【第13回】今日も苦し紛れ!放送通訳のブースから「日本の文化用語に訳しちゃった!!」

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同時通訳では一瞬の判断で訳語を選んでいきます。迷う時間はありません。それどころか、少しでも黙ってしまうとそのまま沈黙all the wayになりそうな恐怖にかられます。聞き手のお客様にしてみれば、それほどの空白時間ではないはず。でも同通まっただ中の通訳者のアタマの中はこんな感じ:

「わっ!訳語が出てこない。どーしよー?関連用語でも何でも良いから、早よ、出てこーい!!!」

「わーん、ひねり出せない。このまま黙り込んでしまったら再起不能になるかも・・・」

「ヒント、ヒントが欲しいのよぉ!!」

マンガの吹き出しになりそうなセリフが頭の中を堂々巡りするのです。しかもその時間、コンマ数秒の間に・・・。

通訳者というのはスリリングな瞬間をも引き受けねばなりません。

さて、今回ご紹介するフレーズは2つ。いずれも苦し紛れのあまり、「日本の文化背景」の用語を当てはめた、という話題です。

一つ目はCNNの科学ドキュメンタリー”Decoded”から。最新テクノロジーを取り上げる番組で、キャスターを務めるのはロンドンを拠点とするイギリス人のAnna Stewartです。とても分かりやすい英語で、スピードも通訳者に優しい感じ。アメリカ拠点のAnderson CooperやErin Burnettのようなマシンガン超早口とは異なり、安心して訳せるキャスターです。

3月17日(日)のテーマは人型ロボット。イギリスFalmouthにあるEngineered Arts社ではAmeca(アメカ)というヒューマノイドを開発しています。ただ、このロボットは、Anna Stewartと同社CEOのWill Jackson氏が話していると、会話に割って入ってくるのですね。そのことに対して、ジャクソン氏は

Ameca is the worst-ever party guest”

と述べたのでした。これを文字通り訳せば、

「アメカは史上最悪のパーティーゲストです」

と言ったところでしょう。確かにパーティーで会話を中断する人というのは困りますよね。一方、この英語を聞いて私の頭に最初に浮かんだのが、

「飲み会には最悪」

という訳語でした。「飲み会」は日本ならではの言い回しですが、日本の場合、立食パーティーよりも「飲み会」の方が身近ですし、あの飲み会の場でワーワーと人の話を遮る人は困りもの。そんな様子を思い描いての訳語でした。

もう一つご紹介するのは、”CNN NewsNight with Abby Phillip”から(ちなみに今、この原稿を書きながら番組タイトルが”Newsnight”ではなく、”NewsNight”とNが大文字であることに改めて気づきました!)。Abby Phillipについては本稿第8回(https://www.japan-interpreters.org/news/shibahara-winging8/)でもご紹介しています。以前彼女は”CNN Primetime”を担当していましたが、昨年8月に自らの名を冠した報道番組を担当するようになったのです。

3月19日(火)で出てきたのはトランプ氏の話題。氏の振る舞い方をボードゲームMonopolyに例える解説でした。アビーは、「トランプ氏の場合、勝てないと子どもが癇癪を起すのと同様の振る舞いをする」と述べたうえで、こう続けました:

“Trump wants to simply flip the board off the table”

彼女はスタジオのデスクに座ってこれを述べつつ、両手で何かを下から上にひっくり返すようなジェスチャーをしたのですね。これを見てパッと思いついたのが、

「トランプ氏なら、ちゃぶ台返しをしたいのでしょう」

でした。ええ、「ちゃぶ台」があまりにも昭和レトロな単語であることは私も重々承知しています。でも、「アビーのあの手の動きは『ちゃぶ台返し』以外考えられない!」と私は思ったのですね。

にしても、半沢直樹の「倍返し」ならいざ知らず、「ちゃぶ台返し」などここ数年、口にしたことすらなかった私です。なぜフッと出てきたのか、不思議でたまりません。


柴原早苗(しばはら さなえ)

放送通訳者、獨協大学非常勤講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言、大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも担当。ツイッター(@Addington76)も日々更新中。