【第13回】翻訳・通訳会社のクレーム処理「With コロナ」

翻訳・通訳会社は、翻訳者・通訳者には見えない舞台裏で様々なクレーム処理を行っています。本連載は目的は、その一部を紹介することで、翻訳・通訳会社が日々取り組む業務に関して理解を深めてもらうことです。執筆は現役の翻訳・通訳会社コーディネーター。登場人物はすべて仮名です。


すっかりご無沙汰しております。

コロナと付き合い始めて2年半経ちましたが、未だに第6波だ、PCR検査の結果だとドキドキと惑わされる状況は変わりません。以前はコロナで変わってしまったものをこのコラムで取り上げましたが、それから早1年…皆様、いかがお過ごしでしょうか。お仕事の状況が変わった方も多いのではないでしょうか。

今回は新たに増えてきた、ハイブリッド会議についてです。

この一年で海外からの来日も増え、増えたのがハイブリッド会議ではないでしょうか。
「ハイブリッド会議」とはオンライン参加者、リアル現場に参加者がいるハイブリッド(融合)した形式の会議のこと。弊社の場合は、通訳者はオンラインのケースが多いです。

国内外の移動が可能になり、リアル現場に集合し参加することができるようになったとは言え、会場にも人数制限もあったり、段取りも悪かったりと最初は混沌としていました。せっかくZOOMなどのオンライン会議スタイルに慣れたのに、また振出しに戻るような状況です。

***

今回は、通訳者も何が起きているか把握して声を上げることが必要!というケースです。

通訳のヤマダさんが担当した案件、オンライン会議に逐次通訳1名体制、30分間という内容です。
コロナ禍になって2年近く、これまでプレゼンテーションや長めの会議、ワークショップ対応してきたということで、会議に臨むまでのやりとりにも余裕が見えました。

当日は開始時間少し前に、所定のURLにアクセス。バタバタしているのかクライアントとの事前打ち合わせもなく、会議開始時間ジャストに音声が聞こえてきました。なんだか名刺交換していたり、英語と日本語が入り混じって聞こえてきたり、盛り上がっている様子です。

再会を喜んでいるのはわかるけど、オンラインで通訳者スタンバイしています!と言いたい。一抹の疎外感を感じました。ようやくご挨拶も終わって、会議がスタートします。しかし、肝心の音声が急にハウリングして聞こえません。暫くして他のオンライン参加者が気づき、音声が悪いことを指摘。ここでリアル現場にいる担当者が調整して、やっと音声がクリアに聞こえるようになりました。

そしてお次は正直、ミュートにしていないの誰?とイライラ(笑)。オンライン参加者のなかには、ミュートせずに参加する人もいて、資料をめくる紙の音や、些細な雑音も気になります。ようやく静かになって、メインスピーカーの声だけが聞こえるようになったのは開始から15分経った頃でしょうか。塵も積もり早くも少し疲れてきます…。

ようやく海外からのスピーカーが話したので、通訳をします。やっと業務を始められました!すると、ホストから「通訳がきこえません」とアナウンスが入りました。え?通訳しているのに?
原因はホストの方が、雑音が気になり、メインスピーカー以外、全員を強制ミュートにしてしまっていたこと。ヤマダさんはここで気付いて、ホストにチャットで連絡し、ミュートを外してもらいました。ここで数分でしょうか、音が全くない状態が続きました。通訳が聞こえない無音の状態は、ラジオの放送事故に近い状態です。

数分間の無音は、聞く側にはとても長く感じます。これがもし仮に通訳者側のミスだったらと考えると怖いです。ホストが「全員ミュートにしてました。すみません!」と一言、通訳者は悪くないとアナウンスしてくれたからよかったのですが、時間もないなか会議は流れていきます。

結局この会議は延長もあり、15分オーバーで45分くらいの業務になりました。30分でオンラインなんて楽勝かと思ったら、思わぬトラブルに、すごい疲労感に苛まれました。

***

やっとオンライン開催にクライアントも通訳者も慣れたところに、このハイブリッド会議がやってきました。従来のリアル現場でも課題だった音質の問題も顕在化します。スピーカーの音声、つまり通訳者の耳に入る音声の質が、通訳者にとってそのパフォーマンスを決めるほど重要ということ。未だに理解されていないのも事実です。聴こえればいいんでしょう?と思われていることもあるのではないでしょうか。

そしてこんなに長いことやっているのに、なかなかオンライン形式に慣れないクライアント担当者も事実依然としています。常に試行錯誤のもと変化、進化しているとはいえ、ついていくのも大変です。通訳者だけでなく事前にコーディネーターが確認する部分もありますが、当日の音声トラブルは通訳者に非があるように思われてしまうケースも少なくありません。

変化とともに新たな課題は出てきますが、「次はこう来たか!」くらいの気持ちの余裕をもって頑張りましょう。ハイブリッド会議の場合はホスト以外に交通整理をしてくれる方が、別途いるパターンも増えてきました。状況は少し改善してきましたが、まだまだ発展途上です。

ポイント:音声のトラブル、特に無音になることは、通訳者が悪いと勘違いされる可能性もあります。自分を守るためにも、何が起こっているのか、冷静に把握する気持ちの余裕をもちましょう。現場であれこれ文句を言う方は嫌われたりしますが、事実関係については声をあげることも必要です!