【第7回】翻訳・通訳会社のクレーム処理「遠隔通訳のクレーム」

翻訳・通訳会社は、翻訳者・通訳者には見えない舞台裏で様々なクレーム処理を行っています。本連載は目的は、その一部を紹介することで、翻訳・通訳会社が日々取り組む業務に関して理解を深めてもらうことです。執筆は現役の翻訳・通訳会社コーディネーター。登場人物はすべて仮名です。


通常でしたらハイシーズンのこの時期、今年はコロナウィルスの影響で業務に影響が出ているのではないでしょうか。弊社でも3月の大きなコンベンション、イベント通訳のキャンセル連絡が相次いでおります。通訳さんもイベント案件がキャンセル、全日案件が半日の電話会議になるなど、何らかの影響を受けているのではと思います。

でも、このような時期、イノベーションが進み通訳業界も変わるかもしれません。

推奨されるテレワークもそうでしょう。会議の場所を問わず行うことのできる遠隔通訳も今後増えるかもしれません。今回は遠隔通訳のクレーム処理についてお話します。

CASE 1

スズキさんは日中の会議通訳のディスカッションが予想以上に盛り上がりハードでくたくた。でも今日は業務終了ではなく、自宅で対応する遠隔通訳が21:00~22:00に入っている。業務を終え、帰宅してからというのも少々面倒だが、内容は毎週依頼されている技術者の会議だ。技術内容も音声で聞く話者のくせもわかっている。まあ、安心だ。少し仮眠しようとスマホのアラームを会議開始30分前に設定。夢の世界に入っていたところ、遠くで電話が鳴っている。。。

はっと起きると、20時15分。エージェントから「今夜20時から会議の予定ですが、何かありましたか?」
「ええ!」と驚く暇もなく、
「通訳なしで会議始まってますので、すぐ入ってください」と指示を受け、会議に入った。音声での会議なので、すっと何事もなかったように入ってしまった。会議自体は無事終了。
言い訳かもしれないが、毎日のように遠隔通訳が入り、時間を混同していた。最初は顔の見えない、しかも自宅での電話会議ということで緊張していたが慣れていまい、気持ちが緩んでしまったのだろう。その後エージェント側も、前日に再度時間確認メールをくれるようになった。

これも実話ですが、他にも朝の8時と夜の8時を間違えるということもありました!クライアントからすぐに連絡がある場合はいいのですが、結局最後まで通訳者なしで会議を行い、会議終了後「通訳者に連絡つきませんでした」とクレームがきたこともありました。その場合は同じ通訳者はアサインすることができなくなります。
ちなみに、Face to Faceの会議で通訳者が来ないというクレームをもらったことはかつてなかったので、遠隔通訳の方が起こりやすいのかもしれません。現場に行く業務では、時間に余裕を持って業務に臨む通訳さんが多いので、よっぽど交通機関に何かあった場合を除き、あまりないのでしょう。

CASE 2

キクチさんは日中の業務を終え、夜は自宅での遠隔電話会議通訳業務の予定だった。その会議は通訳者含め3名での会議。日本側、米国側とそれぞれ参加者が自宅から会議システムに入ることになっていた。

20:00~21:00の依頼だったので、19:45には自室に待機。クライアントから電話をもらって(電話料金クライアント持ちという事情もあり)少し事前打ち合わせ、会議スタートという流れだった。
しかし、なかなか電話がかかってこない。担当者によっては会議開始時間ジャストにかけてくる方もいるし、まあ、いいかと待っていた。資料を確認しながらお茶をのみ、余裕だった。

一方、その間、クライアントからエージェントに「キクチさんに電話が繋がりません」と連絡が入る。コーディネータも連絡するも繋がらない。その時、会議開始10分前!
コーディネータは急ぎ、別の通訳者を手配(「明日も朝早くから業務で嫌ですが。。。」というのを頼み込み(笑))、穴をあけずに済んで一安心。

キクチさんから会議開始15分後にエージェントに「会議が始まらないのですが…」と連絡。なんと、携帯電話が壊れていたことが判明。かけられるけど、受信できない。
そんなことあるんだ。。とお互いに驚く(笑)。
以後はエージェント側もちゃんと事前に電話の動作確認を呼びかけるようになった。

遠隔通訳は通常の会議と違い予想しないクレームが多々ありましたが、需要がふえるかもしれません。エージェントはマネジメントが大変ですが(笑)。今回のようにウィルスでイベント中止を余儀なくされ、かといって企業は明日、1か月後、半年後、来年と先を見て動かなければなりません。ウィルス終息後を見据えて会議をする必要もあるでしょう。

会議場所を選ばない遠隔通訳も増える可能性もあります。音声状況に左右され、通訳者にとっては好ましい環境とは言えないのですが、エージェント側としてはトライしてほしいと思います(数年前は遠隔通訳ですか?受けません!と即答されました)。遠隔通訳で実績を積み、オンサイトでも指名ということもあります。

今回のポイント

今まで以上にスケジュール管理を丁寧に!