【第12回】お悩み別、通訳者のためのガジェット活用・仕事術

平山敦子さん

はじめに

「通訳のトビラ」を開けてこの世界に足を踏み入れたばかりの方々が日々抱える数々のお悩み。今回はその中から三つを取り上げて、通訳界のガジェットヲタク?!がアプリや便利グッズの活用で一発解決します!

お悩み1「もっと仕事が欲しい!」

スキルを磨き、仕事の幅を広げたり、リピーターを増やしたり。時間はかかりますが、仕事を増やす道のりとしては、これが理想ですよね。でも実力が今のままで、たった一つ変えるだけで仕事が目に見えて増える簡単な方法があるのです。それは「派遣会社のメールに必ず5秒以内で返信すること」。正確には「メールを見たら」または「手が空いたら」5秒以内。大切なのは、断りの連絡もOKの返事と同じように迅速に返信することです。しかも相手がビックリするくらい速く。

これを1カ月も続けると「あの人に聞けばすぐ結果が出る」というイメージが浸透します。「いつも迅速なお返事ありがとうございます」と返ってくれば、しめたもの。派遣会社のコーディネーターも人の子、早くその件を片付けて次の仕事に移りたいのです(笑)。同レベルの誰がやっても良いような仕事は真っ先に回ってくるようになりますよ。

こんな時に便利なのが、スマホのユーザー辞書。固有名詞を登録する方も多いと思いますが、かなりの長文にも対応可能なのです。例えば「あいてる」と入力するだけで「いつもお世話になっております。お問い合わせの日程(*日付を入力)空いておりますよ。用件のみで恐縮ですが何卒よろしくお願い致します」こんな長い文も変換候補から選ぶだけで一発入力!このほか「別件と重なって請けられない」「至急確認します」など、色々なパターンを登録しておけば、丁寧なメールも文字通り5秒で返信できてしまいますよ。

お悩み2「スケジュール管理が大変!」

フリーランスになると、毎日たくさん仕事の問合せや連絡のメールが届くようになります。「仮」の問い合わせにOKしたと思ったら、同じ日に指名のリクエストが入ってきたり。案件がキャンセルになったり復活したり、場所や日時が変更になったり。そんな中、ダブルブッキングや、場所・時間の間違いなんて絶対にあってはならないし、収入に直結するから予定に穴はあけたくない。スケジュール管理って本当に大変ですよね。

予定をスマホのカレンダー機能で管理している方も多いと思います。メールの日付をクリックするだけでカレンダーに登録できて便利ですね。でも、その仕事の連絡事項が書かれたメールを後から確認したくなった時、過去のメールの山から探し出すのは一苦労。

そこでお勧めなのが、メールアプリの「スヌーズ」機能です。仕事のメールを前日の正午などでスヌーズ設定しておくと、その時刻にメールが届くとともに、スヌーズボックスから自動的に削除されます。だからボックスに残っているのは常に今後の仕事のメールだけ。しかもスヌーズを設定した日付順、すなわち業務日の順に表示されているので超便利なのです(キャンセルやリスケされたら削除や再設定を忘れずに!)。

最近はメールをLINEのようなチャット形式で表示するアプリもあり、過去のやり取りの経緯を確認したい時に重宝します。「メールアプリ」「スヌーズ」「チャット形式」などのキーワードで検索し、好みのものを探してみてください。私はiPhoneユーザですが、スケジュール登録は純正メーラ、スヌーズは「Spark」(アンドロイド非対応)、チャット表示は「Hop」(アンドロイド版はこちら)と複数を使い分けています。

どんなメールアプリでも、入れたらまず最初にやるべきことがあります。それは過去のメールの整理。不要なメールは「削除」、とっておきたいものは「アーカイブ」して、受信ボックスを一旦空っぽにすること。一手間かかりますが、これがアプリを上手に使いこなすコツです。それ以降、新たに届いたメールは必ず「削除」「永久保存(アーカイブ)」「スヌーズ」いずれかを行って、受信ボックスには常に未処理のものだけが残るようにします(私は当日の仕事のメールを受信ボックスに残し、終わったらアーカイブしています)。

カレンダーアプリは複数の日付にまたがる予定を帯表示できるものがお勧め。予定を色別に表示するものは、仮の問い合わせは「青」、確定したら「赤」など、色で管理できて便利です。私は「さいすけ」を純正カレンダーに連携させています。(アンドロイドならStaccalなどが似ています。)

お悩み3「怖い先輩が苦手!」

怖い先輩に限らず、ペアを組む時に最も注意すべきこと、それは、相手の「邪魔をしないこと」。特に雑音はご法度です。紙をめくる音や咳払いはもちろんのこと、タイマーや電子辞書の電子音が鳴るなどはもっての外!今すぐ鳴らない設定に変えましょう。キッチンタイマーは小さなドライバーでネジをゆるめてパカッと開けると、ボタン電池のような円盤状の部品があります。それがスピーカーです。このワイヤーをどれでも1本、ハサミで切ってしまいましょう。大丈夫、爆発しません(笑)。

ケースを元通りネジで締めて完了。タイマーの動作には影響ありませんからご安心を。(万が一破損した場合、筆者もアルクも責任を負いかねますのでご自身の判断でお願いします)購入検討している方は、「学習用」タイマーがお勧め。ドリテック(右の写真参照)やNottyは消音スイッチがついているだけでなく、光でお知らせしてくれます。

交代時間は原則として「訳している方が管理」するのがフリーランスの不文律です(社内通訳の方はその会社のルールに従ってくださいね)。とはいえ、2分3分と超過する場合、夢中で気づいていない可能性も。そんな時は自分のタイマーの画面を「さり気なく」相手のほうに向けてアピールしましょう。でもこれはあくまで原則。厳しい上下関係で有名な某老舗スクール卒業生の通訳仲間に確認したところ、彼らは「常に先輩が管理」だそうですよ。間違っても怖い先輩からマイクを奪わないように(笑)。

また、自分の出番でない時にメモ取りの練習をしている方、今すぐやめましょう!せわしない手の動きやコツコツとペンが机に当たる音はパートナーにとって集中の妨げとなるばかりか、そんな練習でメモ取りは絶対に上達しません。

逐次通訳のメモ上達の鍵は、耳・頭・手の力配分です。耳から入った情報の何%を記憶し、書き留め、耳に残る残像を使うか。書き留める場合は、どの程度簡略化し、文字を崩すか。その「加減」や「按配」において「これなら訳せる」という自分なりのベストバランスを見つけること。その答えを探すには、実戦でも練習でも、とにかく訳してみないと始まらない。「訳出」という「検証」のない取りっぱなしのメモは、答え合わせをせずに問題集を解いてばかりいるようなものです。

サポート用メモは、自分が訳している時に取るメモと目的も性質も異なります。パートナーの邪魔にならないように自分の手元で、相手の位置からも見えるように大きくハッキリ書きましょう。「万が一必要なら見てね」。そんなスタンス。固有名詞や数字が基本ですが、それ以外も相手が助けを求めるしぐさをしたら、見やすい字でサッと書いて差し出します(自分も知らない単語なら辞書を引いたりネット検索したりしてくださいね)。資料に書いてあればその箇所を指で示してあげましょう。

恥を忍んで、私のメモを晒します(笑)。左がサポート、右が自分用です。違いは明白ですね。右のようなメモをせっせと取って見せられても、パートナーは何が書いてあるか分かりません。

慣れてくると、スピーカーの訛りや話すスピード、パートナーの得意分野や熟練度、仕草や反応で「あ、ここは助けてあげたほうがいいな」ということが何となく分かるようになってきます。サポートが上手にできるようになると、何故か通訳も上達しますよ。私も昔怖かった先輩方の多くが今では楽しい通訳仲間です。

おわりに

皆さんもぜひ、便利な道具を使いこなしてたくさん良い仕事してくださいね。この記事が少しでもそのお役に立てれば幸いです。

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平山敦子さん

Profile/

会議通訳者。得意分野は軍事、司法、IT、自動車など。著名人の講演通訳も多数。学生時代にアルバイトでプロ通訳者の仕事ぶりを目の当たりにし、これこそが目指すべき道と決心、今日に至る。

通訳界では知る人ぞ知るガジェットおたく。「ガジェットは通訳者にとって邪道ではない。鍛えぬかれた兵士だからこそ最高の装備を!」の信念のもと、通訳パフォーマンスを最大化してくれる優れモノの道具を求め日々研究中。