【第9回】翻訳・通訳会社のクレーム処理「遠隔通訳のクレームⅡ」

翻訳・通訳会社は、翻訳者・通訳者には見えない舞台裏で様々なクレーム処理を行っています。本連載は目的は、その一部を紹介することで、翻訳・通訳会社が日々取り組む業務に関して理解を深めてもらうことです。執筆は現役の翻訳・通訳会社コーディネーター。登場人物はすべて仮名です。


コロナも緊急事態宣言解除となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。

 さて、経済活動は再開されましたが、まだまだ通訳業界は不透明で、不安もあるかと思います。技術が進歩しているとはいえ、遠隔通訳に疲れを感じている方もいることでしょう。とはいえ、第2波が来る可能性もあり、ここはITリテラシーを身につけ頑張りましょう!今回は遠隔通訳を行う上で、大きなクレームとはなりませんでしたが、注意して頂きたい内容です。

Case 1

 サイトウさん、フリーランス歴10年以上、元々ITスキルもあり遠隔通訳にもすぐ慣れ、エージェントからも引き合いが多い通訳者だ。通訳同業者は、遠隔通訳は音声環境も不安定なときもあるし、疲れを感じると言っているが、慣れた案件なら1日に数件入れることも可能だし悪くないと感じている。対面式での会議だと午前1件、午後1、2件が、リモートなら午前2件、多いときなら午後3件入れられることもあるのだ。業務を快適に行えるよう、ヘッドホン、マイクも購入した。

遠隔になってエージェントからの会議情報で違う点と言えば、WebEx、Zoom、TeamsなどWeb情報をもらうことくらいだ。

最近頻繁に依頼されている外資系食品メーカーの会議、今週は3件の予定だ。継続案件、関連会議は内容にも慣れ、嬉しいものだ。事前ミーティングも2回目からは短めだ。今回の案件は案件依頼者と本会議の主催者が違うため、1つの会議で事前ミーティング、本会議とで2本の会議情報(Web情報)をもらうことになった。事前ミーティング3本、本番用3本、Web情報を計6本もらった。

資料、Web情報をもらい準備はOKのはずだった。

ところが、会議当日、事前ミーティングのWeb情報に従い会議室に入っても会議が開催されない。連絡先の携帯電話番号に電話しても繋がらない。いきなり会議が始まるのか?何か変な予感がする。Web情報が違うのではと不安が募る。

エージェントに問い合わせ再度Web情報をもらう。その間、オンラインとはいえ、遅刻するのではないかと、焦るばかり・・

急いで会議室にぎりぎりに入る。

会議内容は慣れたものなので、無事終了したが、肝心の通訳業務よりもWeb情報のことで疲弊してしまい、対面式会議以上に疲れた。

確認してみると、Web情報が変更となり後からメールでもらって、開催日とWeb情報を勘違いしてしまっていたようだ。

Case 2

マツモトさん、社内通訳10年、フリーランスになって2年、ハードな案件も社内通訳で鍛えていたので柔軟性もあり、人柄も良く指名の多い通訳者だ。

遠隔通訳も音声環境など不安な点はあったが、何でもチャレンジすることが大切。

引き受けたところ、思ったよりも簡単ですぐに慣れた。

その日も外資系IT企業の会議通訳依頼では、事前に送られてきた資料で準備、事前ミーティングで会議内容も確認、何の問題もないはずだった。

スムーズに会議も進んだ。会議開始15分後、会議の相手先が資料を画面共有したいといって初見の資料をあげてきた。ところが、資料が思いのほか重かったのか、PCの調子が悪くなってしまった。

ネットの環境が悪いのか、パソコンが悪いのか、会議システムが落ちてしまった。

他の会議参加者は大丈夫なのかもわからず、ここが自宅での遠隔通訳の怖いところである。

取り急ぎ、会議担当者に電話をしたが自分だけがシステムダウンしていたようで、その間、一時的に通訳をつないでもらい、何とか終了。

会社員時代はパソコンが貸与されていたが、自己使用のパソコンが購入してから何年もたちスペックが古いことに気づく。

ずっとパソコンが立ち上がらず通訳業務ができなかったらどうなっていたかを想像すると遠隔通訳の怖さを感じた。

今回のポイント

  • 会議システムはZoom、Teams、WebExなど様々なものがありますが、Web情報はメールでもらったときに整理する。複数のエージェントから同日に業務が入ってきた場合は、日時ごとに整理しておく
  • 遠隔通訳はネット環境、会議システムなど原因不明で落ちる可能性もあるが、トラブル時の対応も通訳者のスキルと判断されます。担当者に電話連絡し、立ち上げなおすなど、迅速に対応する。業務終了後エージェントにも連絡する。
  • パソコン1台だけではなく、他のパソコン、タブレットなど資料が見やすいものをリスクヘッジとして持っておくことをお勧めします。(遠隔通訳を頻繁にされている通訳さんは会議で使用するパソコン以外に、もう1台立ち上げながら通訳をされている方もいらっしゃいます)