の記事やコラムを朗読したのち、文章を目で追いながら通訳していくトレーニングを行います。

同時通訳の訓練の一つとも、通訳訓練の基本中の基本とも言われているものです。

教授からは「1年生のうちは目についた文章すべてサイトトランスレーションせよ」という“お達し”も。

それほど語学能力と通訳スキルの向上に大きく作用するのがこのトレーニング、だと言うのです。

5. 逐次(韓日)

ノートテイキングの基礎を学ぶ授業です。

ですが、最初の1か月はノートテイキングが許可されず、メモリートレーニングを集中的に行いました。

「ノートテイキングは速記にあらず。メモリーが難しいもの(=書き留めるべきもの)は何なのか、メモリーで対応可能なもの(=書き留めるべきでないもの)は何なのか、それらをきちんと把握しないと効率的なノートテイキングは不可能」という教授の考えによるものです。

今はやっとノートテイキングが許されましたが「聞きながら正しく理解し効率的にメモをとる」というマルチタスクができているかというと、程遠い状況です。

書きはじめると簡単な内容でも聞き取れなくなる現象、聞き取りに集中しようとすると何も書けなくなってしまう現象――に苦しめられています。

6. 逐次(日韓)

日韓の逐次レッスンも同様に、最初はメモリートレーニングからスタート。

その後、記号の作り方から構造的なノートテイキングの方法、練習手法に至るまで、一つひとつ丁寧にガイダンスしてもらいました。

日本語で聞いて韓国語に訳出する授業のため、ノートテイキングのハードルは比較的低めです。

ですがその分、耳から入ってくる日本語の内容量と自分の口から出てくる韓国語の内容との差に愕然とすることにもなります。

* * *

前期のカリキュラムにはこのほか、惜しくも閉講となってしまった「作文」と、韓国語ネイティブを対象にアクセント矯正を徹底的に行う「日本語」の授業があります。

次回は、1学期を丸ごと終えた私の近況についてお伝えします(自分でもどうなっているのかが全く予想できずドキドキです)。

講義棟入り口のすぐ横に設置されている自習スペース。通路を挟んだ向かい側には少人数でのディスカッションが可能な丸テーブルもあります。

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中村かおり

韓日通訳者を目指すライター。マスメディア業界での記者・編集者生活を経て独立後、2018年1月の初ソウル旅行をきっかけに34歳で韓国語学習をスタートさせる。2020年秋から半年間、韓国・ソウルでの語学研修に参加。2023年3月から梨花女子大学通訳翻訳大学院(修士課程・韓日通訳専攻)にて通訳専門訓練中。