【第26回】通訳なんでも質問箱「繁忙期のスケジューリング」

「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、認定会員の岩瀬和美と山本みどり(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。

Q .繁忙期のスケジューリング

コロナ後、秋の繁忙期が以前に増して忙しくなったように感じます。できるだけ効率的にスケジュールを組みたいと考えているのですが、みなさんは何を考えて組んでいますか?たとえばコロナ渦で増えた1時間程度の遠隔会議をできるだけ多く詰め込むのか、複数日にわたるようなまとまった案件を優先するのか、意図的に休養日を確保したりするのかなど知りたいです。

加えて、通訳者仲間に「なにも考えずに先着順で受ける」という人がいるのですが、このような考え方はどう思いますか?(とことこペンギン)

岩瀬和美の回答

会員の皆様、あけましておめでとうございます。そして、とことこペンギンさん、フリーランス通訳者共通の悩ましい問題についてご質問ありがとうございます。

海外からの日本市場への注目が高まった2025年秋。その繁忙期は、以前にも増して過酷に感じられたのではないでしょうか。そんな中、私が大切にしているのは、自分なりの「基準」を設け、ライフスタイルに合わせたスケジューリングを能動的に行うことです。

フリーランスは受動的になりがちですが、私は年頭にその年の「働き方」をゆるく固めるようにしています。「目標年収」や「週に何日働くか」といった指針を決め、それを月ごとに見直し調整をかける。自分の中に「軸」があると、周囲の状況に左右されず案件に向き合えるようになります。

判断基準として、準備コストも無視できません。1時間の遠隔案件でも、未知の分野なら予習は膨大です。逆に長期案件は、内容の連続性から2日目以降の負担が下がります。「効率」を重視するなら、専門分野の長期案件を軸に据え、その前後に遠隔案件をパズルのように配置する戦略も有効かもしれません。

ご質問にあった「先着順」という考え方も、不確実性を消す一つの戦略です。私も住宅ローンの返済期や実績を積みたい時期は、まさに「ガツガツ」と受けていました。しかし現在は、繁忙期こそあえて枠を空け、自分に資する案件を待つ「攻めの姿勢」で挑んでいます。また、繁忙期は「別件がありまして」とお断りしても角が立ちにくい時期。あえて長期休暇を差し込むこともあります(エージェントさん、ごめんなさい!)。

今、私が強く感じているのは「その年齢でしかできない体験がある」ということです。歳を重ねれば、どうしても気力や体力は変化します。収入・気力・体力のバランスを俯瞰し、あえて仕事をセーブしてでも「今しかできない体験」に時間を割くことは、人生の豊かさに直結します。

一年の初めに、今の自分にとっての「スケジューリングの黄金比」を描いてみてはいかがでしょうか。

山本みどりの回答

A .繁忙期のスケジューリング、悩ましいですよね。

結局のところ、スケジューリングの最適解は、状況によると思います。個々人のキャリアや体力、重点を置きたい分野や顧客などによって大きく変わってきます。

ソースを確認できなかったのですが、AIIC(国際会議通訳者連盟)では、「週4日程度が通訳品質を保つ目安」と言われることがあります。そのなかでも、人によってキャパシティや体力は違うもの。1日に複数の案件を入れる人もいれば、「1日1件」というマイルールを定めている人もいます。

レートが同じなら半日案件を多く入れたほうが売り上げは上がるかもしれません。一方で、数日続く終日案件であれば、同じ顧客、トピックが続くので、切り替えによる負荷は低くなります。

私自身の例で言うと、フリーランスになりたての頃は、先着順に案件を受けていました。フリーランスデビューが2009年、リーマンショック直後だったこともあり、仕事がゼロだった月もありました。なので、とにかくエージェントやお客様に自分のことを覚えてもらう必要がありました。

当時はダブルヘッダーもやっていました。現場で終日案件をこなした後で、夜にも現場で1時間の会議を受けたことも。ただ、繁忙期の週末に体調を崩して寝込むこともしばしばあり、今思えば持続可能な働き方ではありませんでした。

そんなふうに必死に覚えてもらう時期を過ぎてからは、仕事を取捨選択するフェーズに入りました。指名を継続的にいただく顧客、大事に育てていきたい案件や、積極的に実績を積みたい分野を優先して受けるようになりました。

近年ではライフステージの変化に伴い、時間的制約が増えました。自分に都合の良い時間帯の案件を中心にスケジュールを組んでいます。結果として受けられる案件は減りましたが、積極的に受けたい案件が明確になっています。

経験を重ねるなかで、自分のミスをする傾向も見えてきました。例えば、ダブルヘッダーを入れていた日に、2件目の案件の集合時間を勘違いしていて遅刻したこともありました。そういったミスから、私は自分のキャパや適性を学んでいきました。

このように私の場合は、経験を積むにつれて、どんな実績を積みたいか、大事にしたい顧客は誰か、ライフステージといった要素に合わせて、仕事を選ぶフェーズに入っていきました。キャリアの歩み方は人それぞれですが、参考になれば幸いです。


岩瀬和美

通訳歴30年以上。ITやビジネス分野では日々奮闘しつつ、芸術関連の仕事に心癒される瞬間を見出している。還暦を過ぎ、これからの働き方・生き方を模索中。

山本みどり

英日会議通訳者。東京外国語大学タイ語科を卒業後、イタリア滞在中に通訳の仕事と出会う。インタースクールにて会議通訳コースを修了。合同会社西友、日本アイ・ビー・エム株式会社の社内通訳を経て、2009年よりフリーランスとして活動開始。特に顧客訪問や取材時の逐次通訳が得意。 Website: yamamoto-ls.com