【第27回】通訳なんでも質問箱「エージェントの仕事と直取引のバランス」
「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、認定会員の岩瀬和美と山本みどり(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。
Q .エージェントの仕事と直取引のバランス
フリーランス8年目です。おかげさまで仕事が評価され、直取引のクライアントが少しずつ増えてきているのですが、結果としてエージェントのオファーを断ることが多くなり、ちょっと心配です。直取引は報酬が良いのですがまだこれだけでは生活するにはまだ不安が残り、エージェント案件を断りすぎて見放されたら、直取引の仕事が途絶えたときにリスクが高いと思うのです。どのようにバランスをとったらいいでしょうか。(伸三郎)
岩瀬和美の回答
A. クライアントから直接指名をいただけるようになるのは、通訳者としての実力が認められた証。素晴らしいですね。報酬面でのメリットも大きく、直取引を増やしたいという通訳者の声もよく耳にします。
一方で、懸念されている通り、エージェント案件を疎かにするリスクは存在します。予算が削られたり、担当者が変わったりして仕事が途絶えた際、エージェントとの接点が失われていると、リカバリーに時間がかかります。特にキャリアを積み上げていくフェーズでは、個人では受注が難しい大規模・高品質な案件を数多く手がけるエージェントの力を借りることも、有効な選択肢だと思います。
国際会議や、多数の同時通訳ブースを要する現場では、機材の手配、パートナー通訳者のキャスティング、細かな進行調整など、通訳以外の業務も膨大になります。そうした環境を整え、通訳者が本来のパフォーマンスに集中できるよう支えてくれる存在として、エージェントはフリーランスにとって非常に心強いビジネスパートナーだと私は考えています。
ただ「断り続けると見放されるのでは」という不安については過度に恐れる必要はないと思っています。実力のある通訳者であれば、一度きりの現場でも、その仕事ぶりは鮮明に記憶されるものです。限られた現場で本領を発揮すること。それこそが、次のオファーに繋がる最も強力な「営業」になるのではないでしょうか。
疎遠になっているエージェントがあるなら、メール一本送るだけでも効果的です。最近の得意分野やアップデートしたCVを添えて、「最近は直取引が増えていますが、また機会があればぜひお願いします」と伝える。あるいはオフィスを訪ね、顔を思い出してもらう。こうした能動的なコミュニケーションが、いざという時のセーフティネットになります。
直取引とエージェント案件。どちらかに偏るのではなく、自分なりのバランスを探りながら、どちらにも依存しすぎない「健全な緊張感」を保つこと。それは仕事の安定だけでなく、メンタルの強さにも繋がると思います。
伸三郎さんが自分にぴったりのバランスを見つけられることを願っています。
山本みどりの回答
A. 伸三郎さん、まずは直取引が増えてきたとのこと、おめでとうございます!お客様から信頼され、実力を評価されてきた結果です。素晴らしいですね。
「エージェント案件を断りすぎて見放されたら…」と不安になるお気持ち、よくわかります。フリーランスの世界では仕事量を保証してくれる第三者はいないので、そう考えてしまうのも無理はありません。リスクをどう管理していくか、三つの柱で考えてみましょう。
一つ目は、「仕事のチャネルをどう分散させるか」というクライアント・ポートフォリオの面です。今からできることとして、自分の直案件を外注できる「信頼できる同業者のネットワーク」を広げてみてはいかがでしょうか。直案件を外注することは、自分がエージェントの役割を担うこととイコールです。これをどう捉えるかは伸三郎さん次第ですが、安定して外注できる体制があれば、大切なお客様の問い合わせを断らずに済みますし、自分もコーディネーションのマージンで稼ぐことができます。
また、自分も「同業者が経営しているエージェント」の外注先になる、つまり通訳者同士のネットワークで仕事をまわし合える関係を築いておくことも、リスクヘッジとして有効です。
二つ目は、いざというときのアピールです。仮に直案件がぱたっと止まってしまったとしても、打つ手はあります。登録済みのエージェントに最新の実績表を送ったり、空き日程を知らせたり。「今、私は仕事ができる態勢です(アベイラブルです)」と知らせるだけで、エージェントの見方は変わります。時間があれば、エージェントのオフィスに手土産を持って訪問するのも、印象付ける効果があります。
エージェントとの関係は、あまりウェットに考えすぎなくてもいいかもしれません。彼らは常にニーズを満たしてくれる通訳者を探しています。伸三郎さんがアベイラブルであることを知りさえすれば、また必ず声はかかります。
最後に、メンタルを支えるのはやはり生活防衛資金です。収入が減ったときに耐えられる蓄えを多めに持っておくことで、目先のオファーに振り回されず、自信を持って直取引に向き合えるようになります。
伸三郎さんのご質問は、フリーランスとして着実に実績を積まれているからこそ直面する、前向きなハードルだと思います。不安を解消するための備え(ネットワークや資金)を少しずつ整えながら、今の良い流れを大切になさってください。伸三郎さんのさらなるご活躍を、同じ通訳者の端くれとして応援しております!
通訳歴30年以上。ITやビジネス分野では日々奮闘しつつ、芸術関連の仕事に心癒される瞬間を見出している。還暦を過ぎ、これからの働き方・生き方を模索中。
英日会議通訳者。東京外国語大学タイ語科を卒業後、イタリア滞在中に通訳の仕事と出会う。インタースクールにて会議通訳コースを修了。合同会社西友、日本アイ・ビー・エム株式会社の社内通訳を経て、2009年よりフリーランスとして活動開始。特に顧客訪問や取材時の逐次通訳が得意。 Website: yamamoto-ls.com