「国際会議デビュー!体験記~イングリッシュ 綾乃」

今回、金城初美さんの第5回JACI特別功労賞記念講演「法廷通訳という仕事~半世紀の経験から」で同時通訳デビューという、とても貴重な機会に恵まれましたので、デビューにあたっての経緯、準備から本番までの様子や学んだことを、私と同じように通訳を目指す方の参考になればと思い、こちらでご紹介したいと思います。

お誘いはいきなりやってきた

バタバタした夏休みが、やっと、もうすぐで終わるかな、と思っていたところへ、「綾乃さん、関根マイクさんからのお誘いで、グループで同時通訳やりませんか?」とオルセン聖子さんから、お誘いがきました。もともと、JACI主催の夏の通訳ワークショップを受ける予定でしたので、その一環かと思い、「興味ありますが、レッスン料はおいくらですか?」と聞いてしまいました。

まさか通訳の勉強を始めたばかりの私に、本番のお誘いがくるとは思っていなかったからです。2年前に沖縄キリスト教学院大学・沖縄キリスト教短期大学主催の同時通訳集中講座を受講し、これから本格的に勉強してみよう、というところだったのです。

仕事の調整をしつつ、私が引き受けていいものか、はたして引き受けて出来るのか、と半日ほど考えました。悩んでいるときに、偶然にも世界最高齢のプログラマー若林正子さんの「挑戦することに、早いも遅いも関係ない」と書かれた記事を読み、これも何かのご縁だから挑戦してみよう、と思いました。また、実践の経験を積んでみたいという思いも、常にありました。

2年前に同時通訳講座を受講したあとは、講座のような本格的な勉強や訓練はやっていませんでしたが、日々の通勤中にラジオを聴いてシャドーイングする、同時通訳に関する本を読むなどをして、私なりに勉強していました。

実は、関根さんの『同時通訳者のここだけの話ープロの通訳者のノート術公開ー』、という本も読んでいたので、今回、関根さんからのお誘いに、通訳デビューもしていない私が誘われたことは、すごく驚きました。と同時に、ひょんなことからご縁は繋がるもんだと、嬉しくなりました。

こうしてご縁が繋がり、同時通訳デビューをするという運びになりました。

事前準備について

今回は、JACI特別功労賞記念講演ということで、事前に、金城さんが当日に使用するプレゼンテーションの資料を頂くことができました。法廷通訳者として、ご活躍されていることもあり、資料には、普段見慣れない難しい法廷の言葉が並んでいました。また、金城さんは在日米軍絡みの裁判を担当することも多く、日米地位協定などの文字が・・・。沖縄出身の大先輩の素晴らしい功績の記念講演の通訳が、私に務まるのだろうか、と不安がよぎりました。

頂いた資料を、何度も何度も読んでも、理解、把握するのに時間がかかってしまいました。お恥ずかしいことに、頭が日本語を拒否していたのかもしれません。私はリサーチをどこから始めていいのかすら、わからなくなっていました。

今回、一緒にグループ通訳を担当してくれた、オルセンさんと渡真利いつきさんには、通訳するにあたって、沢山アドバイスをしてもらいました。本来ならば、自分でやらないといけませんが、お二人が、様々なリソースや、金城さんの功労賞受賞者コメントを読んで録音してくれた音声を提供してくれ、シャドーイングや同時通訳の練習にとても助かりました。この助けがなければ、私は本番当日、もっと頭が真っ白になったと思います。本当にありがとうございました。

例えば、YouTubeの裁判員制度の英語で説明している動画を使って、通勤の合間などに繰り返し聞き、シャドーイングをして法廷の専門用語に慣れるようにしました。

功労者受賞コメントの音声を聞きながら、日本語で何度もシャドーイングしたあと、英語で同時通訳の練習をしました。この練習が、何度読んでも資料の内容が頭に入らなかったのに、講演内容のイメージを掴むことが出来て、私の中でぐっと流れが変わりました。

お話を引き受けてから、三人でZoomで練習や打ち合わせを行いました。当日の順番や、裏回線をどうするかなど、話し合いました。

また、関根さんが事前に本番と近い環境でのテスト出来る、技術リハの場を提供してくださいました。そこでは、いかにスムーズに次へとバトンを回せるかが大事だということで、ポイントを教えていただきました。

  1. 訳している人のセンテンスがきちんと終わっているか確認
  2. 訳している人のタイマーが止まっているか確認

三人での練習は、通訳の交代のタイミングの練習を何度も行い、また、訳が難しい表現などキーワードの共有をしました。

いよいよ本番当日

いよいよ当日は、朝から緊張でいつも以上に念入りに周辺機器の確認、手元の資料やキーワードの確認をしました。

私の本番当日のパソコン周辺の環境は、以下のような感じでした。

iPad:クロノグラフ用(共有タイマー)

iPhone : パートナーとの裏回線用(ライン通話使用)

パソコン:  有線のパソコンでZoomに接続

手元に資料やノート、ペットボトルの飲み物

いよいよ金城さんの講演が始まると、金城さんの声を聞きつつ、パートナーの訳を裏回線で聞きながら、共有タイマーを見ながら、自分の番を待ちます。当日は緊張と、ものすごい集中力との闘いでした。

自分の番が近づくと、ミュートを解除し、パートナーのセンテンスが終わったのと、タイマーが止まったのを確認して、タイマーを押す、耳に入ってきた日本語を、精一杯英語になおして口から出す、という感じでした。途中、上手く出せずに悔しい思いもしました。自分の語彙力の足りなさも痛感しました。耳から聞いて口から出す、訓練が普段から必要だと思いました。同時に一つでも多くの単語、言い回しの積み重ねが大事だと実感しました。7分という持ち時間で交代でしたが、足りないくらいにあっという間に感じました。ドキドキと頭をフル回転で、通訳の時間は、台風のごとく過ぎ去っていったように感じました。

最後に、司会の玉城弘子さんから、同時通訳者の三人へお礼の言葉を頂いたときは、通訳をしているのを忘れそうになるくらい嬉しくて、英訳をせずに思わず、「ありがとうございました。」言いそうになってしまいました。最後まで気を抜いてはいけない、と反省しました。

終わってみると、出来はボロボロなはずなのに、ランナーズハイのような、やりきったからか、とても楽しかった!という思いでした。それと同時に、改めて貴重な経験をさせていただけたことに、感謝の気持ちで胸がいっぱいでした。

こうして、どうにか私の同時通訳デビュー戦は幕を閉じました。

最後に

もし私と同じように、勉強を始めたばかりで通訳の依頼を受け、挑戦するかしないか悩んでいる方がいたら、ぜひ迷わずに挑戦してほしいです。

今回、挑戦してみてわかったのは、挑戦したからこそ、わかったことや見えてきた学びがたくさんあったということです。新しいご縁も繋がりました。やる気さえあれば、学びの場を提供してくださる方がたくさんいる、ということもわかりました。そして、そこへ踏み出す一歩は自分にしか出来ないということもわかりました。大変でしたが、本当にやって良かったという気持ちしかありません。”Everything happened for a reason” というように、声がかかるということ、チャンスがまわってくるということは、何かしらの理由があり、新な道が開ける一歩だと思います。私が自分一人だけで勉強して、模索していたら、このご縁、チャンスには恵まれなかったと思います。

今回、右も左もわからない私を引っ張ってくれた、パートナーのオルセンさん、渡真利さん、本当にありがとうございました。お二人と一緒だったので、最後まで駆け抜けれました。

最初から最後まで、見守り、サポートしてくださった関根さん、司会の玉城さん、金城さん、ニライカナイからのお誘いを私たちに届けてくださり、ありがとうございました。


イングリッシュ綾乃

日英通訳・翻訳勉強中。専門学校を卒業後、航空会社にて勤務。出産を機に退職後、米軍基地内の様々な仕事に従事。現在は、米軍基地内で事務員として働く。通訳・翻訳を目指し、勉強中で、夢は、世界中を旅しながら通訳すること。

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