【第6回】通訳案内士のお仕事~北の大地から「北海道の通訳案内士・知識編」

皆様、こんにちは。北海道の通訳案内士・通訳者、飛ヶ谷園子です。前回は、通訳案内士の仕事について、北海道とその他地域での実践面での違いについてお伝えしました。第6回目の今回は、ガイディングの知識面についてお話します。

通訳案内士に必要な知識

新人ガイドが先輩たちから何度も言われる言葉があります。それは「どんな質問をされても『知らない』とは言ってはいけない」ということです。もちろん知らないことを聞かれてしまうこともあり、そんな時にどうするかというテクニックを教えてもらったり工夫して身につけたりするのですが、ベストなのは答えられない質問を減らす、つまりは必要な知識を事前にしっかり学んでおくということです。

それでは、訪日外国人旅行客をガイドとして案内する時、どのような知識が必要となるでしょうか?全国通訳案内士(2017年の法改正以前の名称は『通訳案内士』)の資格を得るためには、観光庁主管の国家試験である全国通訳案内士試験に合格する必要があり、1次の筆記試験の試験科目は「外国語」「日本地理」「日本歴史」「産業・経済・政治及び文化に関する一般常識」「通訳案内の実務」となっています(2021年現在)。「通訳案内の実務」は2017年の法改正後に新しく加わった科目で、旅程管理の実務についての知識を問うもので、それ以外の4つの科目は観光案内、いわゆるガイディングのために必要な知識のベースとなるものです。

もちろん試験はあくまで試験ですから、実際にガイドをするためには、訪問する地域や施設などについてさらに深く学ばなければなりません。例えば、私が通訳案内士試験を受験した時の「一般常識」科目には、純米酒や吟醸酒など、日本酒の種類の定義について正誤を問う問題がありました。試験に合格して資格をとるためにはこれらの定義を知っていればいいのですが、実際に酒蔵をガイディングするためには、日本酒の製造過程をすべて資格取得言語で説明できなければなりません。さらに米作りや麹、日本酒に合わせる食べ物など、関連して質問される話題はいくらでもあります。このように、それぞれのテーマや地域、歴史的事象について、広く深く知っている必要があるのです。

地域によるガイディングの違い

良いガイディングのために学ぶべきテーマはたくさんありますが、今述べた「日本酒」については一度勉強すれば全国どこの酒蔵へ行っても使える知識ですし、寺社仏閣も全国にあるので「仏教」「神道」というテーマも広く応用がききます。また、日本の社会や生活など、いわゆるジェネラルトピックも地域に関係なく話せます。このように、どこへ行っても使えるトピックも多くあります。しかし、やはり地域によって異なるテーマの方がはるかに多く、そのような知識を身につけてきちんと説明することは良いガイディングのためには不可欠ですが、難しくもあります。

私はガイドの仕事は北海道内で行うことが多いですが、北海道を案内する時に、例えば戦国時代や刀剣の話をする機会はほとんどありません。試験に合格する程度の一通りの知識はあっても、良いガイディングをするには全く足りなく、新しい土地を訪問する時にはたくさんの勉強が必要になります。北海道外でガイドの仕事をしたり、そのために勉強をしたりするたびに、北海道という土地の特殊性を実感します。

反対に、北海道外の通訳案内士の方々が北海道でツアーをする時に、「自然についての説明が多くて大変だ」という話はよく聞きます。インバウンドに限ったことではありませんが、北海道旅行は自然の景観を楽しむ時間がたっぷりととられていることが多く、また前回お話したように、移動時間が長いため、車窓から見える自然の話をすることもよくあります。畑があれば「何の作物を作っているのか」と聞かれますし、エゾシカやキタキツネなど北海道固有の野生動物に遭遇したり、動物との接触事故による交通障害が起こったりして、動物の話をする機会も多くあります。ですから、樹木、動物、鳥など自然のものや、酪農業を含む農業や漁業についての基本的な知識は、北海道をガイドする際には必要なものと言えるでしょう。

今回は通訳案内士の仕事について、北海道とその他の地域で必要となる知識の違いについてお話しました。次回は、北海道旅行でよく起こる出来事についてのエピソードをお伝えします。


飛ヶ谷園子(ひがや そのこ)

北海道札幌市在住。全国通訳案内士(英語・ドイツ語)、英語通訳者。北海道通訳案内士協会理事。日本の漫画・アニメに興味のあるお客様とのコミュニケーションを強化するため、現在様々な漫画を読んで勉強中。