山田優

【第10回】通訳翻訳研究の世界~翻訳研究編~「翻訳調」とはどんな訳文なのか

今回は「翻訳調」についてお話します。さっそくですが、「翻訳調」を辞書で引いてみると、以下のようにありました。外国語の表現が、そのまま日本語に直訳されているような独特の表現。また、そのような文体の作品(三省堂 大辞林 第三版, Weblio より)。つまり翻訳調とは直訳のような翻訳であることがわかります。具体的に、以下のヘーゲル著『精神現象学』の二種類の訳を比較してみましょう。 ① 最初に或は...

【第8回】通訳翻訳研究の世界~翻訳研究編~翻訳者の「検索能力」を検証

今回は「翻訳者の検索操作」についてお話します。翻訳者は正確に、よりよく翻訳するために、原文を読込み深く理解する必要がありますが、そのためには、調査や調べ物をすることが必須になります。第6 回で「翻訳プロセス」のお話をしましたが、今回はプロ翻訳者の「ウェブ検索」についての実証研究結果を紹介します。 情報検索能力の必要性 翻訳のために調べ物をする力、すなわち「情報検索能力」は、プロ翻訳者に要求され...

【第6回】通訳翻訳研究の世界~翻訳研究編~翻訳プロセス研究とは

この連載の「翻訳研究」を担当している関西大学の山田優です。今回は私の研究の関心のひとつである「翻訳プロセス研究」についてお話します。 訳出行為と翻訳的行為 翻訳プロセスとは、狭義では、翻訳者が起点テクスト(原文)をもとに、別の言語の目標テクスト(訳文)を産出する認知活動になります。平たく言えば、原文を読みはじめてから、訳し終わるまでの翻訳者の頭の中の活動です。翻訳者が実際に翻訳をしている最中の...

【第4回】通訳翻訳研究の世界~翻訳研究編~順送り訳と情報構造

順送り訳とは この連載では通訳と翻訳に関する研究を紹介していますが、今回は通訳と翻訳の両方に関係する〈順送り訳〉について考えます。まず、下の英文を訳すことを考えてみましょう。 I came to Paris to escape American provincial. 文脈的要素を排除して訳すと、to escape 以下が不定詞の目的用法となり「アメリカの田舎から逃げるために、パリに...

【第2回】通訳翻訳研究の世界~翻訳研究編~翻訳研究とは?スコポス理論とは何か?

はじめに 当連載の「翻訳研究編」を担当する関西大学の山田優です。現在、大学で翻訳の理論と実践を教えながら研究に取り組んでいます。大学に来る前は、実務翻訳者として仕事をしていました。社内翻訳者時代を含めると、15年以上翻訳実務に携わってきました。 研究や理論というと、実務や実践とは関係ないと思われるかもしれませんが、私は実務翻訳者としての経験から疑問に感じたことを研究のテーマにすることが多い...