【第12回】今日も苦し紛れ!放送通訳のブースから「turning of the season」

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「〇月△日 放送通訳」「*月#日 会議通訳」という具合に、私の手帳にはスケジュールが書かれています。長年愛用しているのは見開きのカレンダータイプ手帳。一カ月を丸ごと見渡せるため、その月の予定が一目瞭然です。これを見ながら、いつ、どの業務の準備をするか考え、日々のスケジュールに落とし込んでいます。

今でこそ「締め切りからさかのぼって勉強計画を立てる」を意識できるようになりましたが、子どものころから社会人になるまでは「現実逃避派」でした。中学高校時代の定期テストなど、ギリギリまで何もせず。当時愛読していた旺文社や学研の学年別学習雑誌には「一夜漬け勉強法」なる特集もあり、そのまま取り入れていたほどでした。それから社会人を経てロンドンの大学院に留学した時は、あまりの課題の分量に毎日が現実逃避。美術館やコンサートに出かけては、「これも一般教養を身につけるため」というこじつけ理由を自分に言い聞かせていました。

ちなみに、私にとっての最大の「現実逃避手段」、それは「片づけ」でした。今も変わりません。頭の中で「やらねばならないこと」が山積みなのは百も承知。でも、取り掛かる気分になれないがゆえに、片づけを始めてしまうのです。それは机の引き出し内の文具だったり、台所の食材であったり、あるいは洋服を徹底的に見直したり、という具合。おかげで家の中のモノは随分減りました。

そのような習癖(?)があるからなのでしょう。現在欠かさず視聴しているのがBS朝日で毎週火曜夜に放映している「ウチ、”断捨離”しました!」です。断捨離提唱者のやましたひでこさんが講師となり、悩める相談者のお宅を訪問。何をどう断捨離していけばよいかを実践する番組です。先日、放送200回を迎えましたが、これまでの相談者はプロの作家、教員、会社員、元・天才子役などさまざま。どの方もモノとの付き合い方に悩んでおられます。カメラがそのお宅を訪問すると、やはりモノがたくさんあり、中でも「洋服」のお悩みが多いのですよね。

私もかつては結構洋服を持っていましたが、引っ越しや現実逃避片づけでずいぶん絞り込めました。最近は冬でも屋内が暖かく、CNNのスタジオなど機材の放熱もあるため、真冬でも袖なしを着るほど。よって、私はトップスもすべてハンガーでクロゼット内に吊るし、季節の入れ替えをしないまま着続けています。

さて、ようやくここで今月の本題、「苦し紛れ」通訳です。

今回ご紹介するのは、CNN Newsroomというニュース番組から。キャスターは元ホワイトハウス担当のJim Acosta記者です。アコスタ記者はトランプ政権時代のホワイトハウス担当であり、トランプ氏から大いに敵視された経験があります。何しろ鋭い質問をひるむことなく尋ね続けたがゆえに、トランプ氏ににらまれてしまったのです。ガッツのある記者であります。数年前からはスタジオでニュースを担当するようになりました。

1月29日の当番組で話題になったのが、Joe Manchin(ジョー・マンチン)というアメリカの民主党上院議員。共和党とも近い政治家です。マンチン氏は、かねてから「24年の議会選挙には立候補しない」と述べていました。すると、「では大統領選に出馬か?」とのうわさがたったのですね。その話題も下火になっていたのですが、またもや1月末にマンチン議員の出馬が取りざたされたのでした。

この日のニュースでアコスタ記者は専門家に対し、同氏の出馬の有無について尋ねました。するとゲストから以下の答えが返ってきました:

“I feel like every three or four months.  It’s sort of like turning of the season.”

マンチン氏のニュースは、出たかと思うと静かになり、の繰り返し。その状況を上記のように説明していたのです。

この2文を聞いた私の訳出、それは、

「3,4カ月ごと。まさに衣替え的な感じがします。」

でした。後半部分を文字通り訳せば「季節の変わり目のような感じ」となるでしょう。しかし、何しろCNNはスピードが命!「確かに衣替えは夏服・冬服の年2回だけだから、四季とは異なるなあ。でも、いいや!ここは『衣替え』で行こう!」と脳内の私は叫んで(?)いたのでした。

私の場合、オールシーズンの服をすべてハンガーがけという年中無休状態ではありますが、「衣替え」ということばは、中学高校時代の制服を思い起こさせるものなのですよね。今回、同時通訳をしながら懐かしき母校の制服を記憶の底からたぐりよせた・・・というような余裕は一切ありませんでしたが(笑)、「衣替え」という単語は季節感があり、私の好きなフレーズになっています。


柴原早苗(しばはら さなえ)

放送通訳者、獨協大学非常勤講師。上智大学卒業。ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言、大統領就任式などの同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも担当。ツイッター(@Addington76)も日々更新中。