【第5回】翻訳・通訳会社のクレーム処理「身勝手な振る舞い」

翻訳・通訳会社は、翻訳者・通訳者には見えない舞台裏で様々なクレーム処理を行っています。本連載は目的は、その一部を紹介することで、翻訳・通訳会社が日々取り組む業務に関して理解を深めてもらうことです。執筆は現役の翻訳・通訳会社コーディネーター。登場人物はすべて仮名です。


ついに今年も残すとこ、わずかとなりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。ようやく本年の繁忙期も一息ついたころでしょうか。今日は第三回の「感情のコントロール」に繋がる話を致します。皆様の周りには、“身勝手な振る舞い”をしてしまう愚か者はいらっしゃるでしょうか。愚か者という言葉を使うのは、あまりに批判的な言葉になってしまうので、本当は使いたくはなのが本音で御座います。ですが、通訳の現場、ないしプライベートでも、“身勝手な振る舞い”をしてしまうことは、ひんしゅくを買い、愚か者に成り果ててしまうことに、他なら無いのです。今日はそんな暴走する身勝手な行動についての話です。

某月某日、繁忙期ど真ん中、私はパズルのように業務を入れていた。
「時間通りに終わって欲しい」私は業務が始まる前にいつも、こう思ってしまう。だって、私にも予定があるから。当たり前のことでしょう。だって、時間は大切なんだから。
「ホシノさん、今日も宜しくお願いします」
クライアントのアオキさんがいつものように、私に挨拶に来た。
「こちらこそ、宜しくお願いします」

会議が始まった。ここのクライアントの会議は、もう慣れてきていることもあって、なんらくこなせる。資料がなくても用語も頭に入っており、なんなら次に会議参加者が何を話すか予測もついているくらいだ。このまま順調にいけばいい。アジェンダ通り進行し延長することも今までなかった。

しかし、予定に終わりそうにない気配が少しずつ漂ってきた。先方ともめだしたのだ。友好的な場合はいいのだが、会議ってもめだすと議論が白熱するものだ。何やら、予定が狂わされる匂いがする。
そこに、先ほど話していたアオキさんが申し訳なさそうに話しかけてきた。
「すみません、ホシノさん、会議が長引きそうでして、少し延長させてもらっても宜しいでしょうか」
「え!」
私は思わず、小さな叫び声を上げてしまった。
「それは承諾しかねます。次の案件があるのです」
「ですが、会議にホシノさんが居ないと大変困ります」
「私は、時間外の業務は致しません。時間になり次第、帰らせて頂きます」
そして、私は会議が進行している中予定の時間になったので会場を出た。その行動に対して、何ら罪悪感は無かった。もちろん、それが“身勝手な振る舞い”だという認識も。

翌日、エージェントから「延長が出来ない場合は業務を受けるときに言ってほしいです。
会議進行中に退席したときも業務後連絡してほしいです」と連絡があった。
延長ができないなら予め、エージェントからクライアントに了承を頂くこともできたという。特に繁忙期で手配が難しい時期は延長不可でも、いつもお願いしている通訳にクライアントも対応を希望する場合が多い。
特に通訳手配担当者は会議参加者の部下であることも多く、通訳者の振る舞いで裁量不足と考えられることもある。時間でお願いしていると会議参加者は気付かず、通訳者が先に退出したという印象を与えることもある。逆に、通訳者のパフォーマンスが良ければ手配担当者が通訳対応をしたわけでもないのに、「通訳者が優秀で会議も円滑に進んだよ」と上司からの高評価にも繋がるのだ。

同時通訳でパートナーがいて、時間になったら何も言わずパートナーを残し会議終了時間前に退出する場合も同じだ。そのあと、延長になる可能性もあるのだから。
ウエノさん、キムラさんのペアで入ってもらった会議。キムラさんからスタートし、ウエノさんの順で業務を終了する予定だった。時間となり、キムラさんがスーっと先に退出しエージェントに「キムラさんが途中でいなくなってしまったのですけど」とウエノさんから業務終了報告で連絡があった。ウエノさんからしたら、お手洗いか電話連絡をするために少し出たのかと思っていたのに、キムラさんが戻ってこないのだから、戸惑ってしまったようだ。経歴はキムラさんの方が長い。。。
エージェントからしたらこのお二人、何度もペアを組んだこともあり相性もいいと思ってたから驚きだ。
クライアントからのクレームにはならないものの、細かいことだが、2名対応での料金設定なのだから断りもなく会議終了時に1名なのは印象も悪い。

――集団の中で、誰か一人でも勝手なことをしてしまうと、その行いは目立ってしまい、大変迷惑を被るものです。それが良い大人がしていると、大変恥ずかしい行いです。ですから、ビジネスの場に置いては、予定外のことが起こったとしても、身勝手になってはいけません。そんな振る舞いは許されるべきではありません。プライベートであったとしても、純粋に嫌われてしまいます。軽蔑の対象になってしまいます。皆さんが、そんな勝手なことをしないことを祈るばかりです。

今回のポイント

クライアントと通訳者との関係を良好にするためにも、延長不可の場合はあらかじめエージェントに知らせておく。好印象となる振る舞いも通訳パフォーマンスの一部である。