【第21回】通訳なんでも質問箱「通訳延長について」
「通訳なんでも質問箱」は、日本会議通訳者協会に届いた質問に対して、認定会員の岩瀬和美と山本みどり(プラスたまに特別ゲスト)が不定期で、回答内容を事前共有せずに答えるという企画です。通訳関係の質問/お悩みがある方はぜひこちらからメールを。匿名で構いません。
Q. 通訳延長について
業務の時間管理の責任はどの程度通訳者にあるのでしょうか?
クライアントとゲストのあいだで話しが弾み、通訳業務が延長となった場合、通訳者は終了時刻になったらクライアントに延長の許可を取る必要があるか否かの質問となります。
予算の関係でクライアントは延長を避けたかったが、会話が盛り上がる中、途中で通訳者に業務終了を伝えにくい状況だとします。クライアントが延長を避けたいという情報は、エージェントから通訳者に伝わっていません。この場の時間管理責任は通訳者にありますか?。(ハニーさん)
岩瀬和美の回答
A.いうまでもなく、通訳者の基本は、契約で定められた時間内の業務を誠実に遂行することにあります。終了予定を過ぎた場合、その後の業務は契約外となり、延長の有無や追加料金の扱いはクライアントやエージェントの判断領域に属します。したがって、終了時刻が近づいた段階で通訳者がクライアントに状況をうかがうのは、自然かつ適切な対応だといえるでしょう。
ご質問のケースでは通訳者には伝えられていませんが、たとえ事前に「延長は避けたい」と言われていたとしても、会議が進むにつれて重要な議題が浮上したり、意外な展開があったりすることで、クライアントの判断が変わることも少なくありません。したがって、延長を望まない旨の情報があったかどうかにかかわらず、終了時刻が近づいた時点で一度確認を入れるようにしています。
私が担当する案件では、多くの場合、拘束時間の10〜15分を超えると延長料金が発生する契約条件となっています。そのため、クライアントがその範囲内で判断できるよう配慮し、契約終了時刻を5分ほど過ぎても会話が続いている場合には、確認の声がけやメモの提示など、状況に応じて柔軟に対応しています。その際、会議の緊急度や参加者の表情なども観察し、適切なタイミングを見極めることが必要です。
重要なのは、通訳者がその場で一方的に判断せず、判断をクライアントに委ねる姿勢を明確に示すことだと思います。クライアントの意向を尊重しようとする態度は、信頼関係を築く一歩となります。その後のお仕事にもつながるでしょう。そして、通訳者が終了確認を行った事実があれば、その後の延長について責任を問われることはなく、調整はクライアントとエージェントの範囲となります。
通訳者に求められるのは、単なる時間管理能力ではなく、その場の空気を読み、相手の立場に寄り添ったタイミングと言葉を選ぶ力。このバランス感覚こそが、通訳者のプロフェッショナリズムを支える重要な要素の一つなのではないでしょうか。
山本みどりの回答
A.ハニーさん、ご相談ありがとうございます。実務的なトピックですね。ここではフリーランス通訳者が請負業務としてエージェントから業務を依頼されているケースを前提に回答します。
基本的には依頼書に書かれている時間が、通訳者がコミットしている時間です。通訳業務の終了時刻は依頼書に記載されている時刻であり、その時間を管理する責任はクライアント側にあります。
延長の可能性がある場合、基本的には事前にエージェント経由で通知されており、依頼書にもその旨が記載されています。
依頼書に書いてある時間を超過した場合は、お客様から「延長してもいいですか(=対応可能ですか?)」と聞かれることはあります。その時間を超えて、通訳を続けるかどうかは通訳者次第ですが、契約上の責務ではありません。
質問者さんの書いている「時間になったら延長の許可を取る必要があるか」という点については、気になるなら「ここから先は超過料金がかかりますが、よろしいですか」と一言確認することは可能です。しかし、聞きにくい場合は、そのまま続けて大丈夫。延長した場合の処理はエージェントが行ってくれます。
最も安心なのは事前にエージェントに「延長が発生したらどう対応するべきか、また支払いについてはどうなるのか」を確認しておくことです。
多くの場合は、例えば「終日案件で拘束8時間を超えた場合は15分単位で終日料金のXX%」というような超過料金の規定がありますので、規定に沿った対応になるでしょう。業務後にエージェントに終了時刻を報告しておけば、延長した場合の延長料金の処理もしてもらえます。(支払い明細はよく確認しましょう)
まとめると、会議の時間管理は通訳者の責任ではないので、終了を切り出す義務はありません。時間管理の責任はクライアント側にあります。不安な場合はエージェントに確認することを意識しておくと安心ですね。
通訳歴30年以上。ITやビジネス分野では日々奮闘しつつ、芸術関連の仕事に心癒される瞬間を見出している。還暦を過ぎ、これからの働き方・生き方を模索中。
英日会議通訳者。東京外国語大学タイ語科を卒業後、イタリア滞在中に通訳の仕事と出会う。インタースクールにて会議通訳コースを修了。合同会社西友、日本アイ・ビー・エム株式会社の社内通訳を経て、2009年よりフリーランスとして活動開始。特に顧客訪問や取材時の逐次通訳が得意。 Website: yamamoto-ls.com