第7回 JACI同時通訳グランプリ 入賞者の声
【学生部門】

グランプリ 松田佳奈(国際基督教大学)
この度は、JACI同時通訳グランプリという名誉ある賞をいただき、大変光栄に思っております。
地元であるアメリカ・アリゾナ州で行われた裁判において、日英通訳の現場を目にしたことがきっかけで、「自分の知っている言語を使って誰かの力になりたい」と思うようになり、通訳者を志して国際基督教大学に入学しました。大学では日本語を学びながら、半年前に初めて通訳の授業を履修しました。それ以来、いくつかの貴重な同時通訳の機会をいただき、通訳の難しさや重要性、そして何よりもその楽しさを日々実感しています。
今回のスピーチは、どちらも話し手の方にとって身近で大切なテーマであることが伝わり、その思いに寄り添いながら準備を進めてきました。話し手にとって一つ一つの言葉がどのような意味を持つのかを想像し、その気持ちを丁寧に伝えたいという思いで、今回の同時通訳に取り組ませていただきました。このような貴重な機会を提供してくださった運営スタッフの皆様、スピーカーの皆様、本選出場者の皆様、そして審査員の皆様に、心より御礼を申し上げます。
日頃からご指導くださり、とにかく挑戦してみるようにと背中を押してくださる田村智子先生。同時通訳ブースや夜遅くまでの勉強会を通して、通訳への情熱を共有してくれる仲間たち。何度も練習に付き合ってくれる家族の支え。そして何よりも、このような機会と通訳に対する愛を与えてくださった神様に、この場をお借りして心から感謝申し上げます。
これからも、人の「心」を伝えることのできる通訳者を目指して、全力を尽くしてまいります。本当にありがとうございました。

準グランプリ 小松あろは(ミドルベリー国際大学院モントレー校)
このたびは、JACI同時通訳グランプリで準優勝という評価をいただき、大変光栄に思います。去年に引き続き優勝を目指して臨んでいただけに、正直なところ悔しさもありますが、同時通訳という高度なスキルを競う中で、「通訳者に一番求められているのは何なのか」など、多くの学びと気づきを得ることができました。
来年からは社会人として新たな道を歩み始めますが、この大会で得た経験を自分の糧として、今後も言語や言葉に向き合い続けていければと思っています。審査員の皆さま、ご指導くださった先生方、そして運営に携わってくださったすべての方々に心より感謝申し上げます。
■指導教員 田村智子 国際基督教大学准教授 (通訳翻訳学)
第7回JACI同時通訳グランプリで、国際基督教大学 (ICU)メディア・コミュニケーション・文化メジャー「通訳コース」で私の現在の教え子である松田佳奈さんが見事優勝されましたこと、心からの祝福を申し上げます。今回「学生の部」の最終選考者4名、井原菜緒さん、小松あろはさん、岡崎桃子さん、そして松田佳奈さんの全員が教え子でしたので、教師冥利だった一方、教え子同志の決勝バトルということで、少々ハラハラしながら全員の同通を拝聴。最年少で通訳コース開始も2024年の12月からだった松田さんが今回先輩達を相手に大健闘されました。
通訳訓練に携わって35年、ICUの通訳コース担当は今年で8年目ですが、「通訳に適した最重要資質」の1つは「即時の決断・速攻力」だと常に感じます。私には学内外の関係先から常時「同通可能な学生の紹介依頼」がきます。無償のエージェント業務ですが、こちらも本職で多忙ゆえ「即」訓練生に「同通急募」メールを送信すると、「即」「是非担当させて下さい」という返信を送ってくる訓練生が必ずいます。今回優勝した松田さんしかり。過去にJACI同通グランプリで入賞した教え子達全員もしかりです。「業務の詳細は分からなくとも」まず「是非やりたい」と「即、水の中に飛び込む」資質です。通訳業務は300%事前準備をしても常にサプライズが伴う仕事。「全てを事前に完全把握」できずとも適宜その場で「即」最善の判断をしていこうという勇気に基づく「速攻力」は、まさに重要な資質だと思います。JACI同時通訳グランプリは、そのような資質を備え「異文化間・異言語間の橋渡しのプロ」たらんとする学生達が切磋琢磨するための理想的なプラットフォームです。
今回も主催者であるJACIの関係者、審査員の皆様、そして今回のICU生グランプリ出場を支援して下さったJICUF(日本国際基督教大学財団)に心より感謝申し上げます。
【一般部門】

グランプリ 赤染 輝羽音乃
何かで一番になったのは、これが初めてのことです。
子供のころから人の気持ちを敏感に感じ取り「こういう話し方で、こういう言葉を使うと、きっとこんな反応をされる」と常に想像して、人に気を使ってばかり。十代の頃は感情移入しすぎて気疲れすることも多かった私ですが、どうやら通訳が向いていたようです。
とはいえ、この他者の視点に立つ癖が、自分の未熟さを鋭くえぐることもあります。この感受性は諸刃の剣のようですね。百貨店や大手自動車メーカーのショールームなどサービス業で叩き込まれたお客様目線から、自分のパフォーマンスを振り返っては「なんて下手なんだろう」「お客様にお金をいただいているのに『我慢していただく』ような聞き苦しい通訳を聞かせるなんて」と、おなかの中が燃えるような苦しみに身もだえすることがよくありました。まだ駆け出しのくせに、自分の拙い訳が申し訳なくて、何度か通訳を辞めたくなってしまったほどです。
だからこそ、グランプリをいただけるなんて、夢にも思っていませんでした。
正直に申しますと、このような栄えある賞をいただけたことがいまだに実感として自分の中にありません。ファイナリストの中で私がとびぬけて上手だったわけではなく、たまたま準備をする時間があり、ヤマが当たり、運よく実力を発揮できただけのように思います。
この手元に偶然、栄光が転がり込んできたような感覚です。
おそらくこの栄誉は、私よりも一生懸命にゲン担ぎをしてくれた母にふさわしいように思います。予選の段階から、やたらと『日本に十数人しかいない茶師十段のお茶』やら『何かしらの賞を取ったお米』やらを何種類も、それからのどに良いからとハチミツを数えきれないほど集めてくれました。
そんな母に無意識に影響されたのか、決勝戦の前日に立ち寄ったお店で私が偶然買った納豆ふりかけには『全国ふりかけグランプリ 金賞!』と書いてありました。それに気が付いたとき、なんだかおかしくて食卓で肩を震わせたものです。
この同時通訳グランプリという場にはただ感謝しかありません。
予選前の準備講座に始まり、ファイナリストのペア発表などを経て、素晴らしいご縁をいただけたのは全てJACIのおかげです。憧れのベテラン通訳の方々と貴重なご縁をいただくことや、同じような境遇の通訳者と交流をすることは、オンラインで完結することが多いこの時代には難しいことです。
素敵なスピーチをしてくださったスピーカーのお二方に、優劣のつけがたいパフォーマンスと真摯に向き合い、審査をしてくださった審査員の皆様。大規模な大会で、大変な思いをしながらも無償で運営をしてくださった事務局の皆様。激励の言葉をかけてくださった先輩方や、応援をしてくれた家族や友人。視聴観戦いただいた皆様。そして、厳しくも愛のある通訳指導をしてくださったNHKグローバルメディアサービス 国際研修室の先生方。心より感謝申し上げます。
皆様からいただいたこの賞に恥じない通訳者になれるよう、精進を続けます。

準グランプリ ブライアン・デイ
この度は、JACI同時通訳グランプリで準グランプリを受賞できましたことを大変嬉しく存じます。
本大会に関わられたすべての方々に心より感謝申し上げます。
今回の一般の部ではなんと、元クラスメイト・今クラスメイト・昨年のグランプリ挑戦者と、皆つながりのある仲間と一緒に挑戦する機会に恵まれました。一人ひとりの持ち味を知っているからこそ緊張しましたが、そんな中での受賞を心から光栄に存じます。これからもそんな貴重な仲間と挑戦を続けたいと思います。
私は通訳の魅力を「完成形がない」点に感じます。常に学び続け、人生の変化や移り変わりが醸してくれる感性を通訳に反映させることで、自身の通訳の「持ち味」が変わっていく。今回のグランプリでその実感をより深めることができました。AIがますます進化する時代だからこそ、日英・英日両方の基本的な研鑽を積むとともに、「人間臭い」持ち味のある通訳者を目指して邁進したいと思います。
この貴重な機会を提供してくださった実行委員会や審査員の皆様、新しい文化や視点を紹介してくれたBethan Jones様とマイヤーズ若菜様、良い刺激を与え続けてくれている競技者の仲間たち、そして視聴いただいた皆様に感謝を申し上げます。
【実行委員長のメッセージ】
日本会議通訳者協会理事 小野陽子
JACI同時通訳グランプリも今年で7回目を迎えました。本年は大きなトラブルもなく、比較的スムーズに終えることができたと胸をなでおろしております。
改めまして、本年も長時間にわたる審査をご担当くださった以下の審査員の皆様に、心より御礼申し上げます。
鶴田知佳子様(JACI名誉会員/東京外国語大学名誉教授)、中山貴子様(株式会社コミュニケーターズ 代表取締役)、工藤浩美様(株式会社テンナイン・コミュニケーション 代表取締役)、桃原則子様(有限会社M & Partners International 代表取締役)、木村由貴子様(株式会社ブリジック 代表取締役)、トム・エスキルセン様、マクウィリアムス・フリィ様、森田系太郎様(シミック株式会社 社内通訳者)
通訳業界を牽引されている皆様に貴重なお時間をいただき、多角的な視点から丁寧な審査をしていただけることに、毎年感謝しております。本年はプログラムが予定より早く進行し、審査時間を多く確保することができました。それでも結果発表は当初の予定通りであったことから、審査員の皆様が時間をかけて丁寧に議論を重ねてくださったことがうかがえます。皆様の真摯なご姿勢に改めて敬意を表します。また、本大会のスポンサーであるバルビエコーポレーション株式会社様にも心より感謝申し上げます。
また、今年の英語スピーチではBethan Jones様が「The National Eisteddfod of Wales」について、日本語スピーチではマイヤーズ若菜様が「通訳者、親としての視点からのインターナショナルスクール教育」という非常に興味深いテーマでご講演くださいました。どちらもファイナリストたちの実力を存分に引き出す内容だったと思います。ご多忙の中、スピーチをご快諾くださり、同じ内容を二度にわたって安定した語り口でお届けくださったことに、心より感謝申し上げます。
今年のグランプリは、学生の部が松田佳奈さん(国際基督教大学)、一般の部が赤染輝羽音乃さんでした。おめでとうございます!決勝に残るだけでも素晴らしい偉業ですが、そこでさらに頭ひとつ抜け出すというのは、実力だけでなく本番に強いメンタルや運も含めた総合力の証だと思います。今後のさらなるご活躍を楽しみにしています。
また、本年は事前登録130名、当日の参加者は約100名と、専門性の高い大会でありながら、引き続き多くの方にご関心をお寄せいただけたことを嬉しく思っております。登録締め切り後に視聴希望の問い合わせもあったくらいです。地道な取り組みではありますが、今後もより多くの方々に本大会の魅力を伝えられるよう工夫してまいります。
最後に、ご視聴くださった皆様にも心より感謝を申し上げます。皆様の存在が、ファイナリストたちに程よい緊張をもたらし、本番で力を発揮する後押しになったことと思います。グランプリでのファイナリストの同時通訳を聞いて、「ぜひスカウトしたい」というエージェントの皆様は、ぜひJACI同時通訳グランプリ運営事務局あてにご連絡いただければと存じます。 <grandprix@japan-interpreters.org>
来年もさらによい大会を目指して尽力してまいります。今後とも、JACI同時通訳グランプリをどうぞよろしくお願いいたします。