【第11回】翻訳・通訳会社のクレーム処理「コロナで変わったもの」

翻訳・通訳会社は、翻訳者・通訳者には見えない舞台裏で様々なクレーム処理を行っています。本連載は目的は、その一部を紹介することで、翻訳・通訳会社が日々取り組む業務に関して理解を深めてもらうことです。執筆は現役の翻訳・通訳会社コーディネーター。登場人物はすべて仮名です。


コロナで世界が一変して早一年、皆様いかがお過ごしでしょうか。

通訳エージェントである弊社の昨年今頃は、予定していた会議やイベントの予定がたちまちに消え、一時は通訳案件数がゼロに近くなりました。けれども未曾有の事態に伴い徐々に事態は変化し、今では通訳市場が少しずつ戻ってきているのを感じます。

クライアントとの確認事項も変わりました。―まず現場はどこなのか、自宅からのオンラインなのか、現場から繋ぐのか。通訳機材だけではなく、複数デバイスを駆使してどのプラットフォームを使うのか―初めての試みに懸念事項は増え、打ち合わせの数も増えました。

初めこそクライアントからの依頼は逐次通訳が多かったものの、今ではほとんどを同時通訳が占めています。通訳者には従来通り通訳パフォーマンスはもちろんですが、遠隔でのオンライン会議に対応できるかが求められます。

ここ最近の繁忙期で案件問い合わせに複数通訳者に連絡をとってみると、ある方は多忙をきたし、ある方はスケジュールがすっかり空いている、またある方は自宅からのオンライン会議で必要なデバイスがわからないといった様々な返答が返ってきました。従来のリアルな現場ではクライアントからご指名が入るような方でも、コロナ禍になって同様にお仕事があるとは言えないようです。

今回はそんなコロナ禍でどのような通訳者を指名するようになったか、どのようなところを評価するようになったかに、焦点を当てていきたいと思います。業界全体がどうかはわかりませんが、あるエージェントの例としてご参考になさってください。

Case1

クライアントから案件後に受けたフィードバックです。

「今回手配頂いた通訳のタカハシさん、スーッと入って訳してくださいとても良かったです。オンライン会議に非常に慣れていらっしゃいますね。次回もぜひお願いします。」

この「スーッと」というのがポイントで、オンラインで実際に会えない分、いっそう間合いの妙が光り、通訳者を心強く感じたということです。

これまで現場では通訳者とアイコンタクトをとったり、担当者が資料やお水を用意し手渡したり、クライアントは通訳者の様子を見ることができました。しかしオンラインではそのような情報がありません。「スーッと」スピーカーに添うように通訳の声が聞こえたり、ときには機材調整にホストをフォローするような形で「スーッと」進行を助けてくれたりと、通訳者は存在を存分に発揮します。コロナ禍でオンライン会議に慣れてきたとはいえ、クライアントにはホストは初めて、通訳付きは初めてという方もまだまだいらっしゃいます。そんなときに通訳者はクライアントにとって、心強い味方になることができます。

Case2

実際にやってみて初めて改善点が見えてくることもあります。

「今日の会議、逐次でやっていましたが外国人がときに置いてきぼりになっている気がするので、同通の方がよいのではないでしょうか。議論が活発になるのではと感じます。」

信頼関係を築いたうえで、ときに通訳者がこのような提案をすることも、クライアントは喜んでくださいます。通訳者がオンライン会議の経験を積むことでこそ見えてきたこのような提案は、クライアントからの視点では気づきにくい有意義なものです。ビジネスという同じゴールを見る、チームの一員のように感じられるようです。

Case3

現場での通訳と同じくパフォーマンスがよい人には、もちろんご指名がきます。

このときも「社長のお気に入りなので、通訳のイトウさんのスケジュールに合わせます」とご依頼がありました。イトウさんは訳の的確さ、クライアントとの相性の点で定評がありました。

しかしこれからはオンライン会議通訳における基本操作やトラブル対応に慣れているのか、これが大前提となります。さらには遠隔同時通訳といった場合に、Zoom、Teams、クラウド型同時通訳システム等々これら複数のシステムを使いこなせるにこしたことはありません。残念ですがこの点でイトウさんはエージェントとしては、案件を依頼するという判断には至りませんでした。

この一年間で通訳案件を打診するうえで確認する条件は、大きく変わりました。オンライン会議の対応、しかも自分でデバイスを整備し自宅から対応できること、これは大前提の条件となりつつあるのではないかと思います。

いずれはコロナが収束し海外との行き来も始まれば、問題ないとお考えの方もいるかもしれません。しかし完全にコロナ禍前に戻る確証はなく、ハイブリッドになる可能性もあります。実際にオンライン会議の普及によるメリットも感じます。リアルでは寡黙でしたが気軽に話せるようになったクライアントもいらっしゃいました。会議やイベント自体を増やしている企業もあります。私にとっては打ち合わせが増えたことで、エージェントとクライアント、対通訳者の距離も近くなったような気がします。

またオンライン会議が普及してからは、首都圏在住に限らず地方在住の通訳者にも機会が増え、エージェントとしては打診できる通訳者の選択肢も増えました。通訳の力さえあれば、今まで仕事が集中していた大御所の方々の案件も、首都圏限らず地方や海外に暮らす通訳者に奪われる可能性もあります。

まだまだコロナを乗り切ったとは言えませんが、頑張っていきましょう。

ポイント

・コロナ禍の変化に応じて通訳者に求めるものが変化

・まずはオンライン会議に対応できるようになる!

  通訳者としてなかなかリモート通訳が未経験とは言えない状況になってきました。自宅から自分で繋げられるように環境を整え、実績を積み、さらにはホストのフォローやトラブルにも対応できるようにしましょう。