【第14回】翻訳・通訳会社のクレーム処理「プロ通訳者のマナーって?」

翻訳・通訳会社は、翻訳者・通訳者には見えない舞台裏で様々なクレーム処理を行っています。本連載は目的は、その一部を紹介することで、翻訳・通訳会社が日々取り組む業務に関して理解を深めてもらうことです。執筆は現役の翻訳・通訳会社コーディネーター。登場人物はすべて仮名です。


皆さまいかがお過ごしでしょうか。人材不足、通訳不足と言われ久しくなっており、お忙しい日々を送っていると思います。

今回は「通訳者はありとあらゆる方面から、行動が見られているんだよ!」ということについて書きたいと思います。お久しぶりなのにきつめの内容を、お許しください。

Case 1 資料で読んでこない

パターンA

これは外資系金融A社のメディア取材でのこと。

通訳にあたり想定質問、回答も資料は揃いました。手配した通訳者は大御所の方。緊迫した取材でも堂々としていて、さすがの貫禄です。これなら安心と胸を撫で下ろした矢先の出来事でした。

いざ取材が始まると状況は一変。想定通り質問があり取材が進行しても、通訳者は用語を拾えない、訳が遅れる、これではクレームものです。お仕舞いには「資料読んできていないですね」とクライアントからの重いご指摘。

これでは流石にあの大御所然とした通訳者の態度も、鼻につきます。不評の声をいただきました。残念ながらこちらの通訳者には難易度を考えて、依頼するようになりました。

あるクライアントは、いわゆる通訳者としてのクラス上の方、下の方、両方を出して2人ペアで通訳して欲しいとリクエストしたことがありました。百戦錬磨、経験を重ね、専門知識を備えた「うまい」とされる通訳者と、そうでない比較的経験の浅い通訳者、その違いが見てみたいというご要望でした。その際クライアントからの感想で印象的だったのは、通訳の技術の上手下手、訳の精度といった通訳のことよりも、通訳者自身の態度、身の振る舞いが違うというということでした。同じ通訳をするにも、通訳者は自信なさそうにしているより、堂々としていてほしいものです。

大御所然とした態度でも肝心の通訳ができないのは考えものですが、通訳者さんの身の振る舞い見られています!

パターンB

通訳手配をしていると年に何回かどうしても手配できない日、重なる日があります。通訳者にとっても、やたら依頼が重なる日があるのではないでしょうか。

忙しい時でも引き受けてくれる頼もしいのがこの通訳者です。ある現場でコーディネーターが、大御所通訳者にいじめられているような状況でも、さっと助けてくれる。そんな優しさも持ち合わせています。お人柄もあり、いつもお忙しくしていらっしゃる印象がありました。

でも、だから・・・資料を読む時間はないのかもしれません。

この通訳者に対し「今回は資料通りに進む予定です。資料が膨大でお時間をとるかと思いますが、いかがでしょうか」とある案件を依頼しました。コーディネーターとしてはこの時期忙しいのは知っていましたが、資料確認を軽く念押しジャブを入れ、先手を打ったつもりでいました。

すると通訳者から「こちらの大手企業様の案件は、すごく興味があります。ぜひやらせてください」と二つ返事がありました。コーディネーターとしては「資料ご確認ください」と念押しの一言。当然と言えばそれまでですが、資料の多さに目を通す時間があるだろうかと一抹の不安を覚えつつ、通訳者の言葉を信じていました。

さて当日通訳が始まりました。結果、案の定と言いましょうか。準備してきていないのは一目瞭然でした。資料に目を通していないが、切り抜けるのもまとめるのも何となくうまい。これで何とか及第点には達するかと思いきや、クライアントの目はそんな小手先に騙されませんでした。ご担当者からは資料を読んでいない、流れを把握していないなど、クレームの嵐。

お人柄がいいだけに残念ですが、こちらの通訳者はクライアントからNGとなりました。というか、他のクライアントは大丈夫なのでしょうか。

Case3 態度が悪い

これは大手メーカーからWebinar会議のご依頼でのことです。

通訳者はオンラインで会議に参加します。このようなスタイルの会議で通訳者は、早めログインし入室することが要求されます。今回はコーディネーターがWebinar前の事前お打ち合わせに参加し、資料にある読み原稿追加の確認、会場の音声を実際に確認させていただきました。クライアントから通訳のパフォーマンスに関する苦情がきた場合に、通訳者の問題なのか、音声の問題なのかを中立の立場でみるためです。

パネリストが入室する前に入念な確認を行うために、VIPの秘書の方、Webinar会議を運営する方、みなさん会議にそろいました。同時通訳で通訳者は2名体制、約束の入室時間になり、通訳者Aさんはすでに入室していますが、通訳者Bさんが来ません。

通訳者Bさんは経験豊富なベテランの通訳者です。オンラインとはいえ、会場にちょっとピリピリした空気が流れます。待つこと5分遅れで入ってきたBさん、遅刻を謝る素振りもありません。唐突に

Bさん「事前打ち合わせは?」

クライアント「何か確認したいことございますか」

B「やらないならやらないでいいけど!」

同時通訳のセッティングをして、音声確認。ことなきを得ましたが、なんとも冷たい空気が流れました。何か事情のある遅刻だったのか、通訳者本人も焦っていたのでしょうか。

案件終了後、クライアントからは言われたのは、「弊社の案件ではBさんは手配しないでください。あの物言いにはがっかりました」と。Bさんの通訳パフォーマンスはいいだけに、もったいないことです。残念ですがその後、アサインされることはなくなりました。

以前も書きましたが、通訳者のアサインは会議参加者ではなく秘書の方、アシスタントの方が発注をします。大手企業では何人も秘書の方がいて、横のつながりもあります。通訳者の誠意のあるお仕事ぶりやいい評判も広がりますが、その逆も然りです。

ポイント:じわじわとご指名を頂ける通訳者というのは、資料を読み準備して仕事にのぞむこと、挨拶態度や振舞いがよいこと、どれも特別なことではなく、基本的なことができる方なのではないでしょうか。どこで誰に見られているか分かりませんので、侮らず基本的な行動を振り返ってみてください。

通訳も売り手市場だからって、クライアントをなめないでってことです!

まだまだありますが、長くなりそうなので、続きは次回に・・・